(平成16年4月)
平成16年4月から,裁判官の人事評価に関する規則(平成16年最高裁判所規則第1号。以下「規則」といいます。)に基づき,裁判官について新しい人事評価制度が実施されました。今回の人事評価制度の整備は,裁判官の資質・能力を高め,かつ,国民の裁判官に対する信頼を高めるとの観点に立って,制度全体を通じて人事評価の透明性・客観性を確保しようとするものです。
ここでは,その新しい人事評価制度の概要を紹介することにします。
1. 人事評価の目的等
裁判官の人事評価の目的は,裁判官の公正な人事の基礎とするとともに,裁判官の能力の主体的な向上に資することにあります(規則1条)。
人事評価は,判事,判事補,簡易裁判所判事について行うものとされています(規則1条)。具体的には,毎年1回,8月1日を基準日とし,基準日に在職する裁判官について,前年の基準日から基準日の前日までの期間を対象として行います。
2. 評価権者等
- 評価権者
人事評価は,判事,判事補についてはその所属する裁判所の長が,簡易裁判所判事についてはその所属する簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の所長が,それぞれ行います(規則2条1項)。 - 調整・補充者
地方裁判所長,家庭裁判所長が行った人事評価については,その地方裁判所,家庭裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の長官が,調整・補充を行います(規則2条2項)。 - 評価権者等の例外
裁判官が担当する職務に照らして上記の方法によることが適当でない特別の事由がある場合は,最高裁判所が別に定めるところにより人事評価を行います(規則2条3項)。
主なものは,以下のとおりです。地方裁判所長,家庭裁判所長については,その所属する裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の長官が評価権者となります。また,最高裁判所の裁判所調査官については最高裁判所首席調査官,最高裁判所事務総局に勤務する裁判官については最高裁判所事務総長又はその勤務する局課の局課長,最高裁判所の研修所に勤務する裁判官についてはその勤務する研修所の所長がそれぞれ評価権者となります。
3. 評価の基準
人事評価は,評価権者が,事件処理能力,部等を適切に運営する能力,裁判官として職務を行う上で必要な一般的資質・能力という3つの評価項目について行うこととされています(規則3条1項)。
評価権者は,上記の3つの評価項目について,別紙「評価項目及び評価の視点」に掲げる評価の視点を踏まえ,把握できた情報に基づいて,特徴的な事項を文章式で記載する方法により評価書を作成します。
4. 評価情報の把握
- 評価情報の把握一般
評価権者は,人事評価に当たり,裁判官の独立に配慮しつつ,多面的かつ多角的な情報の把握に努めなければならないこととされています(規則3条2項前段)。 - 裁判所外部からの情報の取扱い
評価権者は,評価情報の把握の一環として,裁判所外部からの情報についても配慮するものとされています(規則3条2項後段)。
裁判所外部からの裁判官の人事評価に関する情報については,その裁判官が所属する庁(簡易裁判所である場合は,その所在地を管轄する地方裁判所)の総務課において受け付けます。この場合においては,情報の的確性を検証できるようにするという観点から,原則として,当該情報を提供した者の氏名及び連絡先を記載した書面であって具体的な根拠となる事実を記載したものによって,情報の提供を受けるものとされています。もっとも,個々の裁判の結論の当否を問題とするものなど,裁判官の独立への影響が懸念される情報については,考慮することができません。
裁判官の人事評価に関する情報を提供される場合には,その性質にかんがみ,上記の内容を記載した書面をその裁判官が所属する庁の総務課長あてに親展でお寄せください。
5. 書面の提出・面談
評価権者は,人事評価に当たり,本人の意向を汲み取る方法の一環として,裁判官から担当した職務の状況に関して書面の提出を受けるとともに,裁判官と面談するものとされています(規則3条3項)。
6. 評価書の開示
人事評価制度の透明性を高めるとの観点から,評価権者は,一定の期限までに裁判官から申出があったときは,その人事評価を記載した書面(評価書)を,その写しを交付する方法により開示することとされています(規則4条参照)。
7. 不服がある場合の手続
人事評価の透明性・客観性を確保するとの観点から,裁判官が評価書の記載内容について不服を申し出る機会を保障し,それを受けて評価権者等がその内容を再度検討する手続が設けられています(規則5条参照)。
裁判官から不服の申出があった場合には,評価権者は,必要な調査を行い,その結果に基づき,その申出に理由があると認めるときは,評価書の記載内容を修正し,その申出に理由がないと認めるときは,その旨を評価書に記載します(規則5条2項)。地方裁判所長又は家庭裁判所長が評価権者として行った修正・記載については,高等裁判所長官が調整・補充を行います(規則5条3項)。
以上の手続の終了後,評価権者は,修正後の評価書(高等裁判所長官が調整・補充を行った場合には,その調整・補充を行った評価書)の記載内容又は申出に理由がないと認める旨を,不服の申出をした裁判官に通知します(規則5条4項)。この通知は,評価書の写しを交付する方法によって行います。
(別紙)
評価項目及び評価の視点
1. 事件を適切に処理するのに必要な資質・能力(事件処理能力)
- 法律知識,法的判断に必要な資質・能力(法的判断能力)
・法律知識の正確性・十分性
・法的問題についての理解力・分析力・整理力・応用力
・証拠を適切に評価する能力
・法的判断を適切に表現する能力
・合理的な期間内に調査等を遂げて判断を形成する能力 など - 裁判手続を合理的に運営するのに必要な資質・能力(手続運営能力)
・法廷等における弁論等の指揮能力
・当事者との意思疎通能力
・担当事件全般を円滑に進行させる能力 など
2. 部等を適切に運営するのに必要な資質・能力(組織運営能力)
- 部又は裁判所組織全体を円滑に運営する能力
- 職員に対する指導能力
- 職員・裁判官等に適切に対応する能力 など
3. 裁判官として職務を行う上で必要な一般的資質・能力(一般的資質・能力)
- 識見
・幅広い教養に支えられた視野の広さ
・人間性に対する洞察力
・社会事象に対する理解力 など - 人物・性格
廉直さ,公平さ,寛容さ,勤勉さ,忍耐力,自制心,決断力,慎重さ,注意深さ,思考の柔軟性,独立の気概,精神的勇気,責任感,協調性,積極性 など