第31回甲府地方・家庭裁判所委員会議事概要

日時
平成30年10月15日(月)午後2時から午後4時まで
場所
甲府地方・家庭裁判所大会議室
出席者
地方裁判所委員・家庭裁判所委員(五十音順)
河田委員,久津間委員,小林(明)委員,小林(康)委員,五味委員,櫻井委員,信田委員,杉森委員,辻村委員,土橋委員,中島委員,平嶋委員,豊前委員,細田委員,堀内委員,丸山委員,渡辺委員
甲府地方裁判所
岡崎民事首席書記官,更科刑事首席書記官,武田刑事訟廷管理官,枦山刑事部主任書記官,望月事務局長,本田事務局次長,関塚総務課長,中島総務課課長補佐
甲府家庭裁判所
石川首席家庭裁判所調査官,福本首席書記官,田崎事務局長,青木事務局次長,石丸総務課長,後藤総務課課長補佐(書記)
議事テーマ
裁判所における障害者への配慮について
(次回期日及びテーマは今後調整)

1.新任委員の挨拶
新任の森元委員,櫻井委員,細田委員からそれぞれあいさつがあった。

2.新委員長選任等
(1)地方裁判所委員会委員長選任
地方裁判所委員の互選により細田委員が委員長に選任された。
(2)家庭裁判所委員会委員長選任
家庭裁判所委員の互選により細田委員が委員長に選任された。
(3)各委員長代理指名
細田委員長により,地方裁判所委員会委員長代理に丸山委員が,家庭裁判所委員会委員長代理に櫻井委員がそれぞれ指名された。

3.今回のテーマである裁判所における障害者への配慮について
(1)まず,甲府家庭裁判所石丸総務課長から,「裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」の趣旨や甲府地方・家庭裁判所本庁及び甲府簡易裁判所合同庁舎等におけるバリアフリー対策などについて説明があった。

(2) 次に,甲府地方裁判所武田刑事訟廷管理官,枦山刑事部主任書記官から,裁判所における障害者配慮のための各機器の説明があった。

(3) その上で次のとおり質疑応答,意見交換がなされた。
(発言者 ■:委員長,○:委員,□:裁判所)
■ 本日は,質問や意見,各委員の所属先での取組や工夫例などを伺い,今後の裁判所における取組に参考にさせていただきたい。

○ 紹介された機器の中には,自分の所属先にも欲しいと思うような機器もあった。裁判所に盲導犬や聴導犬を連れて入ることはできるのか。
□ 都留支部で,傍聴人が盲導犬を連れて法廷の傍聴席に入ったケースがあったと聞いている。盲導犬や聴導犬などの身体障害者補助犬については,申出があれば庁舎内に連れて入ることはもとより,各裁判体の判断で法廷内に連れて入ることも許可している。

○ 障害者に対して最も配慮を要する場面は,法廷内の音声でのやりとりではないかと思う。聴覚障害者に対する補聴器等の機器の整備以外に,補聴器で対応できない程度の方のために手話通訳者を入れるケースはあるか。その場合,手話通訳者が不適切な通訳をしたときに裁判当事者が不利益を受けることがないようにする,手話通訳者の技量の保障はどうなっているか。裁判当事者ではなく,聴覚障害を持つ傍聴人が手話通訳者を希望した場合の対応はどうなっているのか。
□ 当庁の刑事事件では,手話通訳者を必要としたケースの報告事例はないが,他庁の裁判員裁判で,聴覚障害を持つ裁判員のために手話通訳者が入ったケースが報告されている。技量の保障については難しいところである。また,傍聴人の手話通訳者を裁判所があっせんすることは,一般的には難しいところではあるが,傍聴人が市町村などの援助で手話通訳者を同行することを許可したケースが報告されている。いずれの場合も,ケースバイケースで,各裁判体が判断することとなる。
■ 手話通訳だけでなく,日本語が話せない裁判当事者に対応する場合にも,裁判所としては,通訳人が訳しやすいように,明確なメッセージを発するように留意することが重要であり,聞いている方が理解できていないような様子が見受けられた場合には,平易な表現で言い換えるなど,裁判所としても工夫するように心がけている。手話ができない聴覚障害者に対しては,要約筆記者を活用する余地もあろう。

○ 音声認識ソフトは近時では相当正確になってきているが,音声認識ソフトを使用して音声でのやりとりを文書化することはどうか。また,新たな機器やソフト等の使用については,各庁が整備を検討するのか,それとも裁判所全体としての整備が検討されるのか。
■ 機器等の整備には予算の確保が必要となるため,裁判所全体で整備を進めることも多いと思われる。また,音声認識ソフトは,一部で導入されているが,法廷での複雑なやり取りを正確に文書化するには,技術上の課題が多いと聞いている。今後,技術の発展や社会全体の流れにアンテナを張りつつ,どのような配慮が裁判所としてできるかを検討していきたい。

