(1) 検察官の立証
冒頭手続の次に行われる証拠調べ手続は,検察官側の立証と被告人側の立証に分かれます。最初に検察官側から立証が行われます。
刑事事件においては,「疑わしきは被告人の利益に」の原則が貫かれていますから,まず,検察官が,証拠によって公訴事実の存在を合理的な疑いを入れない程度にまで証明するための立証活動をしなければならないわけです。具体的な手続としては,検察官は,まず冒頭陳述を行って,証拠によって証明しようとする事実を明らかにした後,個々の証拠の取調べを請求します。これに対して,裁判所は,被告人側の意見を聴いた上で,検察官が取調べを請求した証拠を採用するかどうかを決定し,その上で採用した証拠を取り調べます。証拠には,証人,証拠書類,証拠物の3種類があり,それぞれの種類ごとに,例えば,証人であれば尋問,証拠物であれば展示というように取調べ方法が法律に定められていますので,それに従って取り調べるわけです。
(2) 被告人側の立証
検察官側の立証に続いて,反対当事者である被告人側の立証が行われます。この立証は,裁判官に対して,公訴事実の存在につき,検察官の立証が合理的な疑いを入れない程度にまでは証明されていない,と考えさせるだけで十分であり,それ以上に,公訴事実が存在しないことまで証明する必要はありません。公訴事実の存在に争いがない事件については,主に,被告人にとって有利な情状の存在を証明することを目的とすることになります。裁判所は,検察官側の立証の場合と同様に,被告人側が取調べを請求した証拠を採用するかどうかを決定し,採用した証拠を,法律の手続に従って取り調べます。
(3) 弁護人の役割
現行刑事訴訟法は,当事者主義的訴訟構造を採用しており,当事者が証拠の収集・証拠の公判への提出等の訴訟活動を十分に行い,攻撃・防御を尽すことが,適正・迅速な刑事裁判の実現のための不可欠の前提となっています。検察官は法律家ですから,このような法の要請に応えることが可能ですが,被告人の方は,ほとんどの場合,そうはいきません。そこで,その代理人あるいは補助者としての弁護人の役割が極めて重要になります。死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件等の審理では,弁護人がいなければ開廷できないものとされ(必要的弁護事件),また,被告人が貧困その他の理由により自ら弁護人を選任することができないときなどに,国が弁護人を付ける国選弁護制度が設けられているのも,弁護人の役割の重要性を考慮したものです。