司法制度改革:21世紀の司法制度を考える(3/3)

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裁判所の機能の強化

 裁判官及び裁判所職員についても,迅速化,専門化に対応するための増員を前提とした態勢の充実強化が必要である。特に,繁忙な都市部の裁判所を中心とする裁判官,書記官等の増強,専門的事件に対応するための裁判所調査官,家裁調査官の充実を図る必要がある。(石井,井上,北村,高木,竹下,鳥居,中坊,藤田,水原,山本,吉岡各委員の意見)

検察の機能の強化

 従来型の犯罪の増加が予想されるのみならず,ホワイトカラー犯罪,外国人による犯罪,先端的技術を用いた犯罪等に対する厳格な法の執行の要請が高まっており,検察官,検察事務官の充実をはじめとする検察の機能の強化が必要であろう。(井上,北村,高木,竹下,鳥居,中坊,藤田,水原,山本,吉岡各委員の意見)

(2)専門的紛争への対応と多様なニーズへの対応

 社会の多様化,専門化に適切に対処していくための総合的な対応策が必要となるであろう。弁護士及び裁判官の数を増加させるとともに,専門家の手続関与を容易にする制度(専門委員,更には専門参審制等)の導入,管轄の集中等の制度的な改革も検討する必要がある。また,専門的紛争について,ADR調停などを活用することも検討する必要がある。(石井,井上,北村,高木,竹下,鳥居,藤田,水原,山本各委員の意見)
  法的紛争は,その内容に応じて種々の解決方法が考えられ,すべてについて,まず厳格な裁判手続,特に判決手続で解決することは当事者も望まないであろう。既に幾つかの分野では,最終的には裁判による解決が保障された上で,準司法的な機関等による紛争の解決が図られている。裁判所でも伝統的な和解,調停,督促等の手続のほかに,新民事訴訟法により少額裁判制度が設けられた。今後,このような紛争解決に関するメニューの充実に併せて,より専門的な分野における調停,仲裁をはじめとする各種のADRの開拓,並びにこれと裁判手続との関連,裁判情報等の適切な提供等について検討する必要があろう。(石井,井上,北村,高木,中坊,藤田,水原,山本,吉岡各委員の意見)
  また,現在ある各種のADR,自治体等による相談等広い意味での紛争処理システムと裁判とが必ずしも有機的につながっておらず,利用する国民が合理的に選択できるシステムになっているとは到底いい難い。これらの紛争解決手段の相互の関係を分かりやすいものにし,かつ,そのことを含めた一般的な法律情報を提供し,相談に応じる態勢を整備することが必要である。(石井,高木,竹下,水原,山本各委員の意見)

(3)国民の司法参加(資料1314参照)

 司法に国民の意思を反映させ,司法を国民に身近なものとするため,陪審,参審制の導入が提言されている。一般的にいうと,司法手続に国民の意思を反映させることは,国民の司法に対する関心を高め,司法の在りようが国民の意識や感覚により近いものになるという観点から有意義であることは明らかである。

我が国の司法参加の制度

 既に我が国でも,調停委員,司法委員,参与員あるいは検察審査会制度等が,司法参加の制度として大きな役割を果たしてきた。とりわけ調停制度については,約2万人の調停委員が,民事,家事合計で年間約35万件の事件に対応している。調停制度は,必ずしも法的に構成されていない当事者の生の声を聞き,法に従いつつ条理に照らして合理的な解決策を見いだしていくというものであり,家庭裁判所,簡易裁判所の役割の充実に大きく貢献し,諸外国からも極めて高い評価を得ている。

