仙台高等裁判所長官

仙台高等裁判所長官

青 柳   勤(あおやぎ つとむ)
(生年月日 昭和31年5月6日)

写真:仙台高等裁判所長官

略歴

 昭和56年4月に判事補に任命され,東京,広島の裁判所のほか,農林水産省,内閣法制局で勤務してきました。近年の略歴は,次のとおりです。

平成15年 2月    東京地方裁判所判事(部総括)
平成20年 1月    最高裁判所上席調査官
平成24年10月    新潟地方裁判所長
平成26年 3月    東京高等裁判所判事(部総括)
令和 2年 3月30日 仙台高等裁判所長官

ご挨拶

 この度,仙台高等裁判所長官に就任した青柳です。東北勤務は初めてです。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 多くの方々が亡くなられ,各地で人々の生活基盤が奪われた東日本大震災から9年の年月が経過しました。亡くなられた方々の御冥福をお祈りするとともに,最愛の御家族を失われた御遺族の方々にお悔やみを申し上げます。また,被災された全ての方々に心からお見舞いを申し上げます。これからも引き続ききめ細やかな支援が続けられることにより,一日も早い真の復興と再生へとつながっていくことを願っています。
 裁判所の使命は適正迅速な裁判の実現ということにあり,それに応えられるよう全力を尽くしたいと考えています。刑事裁判に携わってきたことがほとんどですので,ここでは平成21年から導入された裁判員裁判について述べておきます。裁判員制度を合憲とした平成23年11月16日最高裁大法廷判決は,要旨,次のように判示しています。欧米諸国においては,適正な刑事裁判を実現するための手続の保障とともに,18世紀以降,民主主義の発展に伴い,国民が直接司法に参加することにより裁判の国民的基盤を強化し,その正統性を確保しようとする流れが広がり,日本国憲法制定時の20世紀半ばには,欧米の民主主義国家の多くにおいて陪審制か参審制が採用されていた。このような歴史的状況や日本国憲法制定時の我が国内での議論を踏まえると,刑事裁判に国民が参加して民主的基盤の強化を図ることと,憲法の定める人権の保障を全うしつつ,証拠に基づいて事実を明らかにし,個人の権利と社会の秩序を確保するという刑事裁判の使命を果たすこととは,決して相容れないものではない。この判決は,裁判員制度を民主的な制度として積極的に位置づけた上で(民主主義的原理),憲法の定める人権の保障を全うしつつ適正な刑事裁判を実現すること(自由主義的原理)とは歴史的発展状況の考察等から調和可能であるとして,その憲法適合性を論じています。憲法解釈上,対立のあった問題について,諸外国の歴史的発展状況などを広く見渡して判断する手法が取られており,憲法解釈のダイナミックなあり方を示すものとしても印象深いものです。
 また,この判決は,裁判員制度の積極的価値について更に言及し,裁判員制度は司法の国民的基盤の強化を目的とするものであるが,それは,国民の視点や感覚と法曹の専門性とが常に交流することによって,相互の理解を深め,それぞれの長所が生かされるような刑事裁判の実現を目指すものということができる,その目的を十全に達成するには相当の期間を必要とすることはいうまでもないが,その過程もまた,国民に根ざした司法を実現する上で,大きな意義を有する,このような長期的な視点に立った努力の積み重ねによって,我が国の実情に最も適した国民の司法参加の制度を実現していくことができるものと考えられる,とも判示しています。
 裁判員制度施行10年を経て,核心司法・公判中心主義(実質的直接主義)の実現へ向けての前進,難解な法律概念のその本質に立ち返った説明の試み,量刑への国民の感覚・視点の反映,簡明な判決書の増加など今までになかった変化があったと思います。しかし,今なお,裁判員と裁判官の実質的協働ということが強く言われ,そのための努力が続けられています。最高裁判所事務総局編「裁判員制度10年の総括報告書」には,「裁判の内容に国民の視点・感覚を十分に反映させていくに当たっては,裁判員と裁判官の実質的協働の観点から,従来の判断枠組みを前提としつつ,その当てはめについて裁判員の価値判断の範囲をより広く認めることや,それにとどまらず,従前の判断枠組みにとらわれず,事案に合った形で再構築することにも柔軟なスタンスで臨むことが必要なように思われる」との見解が紹介されています。これは国民に根ざした司法という観点からのかなり高次の目標のように思われますが,従前の成果を維持して後退させず,さらに,この高い目標を実現するためにも,裁判員として選任された人々に対してより理解しやすく,証拠調べで何に着目してほしいかを示す争点の提示方法,事件の実態がより理解しやすいポイントを突いた証人中心の証拠調べの方法などの更なる検討を重ね,このような審理を経て争点についてもう一度証拠関係などを再整理しなくても直ちに評議に入れるような審理のあり方を作り出し,評議において十分な意見交換が行われる必要があるでしょう。裁判員の方々は,争点の意味が不明であれば,分かりやすい言葉での説明を求めてください。争点と証拠の関係がよく分からなければ,裁判官,検察官,弁護人に何を立証,反証しようとしているのか積極的に尋ね,証拠調べに臨んでください。そして,証拠調べの結果を踏まえ,その視点・感覚から合議体の中で十分に意見交換を行ってください。裁判員になられる方々のこのような参加,協力なくしては,上に述べたような審理の実現は難しいと考えられます。
 裁判員制度が国民の間に真に定着し,国民に根ざした司法が実現するために,これからの10年もまた極めて重要であると考えています。