裁判所を悪用した架空請求事件にご用心

 最近,新聞,テレビ等の報道で,少額訴訟手続や支払督促手続といった簡易裁判所の手続を悪用して架空請求がされたというニュースを見聞きされた方も多いと思います。これらの手口は,「身に覚えのない架空請求はそのままほおっておけばよい。」という皆さんの認識を逆手に取るものです。

 これら報道された「少額訴訟手続」「支払督促手続」とは,簡易裁判所における一般市民間の紛争解決のために設けられている手続ですが,ここでは,この「少額訴訟手続」や「支払督促手続」といった簡易裁判所の手続を簡単に説明し,併せてこれらの手続を悪用した架空請求を受けた場合の対処方法をお知らせします。

少額訴訟手続

 少額訴訟は,一般市民間の少額の金銭を巡るトラブルをその金額に見合った経済的負担で簡易かつ迅速に解決するために平成10年の民事訴訟法改正で簡易裁判所に認められた特別な訴訟手続であり,60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて利用することができます。

 通常の民事裁判では,審理を複数回重ねることがありますが,少額訴訟は,原則として1回の審理で裁判を終えてその日のうちに判決を言い渡す手続で,平成10年に導入されてから年々その申立件数が増加し,富山地裁管内の簡易裁判所でも,交通事故の物損請求や売買代金等の金銭請求に主に利用されています。

 民事裁判を起こすためには裁判所に請求の内容や理由を記載した「訴状」を提出しなければなりませんが,少額訴訟は,一般の市民を主な利用者として想定していることから,貸金など一定の請求については,書込み式の定型訴状を簡易裁判所の窓口に備え置くとともに,訴状の記載方法や必要な書類などについて窓口相談に応じています。

 少額訴訟が提起された場合には,裁判所は審理の期日を決めて,当事者双方を期日に呼び出すことになります。1回の審理で裁判所が判決をするため,当事者双方は,当日までに自分の言い分が正しいことを証明する文書(借用書,領収書など)や証人の準備をしなければなりません。審理の結果,請求に理由があると裁判所が認めた場合でも,債務者の事情により3年を超えない範囲内で分割払や支払猶予の定めをすることもあります。

 少額訴訟手続によって言い渡された判決に対しては,異議の申立てができます。異議の申立てがあった場合には,もう一度同じ裁判所で審理をやり直して再度判決を求めることができます。しかし,異議後の判決に対しては,原則として不服申立てはできません。

 なお,平成17年4月1日から,少額訴訟手続による判決や和解により支払を命じられた債務者が支払をしない場合には,審理をした簡易裁判所の裁判所書記官に申立てをし,債務者の給与等の金銭債権を差し押さえて強制的に支払を受ける少額訴訟債権執行手続が新設されました。

 少額訴訟の定型訴状の種類や訴えの方法等については,最寄りの簡易裁判所にご相談ください。

支払督促手続

 支払督促は,事実関係に争いのない事案であれば,比較的簡単な手続(証拠不要),安い費用(手数料は通常訴訟の半額)で判決を受けたのと同一の効果を簡易迅速に得ることができる手続であり,主に金銭の給付(金額に制限はありません。)を目的とする請求について利用される手続です。

 支払督促の申立ては,相手方(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して行います。富山地裁管内の簡易裁判所では,貸金などの請求について,書込み式の定型申立書を備え置くとともに,申立書の記載方法などについて窓口相談に応じています。裁判所書記官は,支払督促の申立てがあると,原則として申立書の書面審査だけを行い,申立てが不適法であるとき,又は申立書から請求に理由のないことが明らかなときを除き,相手方(債務者)から事情を聴くことなく支払督促を発付します。相手方(債務者)は,その支払督促を発付した裁判所に対して2度異議を述べる機会があり,異議が述べられると通常の訴訟手続に移ることになります。

