遺産分割Q&A

1. 相続人

2. 遺産分割手続

3 遺産の範囲

4 遺産の評価

5 相続分の修正

6 分割方法

Q1 共同相続人のなかに,未成年者とその子の親権者がいる場合はどうすれば良いですか?

A1

(1) 未成年者の法定代理人である親権者が,その子に代わって遺産分割手続に参加することになりますが,その親権者も相続人である場合は,子と親権者は 利益相反の関係(親権者が多く取得するという利益が子の取得分が少なくなるという不利益になる関係のこと)にあることから,その親権者はその子のために, 家庭裁判所に対して,特別代理人(親権者に代わって未成年者を代理する人)の選任の申立てをする必要があります。

(2)また,親権者を同じくする複数の未成年者が共同相続人の中にいる場合,その親権者がそれぞれの未成年者の法定代理人として遺産分割手続に参加するこ とになりますが,その一人の子と他の子は利益相反の関係にあることから,この場合についても,その親権者は他の子のために,家庭裁判所に対して,特別代理 人の選任の申立てをする必要があります。

(1)の例

 Aの相続について,配偶者であるBと未成年者Cが遺産分割手続を行う場合,BとCは利益相反の関係になるため,BはCのために特別代理人を選ぶ必要がある。

図版:Aの相続について,配偶者であるBと未成年者Cが遺産分割手続を行う場合

(2)の例

 Aの相続について,代襲相続人である未成年者Eと未成年者Fが遺産分割手続を行う場合,相続人でないDは,EとFの法定代理人として遺産分割手続に参加することになるが,EとFは利益相反の関係にあることから,DはEとF双方の法定代理人になることはできないので,Dは,E又はFいずれか一方のために特別代理人を選ぶ必要がある。

図版:Aの相続について,代襲相続人である未成年者Eと未成年者Fが遺産分割手続を行う場合

Q2 共同相続人の中に,行方不明者がいる場合はどうすれば良いですか?

A2

 行方不明者のために,家庭裁判所に対して不在者財産管理人の選任の申立てをし,選任された不在者財産管理人がその行方不明者に代わって,手続に参加します。ただし,不在者財産管理人が遺産分割の調停や協議を行うためには,家庭裁判所の許可が必要になります。

 なお,不在者財産管理人選任の申立てをしたい場合は,遺産分割センターではなく,1階家事受付(事件係)に申し出てください。

Q3 共同相続人の中に,認知症などにより判断能力が十分でない者がいる場合はどうすれば良いですか?

A3

 成年後見制度を利用してください。

 判断能力の程度に応じて,「後見」「保佐」「補助」の三つの類型があり,その制度により選ばれた成年後見人,保佐人又は補助人がその相続人に代わって,遺産分割に参加することになります。

 ただし,保佐人や補助人が遺産分割の調停や協議を行うためには,遺産分割の調停や協議をすることについての代理権を与える旨の審判を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

 詳細は,後見関係のページをご覧ください。

Q4 共同相続人の中に,遠方に住んでいるため,期日に出席できない者がいる場合はどうすれば良いですか?

A4

 調停手続の場合は,遠方に住んでいる相続人が,あらかじめ調停委員会から示された調停条項案に合意する旨の書面(受諾書面)を,その調停委員会に提出し,その他の相続人が調停期日に出席してその調停条項案に合意したときは,調停期日に出席できなかった相続人がいても,調停を成立させることができる制度もあります。

Q5 遺言書や遺産分割協議書がある場合,遺産分割はできないのですか?

A5

 遺言書や遺産分割協議書の内容によって,遺産分割が必要な場合と不要な場合があります。

 遺産分割は,分け方の決まっていない遺産について行いますので,有効な遺言書や遺産分割協議書により,分け方が決まっている場合は,原則として,遺産分割は不要です。

 遺言書や遺産分割協議書に記載されていない遺産がある場合や分け方が決まっていない場合は,遺産分割が必要です。

 遺言書により自分の取り分が法律で定められた遺留分に満たなくなり,その分をもらいたいという方は,「遺留分減殺請求」で,多くもらった人に対して,返還請求できる場合があります。

 なお,遺産分割減殺請求の調停を申し立てたい場合は,遺産分割センターではなく,1階家事受付(事件係)に申し出てください。

Q6 調停を円滑に進めるためにはどのようなことを心掛ければ良いですか?

