宮崎裕子最高裁判事によるオンライン講話

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オンライン講話の実施について

令和3年6月28日,宮崎裕子最高裁判事が,母校である東京学芸大学附属高等学校とウェブ会議システムを通じて,刑事裁判をテーマにした生徒たちによるディスカッションの様子を視聴,判事による講話をお届けしました。ここでは,概要と講話の一部をご紹介いたします。

宮崎裕子最高裁判事

生徒たちによるディスカッション

生徒たちは3つのグループに分かれて,NHK Eテレ「昔話法廷」の「舌切りすずめ」を題材に,すずめは有罪か,無罪であるかディスカッションを行い,「舌を切られて夢を奪われたという大きな事情が背景にあり,動機は十分に認められる」「第三者がすずめを犯人に仕立て上げた可能性もあり,動機や状況証拠だけですずめが有罪だと断定するのは難しい」「すずめに殺意があったとするならば,毒虫や毒蛇という確実性がない手段は選ばないのでは」など白熱した議論が交わされました。

宮崎判事による講話

ディスカッションを受けて

裁判というものは,一定のルールがあり,そのルールにのっとり考え方を進めていくというものです。

裁判における事実認定にもルールがあります。刑事事件の場合は,検察官の方で「犯罪事実があった」ということを証明しなければならず,弁護士の方で「犯罪事実がなかった」ということを証明するわけではありません。検察官が「あった」という証明をある程度以上の合理性をもって行わないと有罪にはならないというわけです。これを立証責任と言いますが,証明しなければいけない責任を負わされている当事者が,その立証に失敗したら,その事実はなかったものと扱うというルールがあり,それを踏まえた上で事実認定を一つ一つ行っていきます。

先ほど拝見した皆さんのディスカッションの中で,どなたかが,直接証拠の有無について発言していましたが,確かに本件は犯罪事実を証明する直接証拠があるとは言い難く,被告人であるすずめが私はやっていないと否認している事件で,このあたりの事実認定は非常に難しいと思います。一方で,直接証拠がないと絶対に立証できないというものではなく,間接事実の証拠を積み重ねることによって,立証するという手法もあります。本件の場合,それができるかどうかというのはなかなか難しい問題があると思いますが,皆さん,証拠の有無など良い視点でコメントをされている方が多かったと思います。

生徒の皆さんへ

既に法曹を目指そうという方や,まだどうなるか分からないという方もいらっしゃると思います。私が高校生のときに,法律家になるために特別な勉強をしていましたかという質問をいただきましたが,特段そういったことはしていませんでした。当時,特にこれはやるべきだといったものがあるとは思いませんでしたし,今でもそのようなものがあるとは思っていません。

それよりも,好奇心のアンテナを広く張って,自分が面白いと思うものを探すことが必要であると考えます。好きとか嫌いとかに理屈はないですよね。自分が面白いと思うもの,好きと思えるものを探すために,好奇心のアンテナを広く張ることが,皆さんの年代のあるべき姿であると思います。

法曹実務家というのは実に得な仕事でして,どんな経験でも無駄になることは絶対にありません。やっているときは,こんなことをやって何のためになるのかと思うこともありましたが,どこかで私の肥やしになっており,とても役立っているなと感じております。どんなことでも無駄になることはありませんので,是非様々な経験を行ってもらうのが良いと思います。知的好奇心を広く持ち,他の人の話をよく聞く。また,一番重要なことは,どんなことでも鵜呑みにはせず,自分の頭でよく考える,考え抜くという習慣をつけることだと思います。結論だけを見て批判するのは簡単ですが,そこからは何も生まれません。自分でちゃんと考えた上で批判すべきことは批判する,人の考え方もよく聞く,そういう癖をつけることが非常に重要だと思います。

私が弁護士であったときも,裁判官になってからも,考え抜くという作業を詰めてやっていると,ある日突然,全然関係のないところでヒントをもらって,それで道が開かれる,論理がぱっと開けたような感じがするという感覚があります。ノーベル賞を取られた根岸先生がセレンディピティという言葉を使われていたと思いますけど,そういう瞬間が科学者ではなくても,法律家でもそういう感覚を持つことがあるということを是非知っておいてください。考え抜くという作業を何度も何度もやっていく内に,自分にもそういうものが訪れるということだと思います。

オンライン講話を終えて

生徒の皆さんからは「判事のものの考え方,捉え方など貴重なお話を聞くことができた」「新しい学びがあり,もっと司法について知りたいと思った」「法曹を身近に感じることができた」といった感想をいただきました。

これからの社会を背負って立つ皆さんに,より法と裁判に関心を抱いていただき,それを担う法曹という仕事に興味を持っていただければ,喜ばしく思います。

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