架空請求による少額訴訟の訴状が送られてきたら

 少額訴訟の訴状は,差出人として裁判所名を表示した封筒に,裁判所に出頭を求める期日呼出状,少額訴訟手続についての説明書,書込み式になっている答弁書用紙と共に特別送達(書留郵便の一種)という方法で送付されます。

 架空請求による少額訴訟の訴状を受け取ったときには,架空請求であって身に覚えがないなどの言い分を同封の答弁書用紙に記載して,なるべく早く裁判所に提出し,審理期日に裁判所に出頭してください。なお,裁判所の書記官室又は法廷以外の場所に出頭を求められることはありません。

 仮に「身に覚えのない架空請求」であっても,裁判所から郵送された「訴状」を放置していると,その間に裁判所の手続が進み,結果的に請求どおり支払を命ずる判決等がされることになり,給料その他の財産が差し押さえられてしまうおそれがあります。

架空請求の支払督促正本(仮執行宣言付き支払督促正本)が送られてきたら

 支払督促手続においては,まず,裁判所から支払督促正本という書類が送付され,これに何も応答しないときは,さらに仮執行宣言付き支払督促正本という書類が送付されてきます。これらの書類は,いずれも裁判所名が表示された封筒で特別送達(書留郵便の一種)という方法で送付されてきます。これらの封筒には,支払督促について言い分があれば異議の申立てができることについての説明書とともに,書込み式になっている支払督促異議申立書の用紙が同封されています。

 支払督促正本や仮執行宣言付き支払督促正本を受け取ったときは,受け取った日の翌日から14日以内にそれぞれ異議申立てをすることができますが,仮執行宣言付き支払督促正本を受け取ってから14日以内に異議の申立てをしない場合には,仮執行宣言付き支払督促が確定し,給料その他の財産が差し押さえられてしまうおそれがあります。架空請求の場合には,異議申立期間内に支払督促異議申立書を必ず裁判所に提出してください。

裁判所等に電話する場合には,電話帳等で電話番号を確かめましょう。

 いわれのない架空請求が記載された書面が裁判所名で送られてきた場合,放置しておかずに最寄りの簡易裁判所や富山県弁護士会,富山県司法書士会,消費生活センターに相談することをお勧めします。最近の「振り込め詐欺」の手口の中には,封筒に裁判所名と住所を記載した上,ウソの電話番号を印刷し,そのウソの電話番号に電話をかけさせてお金を振り込ませようとするものもありますので,怪しい書面が来た場合は,封筒の電話番号を信用せずに,電話帳等で電話番号を必ず確認するようにしてください。裁判所が電話で金銭の振込を指示することは絶対にありません。

 なお,富山県内の簡易裁判所や富山県弁護士会,富山県司法書士会の連絡先は,次のとおりです。

  • 富山簡易裁判所
    郵便番号939-8502 富山市西田地方町2-9-1
    TEL(076)421-7837(直通)
  • 高岡簡易裁判所
    郵便番号933-8546 高岡市中川本町10-6
    TEL(0766)22-5154
  • 魚津簡易裁判所
    郵便番号937-0866 魚津市本町1-10-60
    TEL(0765)22-0160(代表)
  • 砺波簡易裁判所
    郵便番号939-1367 砺波市広上町8-24
    TEL(0763)32-2118(代表)
  • 富山県弁護士会
    郵便番号930-0076 富山市長柄町3-4-1
    TEL(076)421-4811
  • 富山県司法書士会
    郵便番号930-0008 富山市神通本町1-3-16
    TEL(076)445-1576

架空請求によって強制執行を受けた場合

 いわれのない架空請求が記載された書面が裁判所名で送られてきたが,これを放置したために,少額訴訟判決や仮執行宣言付き支払督促が確定し,強制執行を受けてしまった場合,その執行手続を止めるには,裁判所に対して再審や請求異議等の訴えを提起して勝訴判決を得なければなりません。今までのものと比べて難易度の高い手続となりますので,弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。

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