A6

 調停を円滑に進めるためには,お互いの譲り合いが必要不可欠です。

 遺産分割は,基本的には現存する遺産を相続人間で具体的に分けることが目的です。家庭裁判所では,相続人同士の感情的な対立があれば,それをある程度調整しますが,それは遺産分割の調停を円滑に進めるための補助的なもので,調停の主眼は,あくまでも,「今ある遺産をどのように分けるか」という点にあることをご理解ください。

Q7 遺産はいらなので,遺産分割手続から抜けたい場合は,どうすれば良いですか?

A7

 自分の取得分(相続分)を他の相続人に譲る,又は自分の相続分を放棄した後,裁判所の決定(排除決定)を受けることで,遺産分割手続の当事者でなくなることができます。

 ただし,当事者として手続にとどまる必要がある場合や,排除決定後,再び利害関係人として手続に参加する必要がある場合があります。

 詳細は,遺産分割センターまでお問い合わせください。

(1)自分の相続分を他の相続人に譲る場合【相続分の譲渡】

 自分の相続分を他の相続人に譲る場合は,譲る人(譲渡人)と譲り受ける人(譲受人)との譲渡契約になりますので,譲渡人,譲受人双方の署名押印等が必要になります。

(2)自分の相続分を放棄する場合【相続分の放棄】

 相続分の放棄は,契約ではなく放棄者の一方的意思表示で効力が生じる単独行為ですので,放棄する人だけの署名押印等で足ります。

 ただし,相続放棄の申述(民法915条)とは異なり,相続分の放棄は,遺産分割における取得分をゼロとするものであり,相続債務はそのまま負担し,相続人たる地位を失わないものと解されていますので,ご注意ください。

Q8 申立て前に,他の相続人に対して,相続分を譲渡した相続人は,手続の当事者として参加しなくても良いですか?

A8

 申立前に,共同相続人のうちの一人(譲渡人)が,他の共同相続人(譲受人)に対し,相続分の譲渡をしている場合,譲渡人が共同相続人として有する一切の権利義務は包括的に譲受人に移転され,それによって,譲渡人は遺産分割手続の当事者適格を喪失するとともに,譲受人は,当事者適格を取得するものと解されています。

 したがって,申立時に,譲渡人が譲受人に相続分を譲渡したことを証する文書の原本(譲渡証書等)を提出していただければ,譲渡人は,当事者として手続に参加する必要はありません。

 ただし,利害関係人として手続に参加していただく場合があります。

 詳細は,遺産分割センターまでお問い合わせください。

Q9 調停での話合いがまとまらない場合は,どうなるのですか?

A9

 調停で話合いがまとまらない場合は,調停不成立として,原則として家庭裁判所による審判手続に移行し,当事者から提出された資料や事実の調査の結果に基づいて最終的な判断を示すことになります。

 なお,調停手続は柔軟性があり,本来遺産分割手続で扱えないもの(葬儀費用,相続債務,使途不明金や祭祀承継など)を含めた全体的な解決が可能ですが,審判手続は,原則としてこれらの付随問題を取り扱うことができませんので,当事者の期待する抜本的な解決を図ることができない場合もあります。

Q10 被相続人の債務の負担者などについても,家庭裁判所で話し合うことができるのですか?

A10

 被相続人の債務(借金等)は,法律上相続開始によって法定相続分に応じて当然に分割されますので,原則として,遺産分割の対象にはならないと考えられています。したがって,調停において,当事者間で特定の相続人が債務を相続する旨の合意が成立したとしても,あくまで相続人間の内部関係を決めたに過ぎず,その内容を債権者に主張できるわけではありません。

Q11 相続人の一人が遺産の一部を隠していると思われるのですが,家庭裁判所に遺産分割の申立てをすれば調べてもらえるのですか?

A11

 家庭裁判所の遺産分割手続は,遺産を探し出すことを目的とした手続ではありません。もちろん,調停のときなど,相続人に対して,その遺産の範囲や内容について意見を聴き,必要な資料の提出を促すことはありますが,ほかにも遺産があると考える場合には,原則として,自らその裏付けとなる資料を提出することが求められます。

Q12 不動産の金額はどのようにして決めるのですか?

A12

 基本的には,当事者の合意で決められた金額に基づいて処理をすることになります。金額を決める方法の例として,固定資産税評価額,相続税評価額,公示価額及び不動産業者による査定額などがあります。

 金額に合意ができない場合は,鑑定をすることになります。

Q13 不動産の金額を鑑定によって決める場合の鑑定費用は誰が負担するのですか?

