高須順一最高裁判事就任記者会見の概要

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令和7年3月27日

【記者】

 最高裁判事に就任されるに当たって、御所感と今後の抱負をお聞かせください。

【判事】

 2001年に公表された司法制度改革審議会意見書では、司法機関について、他の国家機関と並んで「公共性の空間」を支える柱であると指摘しています。これは司法に対する国民の期待を示す言葉であると私は理解しております。そのような司法の役割を十分に果たすためには最高裁判所の役割は誠に大きいものがあると思っております。そのために一法律家として微力ではありますが全力を尽くしたいと思っております。
 また、今後の抱負としましては、民法をはじめとして多くの法律が改正されております。故星野英一先生が、平成の時代になされた多くの実体法の改正作業を、明治維新期、第二次世界大戦後に続き、「第三の立法改革期」と表現されたことが思い起こされます。
 私自身、法制審議会の部会の幹事として、債権法改正の立法作業に従事しましたが、制定された法律が、その役割を十分に果たすためには、その法令に関する充実した解釈論を構築する必要があると思っております。その解釈論の構築には最高裁判所の果たす役割が誠に大きいものがあります。現実の紛争事件の解決のために法を適用することが司法の使命であるとすれば、その使命を全うするために適切な法の解釈を試みることは、さきほどの所感で述べたことにも共通するところでありますが、国民の期待に応えるという司法の役割に不可欠なものであると考えております。そのために最高裁判事として、その職責を全うしたいとの抱負を抱いております。

【記者】

 これまでの弁護士としてのお仕事を振り返り、特に印象に残っているものがあれば御教示ください。また、弁護士として最も大切にしてきたことは何か、それを最高裁判事のお仕事にどのように生かしていきたいとお考えかも、併せてお聞かせください。

【判事】

 私が担当した著名な事件ということであれば、最高裁で口頭弁論が開かれ、判決内容としても当方の主張が認められることとなりました不動産賃料の自動増額条項の効力に関する訴訟事件などがございます。この事件などは判決当日の新聞報道などでも取り上げていただき思い出となった仕事でございました。しかし、私にとっては、このような社会的に注目されるような事件では全くないけれども、終生忘れることのできない事件がございます。
 具体的な内容はこのような場でお話しすることははばかられますが、私が若い時に依頼を受けた事件でございます。依頼者は海外から日本に来日した留学生の方でございました。事件解決のために多くの困難と海外からの留学生に対する偏見のようなものを実感させられた事件でしたが、懸命にその事件に取り組む中で、在野の法曹であっても法を駆使して真摯に取り組めば、一弁護士として多くのことができることを、その事件を通じて学ぶことができました。
 その時に学んだことを36年間に及ぶ私の弁護士としての人生の中で最も大切にしております。在野の一弁護士として懸命に仕事をする中で培った経験及び今、述べましたような法を駆使して事件解決のために真摯に取り組むということの重要性を大切にして、謙虚に最高裁判事としての仕事を誠実に行ってまいりたいと考えております。

【記者】

 最近の司法の動向について、特に印象に残っているものや、今後の司法の課題などについてのお考えをお聞かせください。

【判事】

 私は昨年までの間、4年間ほど最高裁判所民事規則制定諮問委員会の委員を務めさせていただきました。この委員会で行ったことは、民事訴訟手続のデジタル化のための新たな訴訟規則を制定することでした。この審議を通じて、民事訴訟のデジタル化の重要性について、具体的に実感することができました。
 この司法のデジタル化の動きは、現在、民事訴訟のみならず司法に関する各種手続についても及んでいますが、さらには年間20万件以上といわれる民事判決データそのものをデジタル化して、いわゆるビッグデータとして利活用することをも可能とするということも検討される段階になっています。ソサエティー5.0などという表現があるように、社会の変化が急速に進む中、司法もまたその動きに呼応する必要があるとの強い印象を持っております。この司法のDX化という点が最近の司法の動向について特に印象に残っている点でございます。
 そこで、この社会のデジタル化との関係で見えてくる司法の今後の課題でございますが、デジタル化された社会におけるデジタル化された司法の固有の役割というものを、どのように考えるかという問題であると思っています。AIが司法の分野においても一定の役割を担うことが現実になっている中で、司法が司法であり続けるためには何が必要なのか、私自身、定見を有しているわけではありませんが、今後の司法を考える上で大変、重要な事柄であると思っております。一つの切り口は「法的正義」の追求というものであり、そして、もう一つの重要な視点は、国民にとって利用しやすい司法を実現することであると思っております。大変、重要でありながら大変、難しい御質問ですので、それ以上のことを現時点でお答えすることは困難でありますが、今後、最高裁判所裁判官として仕事をしていく中で、私なりの答えを見つけていきたいと思っております。

