専門委員制度について

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 大学生のA美さんは,民事訴訟法のゼミで勉強をしています。最近,A美さんはゼミで欠陥住宅に関する紛争が増えていることを知り,同じゼミのB男君を誘って法廷傍聴に行ってみることにしました。二人が傍聴した事件は,住宅の買い主が,「3階建ての住宅を建てたが,半年もたたずに,床に置いたボールが転がってしまうくらいに建物が傾き始めた。ドアの立て付けも悪く,壁もひびが目立つようになってきた。このような欠陥住宅を建てた建設会社は損害を賠償する責任がある。」と主張している事件で,この日は,実際に工事を行った担当者に対する証人尋問が行われていました。傍聴を終え,A美さんとB男君は,ゼミのC教授の所に立ち寄りました。

C教授

法廷傍聴はどうだったかな?

B男

いやー,法廷のやり取りはやはり難しいですね。テレビみたいに,証人尋問によってすべてが明らかになる,というわけにはいかないんだなあ。

A美

それはそうよ。でも,建物が傾き始めた原因が争点で,敷地の地盤にふさわしくないような基礎工事を行ったかどうかが問題になっていたようね。

B男

そういえば,証言の中には,地盤,地質調査の方法や内容,基礎工事に関する専門用語が出てきて,何のことを言っているのかさっぱり分からなかったけど,時々,裁判官の求めに応じて,専門用語を簡単な言葉に言い換えたり,分かりやすく説明している人がいたよね。あの人はどういう人なの?

A美

知らないの?あの人は専門委員よ。訴訟に出てくる専門的な事項,今回の事件で言えば建築分野に関する事項を説明する人なのよ。

B男

へえー。

A美

法律の改正で,平成16年4月から設けられた新しい制度なのよ。

B男

その専門委員っていう制度は,どうして設けられたの?

C教授

それは多分,専門委員が,証人尋問を行う前の争点整理の段階でも関与していたからではないかな。当事者が出してくる様々な主張や証拠には,建築関係の専門用語がたくさん出てくるけど,裁判官は,そういう用語を理解した上で争点等を整理しなければならない。だから,この争点整理をする場面で,専門委員に説明をしてもらえれば,裁判所や当事者にとって分かりにくかった建物の構造や基礎工事などの建築関係の専門的な内容を理解できる。そうすれば,当事者の主張等の整理がはかどり,事件の争点が,適切な基礎工事を行ったかどうかであることを早期に明確にできるよね。

A美

争点が明らかになれば,その判断に必要な証拠が何かということもはっきりするし,だれを証人にして,どんなことを尋問するかが限定でき,訴訟の進行もスムーズになる,というわけですね。

B男

そうすると,裁判所が必要だと考えたときには,いつでも争点整理や証人尋問に,専門委員を関与させることができるんですか?

C教授

当事者の意向に配慮することも大切だね。だから,争点整理や証人尋問に専門委員を関与させるときは,当事者双方の意見を聴く必要があるんだ。また,当事者の同意があれば,当事者双方が互いに譲歩して,話合いによって争いの解決を図る和解の手続にも,専門委員は関与することができるんだよ。

B男

ふーん。すると,専門委員は,訴訟手続のほとんどの場面に関与できることになるんですね。

C教授

そうだね。ただ,専門委員は,争点について判断をするわけではないから,判決には関与できないんだよ。

図版:各種訴訟手続における専門委員の関与

B男

専門家といえば,証人尋問の中で鑑定人の提出した「鑑定書」という書面が問題になっていたようでしたが,鑑定人と専門委員はどう違うのですか?

C教授

鑑定人は,争点に関して裁判所が決めた鑑定事項に対して,自分の意見を述べる立場の人で,その意見は,裁判の証拠として,判決をするときの基礎資料となるんだ。例えば,敷地にふさわしい基礎工事は何なのか,実際に行われた基礎工事が不適切なものであったのかどうかというような裁判所の決めた鑑定事項について鑑定書を作成するなどして意見をまとめ,裁判所に述べることになるんだ。
これに対して,専門委員は,分かりにくい専門的な事項について,訴訟手続の中で一般的な説明をし,裁判所に不足している知識を補う立場の人だよね。その説明自体が証拠となるわけではなく,その内容を判決の基礎資料とするためには,当事者は別途証拠を提出することが必要になるんだ。

A美

専門委員は,分からないときに助言をしてくれるアドバイザー的な立場の方なんですね。

C教授

そのとおりだよ。ところで,今回傍聴した事件のように,争いを解決する上で法律以外の専門的な知識を必要とする訴訟を「専門訴訟」というけれど,専門訴訟は,建築関係訴訟以外でも様々なものがあるよね。

A美

はい。患者に投与する薬を間違えてしまった場合など医療ミスが問題となる訴訟や,特許が与えられた発明を他の人が勝手に使って商品を売り出したときなど,特許権の侵害が問題となる訴訟についても,専門的な知識が必要になりますね。

C教授

そうだね。これらの訴訟は,それぞれ医事関係訴訟,知的財産権関係訴訟といわれ,典型的な専門訴訟として挙げられるよね。専門委員には,このような専門訴訟において手続全般に関与して,アドバイザー的な立場から専門的な事項についての説明をしてもらい,それによって,訴訟がスムーズに進行することが期待されているんだ。

B男

専門委員のおかげで,裁判官にも専門的な事項が理解でき,訴訟がスムーズに進行していくんですね。確かに,事件の内容は難しかったけれど,傍聴していても,進行はスムーズでしたね。専門訴訟には,何か難しそうで近づきにくいという印象があったのですが,別の専門訴訟も傍聴してみたくなりました。

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