専門部での経験(その1)

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専門部(特に商事部)のすゝめ

川村 久美子 裁判官
略歴
平成27年1月 名古屋地裁
平成30年7月から令和2年7月まで 留学(イギリス)
令和3年4月 東京地裁

川村裁判官

商事部とは?

私が現在執務している東京地方裁判所商事部は、株主総会決議取消訴訟や取締役に対する責任追及訴訟等の会社訴訟・保全事件、株価決定申立事件等の会社非訟事件、独占禁止法関連の訴訟事件等を集中的に取り扱う専門部です。令和4年10月以降は、新設された中目黒庁舎(ビジネス・コート)で、倒産部及び知財部とともに執務しています。

専門部のおすすめポイントその1 ― その分野のスペシャリストになれる!

専門部で仕事をする醍醐味は、なによりまず、特定の分野の事件を集中的に取り扱うことにより、その分野に対する理解を深めることができることです。裁判官というと、民事、刑事、家事、少年事件等なんでも担当するジェネラリストのイメージがあるかもしれませんが、専門部にいる間は、扱う法分野のスペシャリストとして事件を担当することになります。そのため、専門部の裁判官には、その分野に関連する法的知識を増やし、個々の事件の争点について適切に判断することはもちろん、その事件の背景にある紛争の全体像を把握し、時に一体的解決の方策についても思いを巡らせることが期待されています。集中的に経験を積んだ分野を持つことは、その後の執務においても、自分の強みになるのではないかと思います。

専門部のおすすめポイントその2 ― 部の一体感が最強!

商事部を含む専門部の良さとしては、同種の事件を担当する部内の裁判官と議論しやすい環境にあることも挙げられます。東京地裁商事部には、私を含め10人の裁判官がおり、月に一回行う部内勉強会だけでなく、裁判官室で日常的に議論をしています。そこでは、同種事案を担当した経験のある裁判官から助言や新たな観点の提案を受けることもしばしばあり、多角的な検討をした上で判断することができます。また、一つの事件に関する文献・裁判例の調査・検討結果を、自分や周りの裁判官の別事件に関する検討においても利用できるよう、様々な工夫がされています。このように、部内の裁判官同士で互いを高め合い、支え合いながら(私はまだまだ支えていただくことの方が断然多いですが…。)、同じ分野の事件処理に当たっており、特に部としての一体感が感じられるのも、楽しいです。さらに、大阪地裁の商事部とも協議会等で意見交換をする機会があり、自分の見解を様々な形で検証した上で判断することができます。

特に商事部のおすすめポイントその1 ― 手続の基礎から審理の工夫まで成長し放題!

商事部特有の点でいうと、会社訴訟事件は、民事事件の一つではありますが、類型によっては、弁論主義の適用がない、専属管轄や出訴期間が法定されているなど、注意しなければならない点があります。私は、これまでに民事通常部の左陪席を約3年間務めましたが、商事部で執務するようになって、特に初めて担当する事件類型の事件については、初期の段階で条文や基本的な文献を参照して、訴訟要件や要件事実等の基本的な事項を確認するという、裁判官として基本的な習慣を、改めて身につけることができたと感じています。また、商事部は、扱う事件の類型が限られているため、審理計画の立て方や、ITツールを用いた効率的な審理方法を工夫する上でも適した環境にあり、自分なりの審理の進め方を開拓する上でも貴重な経験を積むことができていると思います。

特に商事部のおすすめポイントその2 ― 裁判官の醍醐味ここにあり!

変化の速いビジネスに関連する会社法や独占禁止法の分野では、日々新たに発生する紛争や法的論点について裁判所が判断することによりその後の行為規範を示す機能が、特に重要であると感じています。私は、商事部の左陪席として合議事件の主任裁判官を務めることが多く、紛争解決として合理的な期間内に、社会に与える影響も考えた上で審理判断するよう心がけています。このような裁判所の役割に対する意識は、商事部以外での事件処理においても共通する、裁判官としての大切なマインドであり、かつ醍醐味だと思います。

裁判官の仕事に関心があるみなさんへ

裁判所には、法と良心に従って紛争を解決するという普遍的な役割がありますが、これを担っているのは、裁判官一人一人です。裁判所に持ち込まれた紛争について、当事者と議論をしながら審理計画を立てて効率的に審理を進め、解決策を提示するという裁判官の仕事の進め方は、裁判のルールに従う限り、個々の裁判官の裁量に任されており、想像以上に自由演技の幅が広く、クリエイティブだなという印象を持っています。特に、裁判所のデジタル化の進展に伴い、ITツールの選択肢も増え、ますます自由度が上がっていると感じます。もちろん、裁判官の仕事には責任が伴いますが、生身の人間だからこそできる(AIにはできない!)やりがいのある仕事です。多くの皆さんが裁判官の仕事に魅力を感じてくださると嬉しいです。