外部経験制度の利用(その2)

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裁判官と外部経験

関口 恒 裁判官
略歴
平成26年1月 横浜地裁
平成29年7月から平成30年7月まで留学(アメリカ)
令和元年9月 東京地裁
令和元年11月 最高裁民事局付
令和2年4月 最高裁秘書課付
令和2年6月 在アメリカ合衆国日本国大使館
令和4年7月 岡山家裁

関口裁判官1

はじめに

岡山家裁判事補の関口恒です。
平成26年1月に任官し、横浜地裁で初任の3年間を過ごした後、米国で1年間の在外研究(留学)に従事しました。帰国後は、静岡地裁沼津支部、最高裁事務総局等を経て、令和2年6月から2年間、在アメリカ合衆国日本国大使館(以下「在米大」と言います。)で勤務しました。令和4年7月に帰国し、現在は、岡山家裁で家事事件や少年事件を担当しています。
このような米国での在外研究及び勤務は、裁判官の外部経験という制度によるものです。私からは、この裁判官の外部経験を中心にお伝えしたいと思います。

裁判官の外部経験とは

多様で豊かな知識や経験を備えた裁判官を確保するため、原則として全ての判事補に外部経験の機会を与えることとされていて、その派遣先等には、民間企業、弁護士事務所、海外留学、行政官庁、在外公館等があります。

在米大での経験

(意見や説明にわたる部分は私の個人的な理解に基づきます。)

在米大は、首都ワシントンDCに置かれています。主に連邦政府をカウンターパートとしているため、在米大には各府省庁からの出向者も多いです。私は、この在米大で、2年間、外交官(書記官)として勤務しました。
私が在米大で勤務していた頃は、ギンズバーグ連邦最高裁判事が逝去され、連邦最高裁で保守の傾向が強まり、人工妊娠中絶に係る先例が覆されるなど、米国司法の転換期にありました。このような中で、米国に身を置いて、米国司法の実情を調査したり、司法関係者と意見を交わしたりすることは、とても楽しく貴重な経験となりました。

しかし、在米大で働くということには、法律という専門分野から離れたところにこそ面白さがあり、多くの学びがありました。その一部を紹介します。

  • 情報収集は外交の基本で、その情報には鮮度があり、すぐに腐ってしまう。常に報道やSNSに気を配り、脊髄反射のようにこれに対応する。在米大にはこのような世界があり、仕事はいたって他律的でした。また、在米大には、各府省庁からの出向者が多く、ミニ霞が関と呼ばれることもあるのですが、(詳しくは割愛しますが)その意味でも仕事は他律的でした。
    裁判官の働き方とは対照的でしたが、かえって、裁判官が自ら審理のスケジュールを決め、独立して判断することの重みを再認識しました。このような権限があるからこそ、目前の当事者、ひいては社会全体の司法に対する期待や要請によく配慮して、自らを律する必要があるということです。
  • 在米大での勤務は、例えば、外交官が、いかにして国益の確保に努め、コロナ禍にある邦人を保護しているのか、日本の民間企業が米国でどのようにプレゼンスを高めようとしているのかなど、国際社会の実相に触れる機会にもなりました。また、裁判というものが、膨大な社会的・経済的営みの中にあって、ごく限られた場面でのみ機能しているということも実感しました。
    裁判官は、日々、記録や文献と格闘し、代理人との対話を重ねることを通じて社会の実相を学ぶことになりますが、現場に身を置くことには代えがたいと思います。
  • 人との出会いや異なる文化に触れることも、外部経験の醍醐味だと思います。ワシントンDCでは、外交官という肩書きもあって、様々な会合に出席することができ、多くの出会いがありました。他の府省庁にも知人ができ、米国での出会いや経験は、私の一生の財産になりました。
    裁判をしていると、創造的な解決策を必要としたり、難しい価値判断に迫られたりするなど、法律や先例だけは解決できないことがあります。このような場面では、これまで、どのような人と出会い、経験をし、見識を養ってきたかが問われるように思いますので、上述した出会いや経験は、私の裁判官人生の糧になってくれるはずです。
  • このほか、在米大では、組織として働くことが多く、内閣総理大臣の訪米への対応はその最たるものでしたが、裁判所でも、組織を意識して働くことの重要性が増していますので、大変参考になっています。

このように、行政(外交)と司法とでは果たすべき役割は異なりますが、在米大での経験は、裁判官の仕事に多くの示唆を与えてくれました。

さいごに

裁判官の外部経験の制度は、裁判所の大きな人的・経済的負担の下に実施されています(もちろん派遣先の協力も不可欠です。)。しかも、外部経験をした裁判官に、その効用が表れるのはずっと先のことです。にもかかわらずこの制度が維持されているのは、裁判官というのが息の長い仕事で、裁判所全体が、長い目で裁判官を育てようとしてくれていることの表れだと思っています。
私は、このような裁判所に、裁判官の仕事に、魅力を感じています。
皆さんが進路を考える際の一助となれば幸いです。