陪審制,参審制の検討の在り方

 しかし,陪審,参審制度は,最終的な判断作用そのものを国民の手にゆだね,あるいはこれに関与させようというものであり,裁判の在り方を大きく変容させるという意味で,司法制度の根幹に関わる問題である。また,多くの委員が指摘されているように,その円滑な運営のためには,国民の負担をはじめとして,多くの社会的,制度的な条件が関わってくる問題でもある。
 例えば,陪審裁判では,先に述べた真実の発見という機能よりも,訴訟活動の評価を陪審員にゆだね,結論を得るという要素が強い。そのため,陪審裁判では,真実の発見という要請は後退せざるを得ないことになろう。また,有罪,無罪についての陪審の評決には理由が付されないから,詳細な事実認定を明示する現在の我が国の裁判とは全く異なる裁判となる。国民の代表である陪審員の事実認定はいわば天の声であるから,これを不服とする上訴も許されないことになる。さらに,陪審裁判を可能にするための条件も少なくなく,陪審員となる国民の負担,陪審員に事件の予断を抱かせないための報道の規制,連日開廷に対応する弁護人の態勢,陪審員が直接的に証拠を吟味できるようにするための刑事訴訟手続の抜本的な見直し等についての検討が必要である。
 参審制度についても,その形態にもよるが,大なり小なり陪審制について指摘されているのと同様の問題がある。ただ,様々な形態が考えられるだけに,態様いかんによっては,その長所を最大限に引き出し,問題点を最小限にとどめるという工夫をすることも可能であろう。専門的民事紛争に対応するための専門参審制などについては,現在の裁判制度のもとでも十分に検討に値するところである。
 この問題は,司法制度の根幹に関わることから,最終的には国民が判断すべき問題であるが,裁判所としても,この問題が討議される際に,各論点について十分説明したいと考えている。

[人的基盤について]

 各委員の指摘されるように,司法制度の人的基盤の充実を図っていく必要がある。この検討においては,法的ニーズの在り方,隣接法律職種の機能,法曹養成の在り方等について,多角的に考える必要があろう。

(1)法曹養成(資料15161718参照)

 我が国の法曹人口は先進諸国に比して少ないといえよう。もっとも,ここにも制度,慣行の違いがあり,例えば米国では,弁護士資格を有する者が,各レベルの公務員となったり,企業の経営に加わるなど,必ずしもそのすべてが法律実務に関与しているわけではない。また,他方で,我が国では司法書士,行政書士,弁理士,税理士等が特定の範囲の法律関係事務を担当しているが,米国ではこれらもすべて弁護士の業務である。
 さらには,これらの国々において,法曹人口数がどう評価されているのかということも問題である。アメリカでは年間約1500万件,ドイツでも約200万件の民事訴訟が起こっており,民事訴訟の多さが社会問題化しているといわれるが,過剰な弁護士がその一因となっていると考えられている。
 このように,単純に人口当たりの法曹数を比較することは相当でないが,前述の点を考慮しても,我が国の法曹人口が少ないことは事実であり,各委員が指摘されるように,法曹の機能の充実を図るため法曹人口の増加が不可欠であると考えている。
 問題は,法曹人口がどの程度少ないのか,あるいはどの程度の法曹を養成していくべきかという点である。この点,これまでは,専ら諸外国の法曹人口との対比において論じられてきた。我が国の状況を俯瞰的に把握するという点ではこうした比較は有意義であろうが,現実の政策の基盤としては,より具体的な検討が不可欠であり,「法曹の必要性」,「法曹養成の在り方」という二つの観点からこの問題を検討する必要があろう。

法曹の必要性

 まず将来を含め,「どのような法曹の必要性が具体的に考えられるのか」,「それを満たすためにどの程度の法曹の養成が必要か」ということが問題となる。これは,差し当たりは,既に述べた我が国の司法制度の諸問題を解決していく上で必要な法曹の規模の問題ということになる。
 これを固定的な数値で言うことは極めて困難であり,現実には,上記の諸問題がどのように解決されていくのか実証的な検討を加えつつ判断していくことが望ましいところであろう。例えば,「弁護士過疎,本人訴訟率の高さはどう改善されていくのか」,「弁護士事務所の組織化・専門化はどう進んでいくのか」,「隣接関連職種の機能の在り方をどう考えるのか」,裁判所について見れば,「大型事件・専門的事件を的確かつ迅速に処理していくための態勢をどのように整備していくのか」等の問題の解決方法,その展開を考慮する必要がある。
 さらに,新しい需要との関係でいうと,「企業法務を中心として,諸外国との経済競争にどう対応し,その担い手をどうするのか」,「紛争予防,法規策定,法律相談等の裁判以外の法的ニーズにどう対応していくのか」,「企業,行政庁等の組織への法曹の登用がどのように進んでいくのか」という点にも大きく関わる問題である。

