平成30年2月26日
【記者】
最高裁判事としての感想と抱負をお聞かせ下さい。
【判事】
この度,最高裁判事に任命され,大変重い責任を担うことになったということで身の引き締まる思いを感じています。司法というのは,紛争を適正妥当に解決するということを通じて,権利の保護や救済,そして法の支配の実現ということを使命とするものでありますので,与えられた職務に対して誠心誠意,全力で尽くしてまいりたいと考えているところであります。
【記者】
法務省,検察庁で印象に残っている仕事は何でしょうか。また,そこで得た経験をどのように生かしたいとお考えでしょうか。
【判事】
私の場合,三十数年間検事を務めてきたわけでありますが,各地の検察庁で勤務をしましたけれども,一方で,相当の年数,法務省での勤務をしております。法務省の勤務の中では法律の立案にいくつか関与しました。
印象に残っているものの一つとして,平成19年だったと思いますが,犯罪被害者が刑事手続に参加するという制度を設ける立法がありました。それまで,犯罪被害者が刑事手続の中で必ずしもきちんと位置付けられていなかったという声を受けて,参加という形でそれを認めることになったということで,たいへん感慨深いものを感じております。
この立法の中でいろいろ議論はあったのですけれども,ひとつの制度を作るということについては,いろいろな配慮が必要なわけで,刑事手続の場合には,被疑者,被告人がいて,その弁護人もいて,裁判所,検察官もいる。それぞれ立場があるわけで,犯罪被害者を参加人として手続に加える場合に,それぞれの視点でどう考えるかということで,いろいろな議論をし,手続を考えたということが大変印象深く残っています。
裁判はもちろん立法とは違いますので直接当てはまるわけではないと思いますけれども,そういう立場の違う考え方,あるいは様々な視点から考えるという点では,ひとつの事案,ひとつの問題に対して,様々な視点や様々な角度から問題を検討するということは必要なのだろうと考えているところです。
【記者】
司法の今後の課題について,考えをお聞かせ下さい。また,課題についてどのように対応していきたいとお考えでしょうか。
【判事】
司法は紛争の適正妥当な解決と申し上げましたけれども,社会の急速な変化にどう対応するかということ,その中で適正妥当な解決ということをどう考えるのかということがひとつの課題としてあるのではないかと思っています。社会が複雑化し,国境を越えていろいろなものが流通し,人も交流し,情報通信も飛躍的に発展しているという状況の中で,個人の権利利益というものがますます複雑になっているというように思います。
また,価値観も多様化しているという中で,解決が難しい事案も増えているように思います。そういう問題に対して,適正妥当な解決をしていくということになりますと,質の高い審理判断,あるいはより深い審理判断というものが求められるのだろうと考えているところであります。私もそういう問題に対しては,自ら研さんを積んだうえで,十分な検討をしていきたいと考えています。
【記者】
今年の6月には,刑事裁判でいわゆる司法取引が導入されることになるのですが,これについては,どのような運用が求められるとお考えでしょうか。
【判事】
新しい刑事訴訟法によってこれまでになかった捜査手法というのでしょうか,制度が導入されるということで,今年の6月から施行されるものもありますので,それについては,それを実際に運用していく検察官,弁護人,裁判所,それぞれの立場から運用の仕方を十分注視していく必要があるだろうと思います。
特にこれまでにない新しい性格を持っておりますので,刑事訴訟法のこれまでの考え方,運用の基本とどう調和して,スムーズに入っていけるのかといったことについては,それぞれの立場から十分に注視していく必要があるだろうと思っています。
【記者】
検察官出身ということで,これから裁判官という立場でどういった視点で検察庁という組織を見ていきたいと考えていらっしゃいますか。
【判事】
検察官は公益の代表者として活動していますので,必ずしも被告人の不利益になることだけを主張するというのではなく,まさに公正な立場から捜査をし,主張をし,という活動をしているものと考えています。
裁判の場では,裁判官というのは対立当事者とは別の関与の仕方になるわけですけれども,公平さ,公正さという点では,基本的に変わりはないわけでありますし,事案をよく見てそれに対してきちんと法律を適用していくということでは変わりはないのではないかと思っております。
【記者】
御自身が公益の代表者として職責を果たしてこられる中で,仕事の進め方で大事にされている点,こういう姿勢を大事にしているということがありましたら教えてください。
【判事】
特に刑事事件の場合,何が事実なのか,真実なのかということで,被疑者,被告人もそうですし,被害者もそうですし,あるいはそれ以外の関係者もそうですが,そういった当事者たちの話に耳を傾けるということはこれまでも大切だと思って基本にしてきたつもりであります。
そういう意味では,最高裁判所ということになりますと法律審ですのでレベルの違うところはありますけれども,当事者の主張に耳を傾けるということは大事にしていきたいと考えています。