裁判官の仕事(その3)

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紛争解決の先にある自己成長とやりがい

本城 伶奈 裁判官
略歴
平成23年1月 横浜地裁
平成26年7月から平成27年7月まで 留学(アメリカ)
平成28年4月 宮崎家地裁延岡支部
平成30年4月 東京地裁
令和3年4月 福岡地裁

本城裁判官1

現在の仕事について

私は、任官して13年目で、現在、行政事件や民事事件の合議事件に関与するほか、民事単独事件を担当しています。

裁判官として10年の経験を積むと、「判事補」から「判事」となり、一人で審理を行って判決をする、つまり、単独事件を担当することができるようになりますが(判事補として5年の経験を積んだ場合に、特例判事補として、単独事件を担当する場合もあります。)、それまでの間は、合議事件の左陪席として研鑽を重ねることになります。
合議事件では、主任裁判官として、訴訟の進行や心証等について、合議体を構成する他の裁判官と議論をして検討をし、知見や思考を培っていきます。また、訴訟指揮は、経験豊富な裁判長が行うことが多く、陪席裁判官として、先輩裁判官の訴訟指揮を見て審理運営の具体的手法を学びます。

このように左陪席として経験を積んだ後、単独事件を担当することになりますが、単独事件では、文字どおり一人で審理を行いますので、訴訟の進行や争点に関する検討や訴訟指揮等を全て一人で行うことになります。もちろん、検討の過程で悩みがある場合は、他の裁判官に相談をして議論をするなどして、気づきを得たり、自身の考えを整理して理解を深めていくこともありますし、進行については、担当書記官と期日前に協議をしますが、実際に訴訟手続を行って当該事案について判断をするのは自分一人ですので、合議事件とはまた違った意味において責任が重く、悩みも尽きません。
しかし、悩みに悩んだ結果、自分が到達した考えに従って、紛争解決の道筋を示すというのは、とてもやりがいのあることです。
例えば、当事者の主張や感情が激しく対立する事案は、和解が難しいことも多いですが、そのような事案であっても、判決より和解による解決の方が紛争の根本的かつ建設的な解決に資するのではないかと考えた場合には、和解を試み、双方の言い分をよく聞いて何度も調整をしたり、多方面から検討して和解案を提示することにより、和解が成立することもあります。このような場合には、双方が納得しうる着地点を見出すのが難しい分、やりがいを強く感じますし、言渡しによって事件への関与が終了する判決に比べ、紛争解決に資する役割の一端を担えたことを実感しやすく、嬉しさもひとしおです。

これまでの歩み

私は、初任で医療集中部の左陪席を務めた後、非訟部で保全・執行・破産事件等を担当し、その後、アメリカのロースクールへ留学しました。帰国後は、特例判事補として、地方にある支部の裁判所で、民事・刑事・家事・少年事件の合議事件や単独事件を担当したり、大都市の裁判所で民事通常事件の合議事件や単独事件を担当するなどし、現在は、地方都市にある裁判所の行政集中部で、行政事件等の合議事件や、民事の単独事件を担当しています(なお、この間、育休を取得しています。)。

こうして今までの職務を振り返ると、それなりに色々な分野を担当する機会に恵まれたようにも感じますが、色々な分野を担当することにより、その都度勉強をして、求められる知見を身につけていくことができます。理解が難しい分野もありますが、自分の知見や世界が広がっていくプロセスはとても楽しいものですし、新たに得た知見や考え方が、分野を問わず、別の事件を担当する際にヒントとして役に立つことも多くあります。
また、裁判官は、単独事件の審理において、自分が見聞きした経験をもとに、自分なりに考えて事件を進めていくことになりますが、私の場合も、これまでの合議事件や単独事件で培った経験はもちろん、異動を通じて、様々な環境で、色々な方々(当事者や地元の方々を含みます。)とご一緒する中で得た学びも、今の自分のベースになっているように感じます。

とはいえ、私は、まだまだ裁判官として経験が十分ではないですし、常に変わりゆく社会情勢や人々の考え方に柔軟に対応すべく、自分自身をアップデートしていかなければならない立場にある一方で、働く親の誰もが直面する「子育てと仕事の両立」という自身の課題もあるため、まさに日々奮闘している状況です。大変なこともありますが、どんな状況においても、自分なりに、研鑽を重ね、裁判への向き合い方やあるべき紛争解決の姿を謙虚に模索し続けることも、裁判官として大事なことの一つなのではないかと思います。

最後に

裁判官の仕事は、法以外の何事にもとらわれることなく、自分の考えに従って紛争解決の道筋を示すことができるという、精神的にとても自由な仕事です。
それゆえ、責任が非常に重く、ハードなことも当然ありますが、自分を常に成長させることができるやりがいのある仕事だと思います。
この文章をご覧になって裁判官の仕事に魅力を感じた方、今後、裁判官として、一緒に成長できることを楽しみにしています。