○ 設備,機器の整備はよく配慮されているという印象であった。障害者に対面で対応する際の配慮については,どのような点に留意しているか。
□ 受付カウンターには老眼鏡やルーペ,簡易筆談器具などを整備し,障害の程度に応じて対応している。補聴器も備え置いている。
○ そのような機器で対応できない方にはどのような対応をするのか。
□ 正面玄関に総合案内があり,来庁者が歩行困難な様子であれば車いすの利用を促したり,総合案内での情報を用務先に伝えるなどして対応している。また,事前に相談窓口に相談があれば,障害の程度に応じて対応を検討することになる。
□ 家庭裁判所では,事件類型によって当事者に提出していただく「照会回答書」に配慮を希望する事項について記載する欄を設けていて,記載されたことを参考にしながら,事前に打ち合わせるなどして対応している。
■ 適切に配慮するためには,来庁者から事前に要配慮事項について知らせていただくとありがたい。
□ 裁判員候補者に対しても,事前に送付する調査票で要配慮事項について照会し,配慮すべきことがあれば対応している。

○ 裁判員を選任する際に,障害があることを理由に裁判員候補者から除外したり,辞退を認めることはあるのか。
□ 障害があることを理由に裁判員候補者から除外することはない。裁判で判断すべき事項によっては難しいこともあるかもしれないが,障害があっても参加できるように配慮している。
○ ハード面の整備は進んでいるようだが,ソフト面はいかがか。例えば,視覚障害者には点字の書面を送付するようだが,重ねて電話で連絡や確認するなどの対応はしているのか。
□ 情報収集した上で,障害の特性に応じたフォローをするようにしている。

○ 階段に高低2段の手すりが設けられていたが,庁舎内の廊下にも手すりがあった方がよいのではないか。
■ 今後の庁舎の改善に向けた貴重な御意見である。

○ 障害者に対応する設備や機器は整備されているが,さらに,障害者だけでなく高齢者対応も含め,今後どの程度充実させられるか。現状では障害者用の駐車スペースにカーポートがないが,車いすの場合は乗降に時間を要するため,雨天時に濡れないよう屋根が設置されていた方がよいのではないか。また,多機能トイレにレインボーマークを表示してLGBTの方も使用しやすくすることはどうか。障害には様々な特性があり,配慮していけばきりがないかもしれないが,裁判所がここまで配慮しているというメッセージを出していくことも一つかと思う。職員が研修で障害を体験することは非常に効果的だと思った。専門的に障害者を支援する職員を設けることはいかがか。
■ 専門的に障害者支援を担当する職員を設けることはしていないが,総務課に相談窓口を設けている。裁判所の場合は,全職員が障害者に対応する可能性があり,全職員が障害者に対応するプロフェッショナルでなくてはいけないと考えている。
○ 高齢者は足腰が弱いが,雨の日にエントランス等で転倒しやすくはないか。庁舎の入口に点字ブロックのほかに,転倒防止のための滑り止めを設置してはどうか。
■ 今後の改善に生かしたい。

○ 精神障害への対応はいかがか。
□ 一般的には,刑事事件では捜査機関等から事前に情報が入ってくることがあるので,情報に沿って対応を検討している。
□ 家事事件では,精神科の医師が非常勤職員として置かれており,事案に応じて活用することが可能である。対立当事者同士が直接顔を合わせると精神的に負担が大きい事案であれば,来庁時間をずらすなど,精神的負担を軽減するように対応している。
○ 調停事件では,精神障害について事前情報がない場合が多い。紛争中の当事者には精神的な問題を抱えた方もおられ,配慮を要する必要などを感じた場合には,速やかに調停委員会で評議して対応を検討している。過呼吸を起こすなど精神的に不安定な方もおられるので,調停に携わる者としては,細心の注意を払いながら対応している。
■ 車いすの裁判員がおられたケースでは,裁判員同士で協力し合って車いすを押すなど自然にフォローしておられ,一般市民の障害者に対する意識の高さに感心したことがあった。

○ 検察庁は,裁判所のような国民に開かれたリーガルサービスを提供している庁ではないが,今後,裁判所の障害者対応も参考にしたい。ただし,検察庁もバリアフリー化されており,多機能トイレや授乳室は整備されている。
○ 弁護士会には多機能トイレが設置されていて障害者に配慮されているが,個人事務所では段差があったり,通路が狭くて車いすの来所者が入れないようなことがあったため,その際は弁護士会館を使用するなど配慮した。