法曹養成の在り方

 次に,「どのような法曹養成の方法が望ましいのか」,「どのような水準の法曹を養成していくのか」等という問題がある。

我が国の法曹養成制度

 我が国の法曹養成は,通常,大学の法学課程を履修して司法試験に合格し,司法研修所において,1年半の司法修習を経て,最終試験に合格した者に法曹資格を付与するという方式を採っている。修習生は,国家公務員に準ずる身分となり,給与を支給され,前期及び後期の各3か月間は司法研修所で集合教育を受け,中間の1年間を全国各地の裁判所(6か月),検察庁(3か月),弁護士会(3か月)において,実務を体験しながら研修(実務修習)することとされている。
 この制度が発足した昭和24年の司法試験合格者は265人であったが,昭和30年代に入って300人台となった。昭和39年からは10年間にわたって500人台を続けたが,昭和49年以降はむしろ400人台に低下した。この間に司法試験の合格率の低さがかえって有為な人材を遠ざけているとの認識が広まり,平成3年,試験制度の一部を改正し,合格者の人員を750人台まで徐々に増加してきた。さらに,平成11年からは司法修習制度を改革するとともに養成人員を平成11年度は800人,12年度以降は1000人程度とする旨の方針が打ち出されたところである。
 司法研修所教育の中核は,実際の法律実務を遂行している法曹のもとで,個々の事件を通じて法曹三者それぞれの職務に必要な技術を習得させるとともに,法曹のエトスを自覚させるという点にある。これは,医師の養成において,基礎医学とともに臨床教育が不可欠であるのと通じるものがあり,司法研修所教育は,法律実務家に要請される技術とともに,執務姿勢,職業倫理等の人間的資質の基盤をかん養するという理念の下に実践されてきた。

大学教育と法曹養成の問題の検討の在り方

 このような司法修習の目的を十分に達成するためには,まずもって,司法試験において法曹となるのに必要とされる基礎的な法律知識を備えていることが的確に判定されることが必要である。しかし,我が国ではその前提となる大学法学部教育が,法曹養成よりはむしろ公務員,企業等のゼネラリストの養成に重点を置いてきており,法曹となるための基本的な法学教育が極めて不足しているという問題がある。
 このような大学教育と法曹養成とのかい離を見直すという観点から,最近我が国でもロースクール,あるいは法科大学院を設置し,体系的,組織的に法曹養成を行う必要があるという指摘がなされている。竹下,鳥居各委員の指摘されるように,司法試験及び司法修習との関連をどう考えるかといった基本的な点についても,いまだ具体化されているわけではないが,大学教育との関連性の強化は重要な課題であり,これまでの我が国の法曹養成の大きな問題点を改善する方向を示すものとして期待されるところである。
 ところで,法曹は単なる技術者にとどまるものではなく,個人の権利を擁護し,紛争を解決することにより,社会の調和を図るという優れて実践的な役割を担っていることを考慮すると,数の増加に走る余り質の低下をきたすことがあってはならないであろう。司法修習制度は,このような法律実務家を養成するための不可欠の過程であり,多くの国でこうした実践的研修の課程が設けられている。こうした制度を持たないアメリカでは,最近,社会的役割の意識を欠いた技術集団として大量に養成された法曹の在り方,そこから生じる病理現象について,深刻な問題提起がなされているといわれている。また,実際問題としても,近い将来,我が国の大学院において質を備えた適正量の実務家を養成していけるだけの実務的な知識と経験を持ったスタッフを確保するのは困難ではないかと思われる。
 その意味で,実践的研修の課程として現在のような修習制度を維持していくことが必要であり,法曹養成の規模は,こうした修習制度を踏まえた,養成の在り方との関連でも考慮される必要があると考えている。
 法曹人口の不足を一挙に解消するため,できるだけ大きな数値目標を定め,法曹の質は資格取得後の競争,自然淘汰にゆだねるべきであるという意見がある。しかし,法曹が究極的には裁判作用に関わる職責を負っていることからしても,一定の質の確保は不可欠であり,これを自由競争にのみゆだねるべきであるという見解には賛成し難い。

小括

 法曹の必要性と法曹養成の在り方という二つの観点から直ちに養成すべき法曹の数値が導き出されるわけではない。しかし,基本的にはこの二つの観点をベースにして,現在検討中の法科大学院構想の推移,法律隣接職種の機能等を考慮しつつ,法曹養成数について具体的なスタートラインを設定し,継続的,漸進的拡大を図ることが現実的かつ妥当であると思われる。