A13

法定相続分に基づいて各当事者が負担するのが原則ですが,調停手続では,当事者全員が合意した負担方法に基づいて処理することができます。

審判手続では,費用負担者を決める必要がある場合は,費用額を定めた上で,遺産分割の審判とともに費用負担の裁判をすることになります。

Q14 特別受益とは何ですか?

A14

 相続人の中に,被相続人から遺贈や多額の生前贈与を受けた人がいる場合,その受けた利益のことを「特別受益」といいます。その場合には,利益を受けた相 続人は,いわば相続分の前渡しを受けたものとして,遺産分割において,その特別受益分を遺産に持ち戻して(これを「特別受益の持戻し」といいます。),具体的な相続分を算定する場合があります。

 特別受益は,寄与分とともに法定相続分を修正するもので,共同相続人間の不平等を是正し,実質的平等を図ることを目的としています。したがって,共同相続人が同程度の利益を受けている場合には,持戻しをしないことが多いです。

 贈与の場合,持戻しの対象となるのは,相続人に対する贈与のみです。相続人の親族(妻や子)に対して贈与があったことによって,その相続人が間接的に利益を得ていたとしても,原則として特別受益に該当しません。

 特別受益の主張をする方は,(1)誰の誰に対する特別受益であるか,(2)どのような内容であるか(贈与の時期,贈与額等)などについて,具体的に主張し(「特別受益目録」を作成していただくこともあります。),合わせてそれを裏付ける資料を提出してください。

 特別受益について,何らの資料も提出されない場合には,あなたの主張は話合いの席でも取り上げられないことがありますし,審判でも認められない可能性があります。

Q15 寄与分とは何ですか?

A15

 相続人の中に,被相続人の財産の維持又は増加に特別の貢献をした人がいる場合,遺産分割において,その人の貢献の度合い(これを「寄与分」といいます。)に応じてその人の相続分を増やして,具体的な相続分を算定する場合があります。

 貢献の内容としては,

  1. 被相続人の事業に関する労務の提供(家業従事型),
  2. 財産上の給付(金銭等出資型),
  3. 被相続人の療養看護(療養看護型),

その他の方法がありますが,寄与分が認められるためには,親族間において通常期待される程度を超えた貢献が必要です。単に,他の相続人と比較して貢献の度合いが大きいというだけでは寄与分にはなりません。

 寄与分が認められるためには,次の要件を満たすことが必要です。

  1. 特別の寄与であること
  2. 財産の維持又は増加と因果関係があること
  3. 寄与行為に対し対価を受けていないこと
  4. 相続開始時までの寄与であること

 調停手続において,寄与分の主張をしようとするときは,直ちに寄与分の調停申立てが必要ということではなく,まず,調停の中で寄与分を主張して,寄与分を考慮した分割方法が合意できれば,申立てをする必要はありません。

 しかし,調停において寄与分が争点となって分割の合意ができないような段階においては,寄与分の申立てが必要になります。

 審判手続においては,寄与分を主張しようとするときは,必ず寄与分の審判申立てが必要となります。その場合,家庭裁判所は,審理の遅延や引き延ばしを防ぐために,寄与分の申立て期間を定め,この期間を経過してされた寄与分の申立ては却下することができます。

 寄与分の申立てにあたっては,寄与の時期,方法及び程度その他の事情を明らかにして記載してください。またその裏付けとなる資料(書証)も提出してください。

 寄与分の申立て方法の詳細は,遺産分割センターにお問い合わせください。

Q16 遺産の分け方にはどのような方法があるのですか?

A16

 遺産の分け方は,次の4通りあります。

  1. 現物分割
    遺産そのものを分ける方法です。
  2. 代償分割
     相続人のうち,一人又は数人が遺産そのものを取得し,現物を取得した相続人がその他の相続人にお金(代償金といいます。)を支払う方法です。
     この分割方法は,代償金を支払う相続人に,支払うだけの資力がなければなりません。
  3. 共有分割
     遺産の全部または一部を複数の相続人が共有で取得する方法です。
     この分割方法は,将来,共有者の間で管理や処分方法などの意見が食い違ったときに,問題が生じる可能性がありますので,選択する際には注意が必要です。
  4. 換価分割
     遺産を売却して,その代金を分割する方法です。
     この分割方法は,遺産を取得したい相続人がいない場合や,取得したい相続人がいてもその人に代償金の支払能力がない場合などに選択されることがあります。