外部経験制度の利用(その1)

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外部経験を自己成長につなげる

米 満祥人 裁判官
略歴
平成27年1月 千葉地裁
平成30年4月 福島地家裁郡山支部
令和2年4月 最高裁刑事局付
令和2年7月 金融庁
令和4年7月 東京地裁

米裁判官1

裁判官の外部経験

皆さんは、裁判官という職業に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。中には、ずっと裁判にだけ携わっているため、世間知らずとなってしまうのではないかなどと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、裁判所においては、若手のうちに民事・刑事・家事など様々な事件を経験させてもらえますし、裁判官任官から約10年以内という時期に、民間企業や行政庁への出向、弁護士職務経験、海外留学、海外法整備支援等の裁判官以外の職務を行うという外部経験制度が設けられております。私は行政庁への出向を希望し、金融庁へ出向させていただきました。

金融庁での経験と自己成長

もしかしたら、外部経験といっても、出向先ではお客様扱いされて本格的な業務は経験されてもらえないのではないかと心配になる方もいらっしゃるかもしれません。金融庁では、いい意味で全くそのようなことはなく、法令や政策の立案等の業務はもちろん、国会答弁の作成や政策を検討する会議の準備等にも携わらせていただきましたし、海外制度について調査することもしばしばありました。私が担当した法律が金融商品取引法という法律であったこともあり、暗号資産等の全く知見のない分野に関する規制の在り方について検討することもありました。一から勉強することは大変でしたが、現実社会の動きもキャッチアップしながら検討することはとてもやりがいのあるものでした。
このような金融庁の業務は、裁判所のものとは異なる側面が多く、その経験が直接裁判を行う上で役立つというものではありません。しかし、裁判所と異なる業務を経験することは、自己成長の大きなきっかけになったと感じており、特に以下の点は、裁判官としての業務にも非常に活かされていると感じております。

マネジメント能力の向上

行政庁は、当然ながら組織として政策判断を行うので、自身が検討した政策案を実現するためには、上司の了解を得る必要がありますし、その政策案が他の部署あるいは他の行政庁が担当する法令に影響が生じる場合には他部署や他の行政庁との調整が必要となります。裁判官の業務では、多くの場合一人あるいは三人だけで判断を求められていたので、このような調整作業は不慣れで、骨の折れるものでした。しかし、その過程で多角的な視点から議論を深め、政策を深めていく経験は得難いものでした。
改めて裁判所に戻ってみると、実際に裁判を行い判決を行うのは裁判官ではあるものの、裁判の運営には、非常に多くの職員の方が携わり支えてくださっていることに気づかされました。良い裁判を実現するには、このような職員の方と一つのチームとなって必要な情報を共有して様々な検討を行い、訴訟を運営していくことが重要だという思いを強くしました。現在では、このことを心掛けながら日々執務に取り組んでいます。

口頭でのコミュニケーションスキルの重要性

上司への説明等の際には、物事を論理的に説明しようとするあまり説明が回りくどくなり、伝えたいことが分かりにくいなどと指導をいただくことがありました。相手にその政策の意義を理解してもらえなければ、何も実現しないのですから、内容の適切さはもちろん、それを簡潔に分かりやすく伝えるスキルの重要性を痛感いたしました。裁判官は、どうしても判決等文章の作成技術に重きを置き、コミュニケーションスキルの向上はおろそかになりがちな面があったかもしれません。しかし、一般の方々に参加いただく裁判員裁判やデジタル化した裁判手続においては、口頭での議論やコミュニケーションの重要性が益々高まると思います。自身のスキル不足とその向上の必要性を認識するいい機会となりました。

また、金融庁の職員の皆様は、社会を少しでも良くしたいとのマインドをもって仕事されていました。そのような方々と日々仕事をすることができ、私も裁判を通じてよりよい社会の実現に貢献したいという思いを一層強くいたしました。

裁判官の職務に興味を持っていただいた方へ

裁判所から出て他の職種の方々と仕事をすることはそれ自体刺激的で楽しいことでしたし、自己成長の大きな機会をいただけたのではないかと思っております。裁判所には、行政庁への出向だけでなく、多様な外部経験をした裁判官がおりますので、自身の経験だけでなく、他の裁判官の経験を通して様々な気付きを得る機会もあります。様々な経験、考えを持った裁判官がいることによって柔軟でバランスのある裁判が実現できると思いますので、少しでも多くの方に裁判官の仕事に興味を持っていただき、一緒に仕事ができればと思っております。