(2)法曹一元(資料192021-121-22223参照)

 我が国の裁判官の任用制度については,裁判所法42条に定められているとおり,下級裁判所の判事は,判事補のほか,検察官,弁護士,大学教授等から任命できる。ただ,実際の判事の任命状況をみると,毎年数名程度の弁護士任官者を除くと,判事補から任命される者が大部分となっている。
 諸外国の裁判官の任用制度をみると,法曹一元を採っている国とキャリアシステムを採っている国とがあり,いずれか一方が唯一の任用制度となってはいない。また,法曹一元を採っている国についても,イギリスの上級裁判所のように弁護士の中の長老が裁判官になるシステムと,アメリカのように弁護士の中から選挙等によって裁判官を選任するシステム等がある。
 法曹一元は司法制度の基本的な理念に関わる問題である。先の臨時司法制度調査会において,キャリアシステムと対比して,そのメリットとデメリットが指摘され,「法曹一元の制度は,これが円滑に実施されるならば,我が国においても一つの望ましい制度である。」とされた上,「しかし,この制度が実現されるための基盤となる諸条件は,いまだ整備されていない。」として,法曹人口の増加,弁護士の大都市偏在化の是正,弁護士活動の共同化の推進,弁護士倫理の確立等の条件が指摘され,さらに,「弁護士,検察官等で裁判官となるにふさわしいものをできる限り多数裁判官に任用することができるよう法曹三者が協力すること。」という具体的な提言もなされている。
 社会が複雑化し,価値観も多様化する中で,裁判官にも多様な人材が必要とされることはいうまでもなく,裁判所が,弁護士からの任官を推進するための方策を採ってきたのも,このような観点からである。しかしながら,裁判所,弁護士会の努力にも関わらず,弁護士任官者の数は,現実には年間わずか数人にすぎない状況にあり,地域的にも一部の庁に限られている。これには種々の要因があると思われるが,帰するところは,臨司意見書で指摘された法曹一元のための基盤整備が進んでいないためであろう。
 今日の議論には,こうした実証的視点を欠いた理念的なものが少なくなく,また,この点に関連して,我が国の裁判官に対し,キャリアであることをとらえて様々な批判や非難がなされている。我が国の裁判官は,戦前,戦後を通じて,独立不羈,公正廉直を自らに課し,最終的な判断者としての職責の重さを自覚し,不断の研さんを通じて実務能力をかん養するという執務姿勢を一貫して堅持してきたところである。しかし,井上,水原,山本各委員の指摘されるように,変化の著しい今日,多様な紛争を取り扱うための柔軟な思考力と幅広い視野をかん養することが,これまで以上に強く求められており,今後は,裁判官のキャリアの中で,そうした経験を積むことができるような態勢を更に充実させていく必要があり,またそのためにも,弁護士からの任官者が増加し,裁判官相互の間で意見の交換が活発化することが望ましいと考える。

 以上,裁判所の目からみた司法の現状と問題点並びに今後の改革の方向について説明した。
 司法制度にどの観点から見ても完全無欠というようなものはあり得ない。どの国でも様々な問題を抱えつつ,社会の変化に応じて司法制度の改革を常に進め,それによってその国固有の司法を築き上げているわけである。我が国の司法について最も欠けているのは,そうした柔軟で継続的な改革,改善の思想とそのためのシステムであろう。井上,竹下各委員の指摘されるように,この審議会においては,継続的な視点から問題点の改善が実現されるような具体的な方策についても検討されるべきであろう。
 また,司法制度の人的基盤に関する問題は極めて重要な課題であるが,特に,その中でも,井上,中坊,水原各委員の指摘されるように,弁護士,更には弁護士会の活動や責任の在り方は,将来の我が国の司法制度の在り方に極めて大きな影響を与え,重要性を増すものと思われることから,この点の検討も必要である。

 今まさに,人知を超える大きな変化と発展を遂げた20世紀を終えようとしているが,新たな世紀においてもまた様々な大きな変化を迎えることと思われる。それゆえに,将来のニーズに対応し得る柔軟で厚みのある司法制度の基盤を整えた上で,常に「変えていくべきものは何か」,「発展させていくべきものは何か」を吟味しつつ,継続的な改革努力を傾けていくことが何より肝要であろう。

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