司法研修所教官からのメッセージ(その2)

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「司法修習で初めて見える、職業としての裁判官」

高森 宣裕 刑事裁判教官
略歴
平成14年10月 東京地裁
平成17年7月から平成18年7月まで 留学(アメリカ)
平成19年1月 最高裁総務局付
平成19年4月 外務省
平成21年4月 那覇地裁
平成24年4月 最高裁刑事局付
平成27年4月 東京地裁
平成28年4月 広島地裁
平成31年4月 東京高裁
令和3年3月 司法研修所教官

高森教官1

裁判官のイメージ

このメッセージをお読みくださっているみなさんは、「裁判官」と聞いてどのようなイメージを抱かれますか?司法修習生になりたてのみなさんと話していると、裁判官の仕事について、「機械的に法を適用する仕事」とか、特に刑事裁判について、「検察官や弁護人から出された証拠を見て判断するだけの受動的な仕事」といったイメージを抱く方が少なくないと感じます。時には、「冷たい仕事」と言われたこともあります(悲)。
ところが、司法修習を終える頃には、多くの司法修習生のみなさんから「当初抱いていた裁判官像が大きく変わりました。」といった声を耳にします。かく言う自分もそうでした。もともとは弁護士としてビジネスロイヤーになるつもりで司法試験に臨み、司法修習にも入りました。それから20年経った今、蓋を開けてみれば刑事裁判官をし、その仕事の意義深さを噛み締めています。

刑事裁判官の仕事

裁判官の仕事の中でも、特に刑事裁判に関して、「責任が重くて大変そう。」といった声を司法修習生から聞くことがあります。
確かに、刑事事件に関していえば、有罪・無罪の判断や、有罪の場合にどのような刑を科すべきかという、人の人生に直接大きな影響を与える判断を求められる責任の重い仕事です。しかし、ちょっと想像してみてください。自分で正しいと信じることが、そのまま仕事の成果になるという職業は、世の中にどれほど存在するでしょうか。裁判官の仕事は、もっぱら法と良心に従って妥当性、公正さ等あらゆる観点から正しいと確信した考えを、そのまま判決という成果物に結実させていく職務です。そのような職務に伴う責任の重さは、まさに裁判官としての仕事のやりがいの裏返しといえます。
証拠を慎重に検討して有罪か無罪かを判断し、あるいは犯罪行為の違法性や責任の重さ、被告人の更生や被害者の思いなど、事件にまつわるあらゆる事情に正面から向き合って適切な量刑判断をするという刑事事件を担当する裁判官の仕事は、適正で妥当な事件の解決の実現のみならず、事件関係者のその後の人生や、安心・安全な社会生活の基盤にも関わってくるとても大きな意義をもつ職務でもあります。

実務修習について

司法試験合格後に、法曹資格を得るために必要な司法修習では、各地の裁判所等に分かれて実施される実務修習を行います。裁判所における実務修習では、司法修習生でなければ立ち入ることのできない裁判官室に席が用意されます。法廷傍聴はもとより、実際の事件の記録を検討し、日々生起する様々な事実認定上の問題点や法的問題点について検討して起案したり、裁判官と意見を交わしたりします。いわば裁判官密着取材のような形で裁判官の思考過程に触れ、法廷で裁判官が行った発言や訴訟指揮の意図などにも接することになります。そして、司法修習生自らも「この事件のベストな解決のためにはどう考えれば良いのか」を突き詰めて考える。このような裁判官と同様の思考プロセスを経験的に学ぶ過程を通じて、実際に裁判官がどんなことを考えながら判決という形で最終判断をしているのかを、司法修習生が自らの経験知として体得していきます。こうした実務修習の過程で、裁判官がいかに事件について考えを尽くして判断しているのかという、法廷傍聴だけでは決して見えてこない裁判官の仕事の実像を裁判官室の中で目の当たりにすることになります。
実務修習への取り組み方によっては、裁判官がどんな思いを抱きながら一件一件の事件に向き合っているのかといったメンタリティまでも実感することもでき、「冷たいもの」に見えた裁判官の仕事も、むしろ事件への向き合い方次第で「血の通ったもの」にしていけるという、判断者としての醍醐味のあるものであることを実感できることでしょう。

弁護士志望、検察官志望の方も含めて法曹に関心をお持ちのみなさんへ

私は司法修習生であった頃、実務修習中に裁判官が当事者の言い分をよく聞きながら、巧みに訴訟手続を進行させて事件を裁いていく姿を目の当たりにし、最終判断者であるがゆえの事件解決に向けた裁判官の役割の重要性を痛感して、それまで思い描いていた法曹像とは違う道を歩み始めました。
司法修習生のみなさんのほとんどは、司法修習終了後、裁判官、検察官、弁護士のいずれかの道に進んで行かれます。司法修習生は、その道の分岐点の手前に立つ立場です。言ってみれば、これからどの道にも進み得る可能性を秘めた特異な存在です。司法試験を目指す段階から、既に将来のビジョンを描いておられる方は多いと思いますが、司法修習に入られたら、関心のアンテナを広くもって臨むことをお勧めします。きっと、みなさんご自身の将来像について、新しい視点が生まれてくることでしょう。