【記者】

 休みの日の過ごし方や御趣味について教えてください。

【判事】

 年を取れば取るほど仕事ばかりの生活になってしまっておりまして、若い時は写真を撮ったり、天体観測をしたりするという趣味があったのですが、今はほとんどなくなってしまいました。ただ、唯一趣味と言えるのが、万年筆を集めることでございます。色々な万年筆を買い集めておりまして、また、実際にその万年筆を使うということを仕事の励みにしております。

【記者】

 万年筆は今何本お持ちなのですか。並べられて眺められたりするのでしょうか。

【判事】

 ナンバーまでは付けていないので、正確ではないのですが、七、八十本だと思います。もちろん、万年筆入れなどに入れたりもするのですが、集めるというよりは使うことを私は大事にしたいと思っておりまして、何らかの新しい仕事をする度に、この万年筆で仕事をしようと。万年筆を使って仕事をすることは少ないのですけれども、それでもそのような場面もございますので、七、八十本の中から適宜使わせていただいております。

【記者】

 法科大学院の教授をされる中で若い生徒さんと触れ合うこともあったと思います。弁護士としての活動と教授としての活動とを踏まえて、今の司法に求められているものや気付かされたことがあれば教えてください。

【判事】

 現実の仕事をしている時と若い人と向き合って法律を教えている時とでは、ある程度性質が違うのですね。両方をやらせてもらったので、大した趣味のない人間でも、何とか気分転換をしながらやってこられたのかなと思っております。
 若い人にロースクールで法律を教えておりますと、新しい時代の実感のようなものを、若い人の息吹のようなものを感じます。これからの司法の中でも新しいものが形作られていくのであろう、それをきちんと承継していくためにもしっかりとロースクールで学んでもらいたいと思っております。

【記者】

 思い出に残っている事件の関係で、海外留学生の方の話をされましたが、御自身が何歳くらいの時の話でしょうか。

【判事】

 たしか、35歳頃だったかと思います。弁護士になって七、八年経つか経たないか、そんな時だったと思います。

【記者】

 性の多様性についてお伺いいたします。性的少数者の方々が権利を求めて司法に期待する声がある一方で、海外では性は二つしかないとの考えもあり、非常に議論があります。そうした性的少数者の権利や性の多様性を考えるときに、どのような視点が大事になると思いますか。

【判事】

 確かに重要な問題であるということは、弁護士として仕事をする中で思っておりました。視点ということで大事になるのは、今後私も裁判官となりますので、具体的な事件を通じて、謙虚に多くの方の意見を聴きながら考えるということかと思います。具体的な内容は、またその時に考えることになるかと思います。

【記者】

 先ほど「在野の法曹」というお言葉を使われておりました。御出身の事務所には過去にも最高裁判事になられた方がおられたかと思いますが、何か影響を受けたりお話を受けたり、事務所の性質だったりも含めて何かお伺いできることがあれば教えてください。

【判事】

 私の事務所は、現在でも私を入れて4人という極めて小所帯の法律事務所でございます。私が司法試験に受かって勤めましたのが、今お話が出ました、遠藤光男という、30年前でございますけれども弁護士から最高裁判事になった先生の事務所でございました。その時は遠藤先生と私しかおらず、二人でやっていた事務所でございました。遠藤先生が最高裁判事になられて、もちろん事件の中身を私に何か話してくれるわけではありませんでしたが、ただよくおっしゃっていたのは、本当に大変だけれども、激務だけれども、法律家としてこれほどやりがいのある仕事はない、そうおっしゃっていたことが、とても耳に響きました。その頃からやはり最高裁判所は大切なところなのだなあと思った記憶がございます。

【記者】

 遠藤先生の事務所に入った経緯を教えてください。

【判事】

 私は法政大学出身なのですが、遠藤光男先生は、法政大学の大先輩でありまして、司法試験の勉強をしている時に、法政大学には遠藤光男先生という立派な先生がいらっしゃるというお話を我々はずっと聞いておりました。ですから、遠藤先生の事務所に入りたいということで修習生の時に日参いたしまして、先生もその熱意に負けたのかどうか分かりませんが、「事務所に来るか。」と言っていただいて、「もちろん行きます。」と言って、二人でやらせていただけるようになりました。

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