令和元年10月2日
【記者】
最高裁判事就任に当たっての所感と抱負をお聞かせ下さい。
【判事】
私は行政庁で長く仕事をしておりましたので,最高裁の判断が社会に与える影響が非常に大きいということをよく承知いたしております。新しい最高裁の判断があれば,行政庁の政策が変わり,必要な場合は法律が改正され,そして,社会の構成員の行動が変わって行きます。このように,将来の社会を変えていく最高裁の判決・決定に本日から関与させていただくこととなりました。未来への責任の一端を担う重要な職務であることを考えますと,身の引き締まる思いがいたします。これから,この緊張感を持って,一つ一つの事件に誠実に取り組み,公正な裁判のために力を尽くしてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
【記者】
外資系大手金融機関,検察庁,法務省,消費者庁では長官と,様々なお立場での御経験がございますが,これらの御経験の中で一番印象に残っていることをお聞かせ下さい。また,最高裁判事としてこれらの経験がどう影響するとお考えでしょうか。
【判事】
御指摘のとおり,私は,様々な職場環境で仕事を続けてまいりました。それぞれの仕事につきまして,その時点では精一杯やってきたつもりでおりますので,今,どれが一番と特定することは難しい状況にございます。そこで,長く続けてきて,全ての職務について共通して感じたことを御報告いたしますと,全ての仕事は繋がっているという思いでございます。ある時点までの仕事をやってきたことにより,次の段階の仕事が与えられたと感じることが多くございましたし,実際,自分では新しい種類の仕事だと思って始めた仕事であっても,少し慣れてきますと,過去の経験に助けられていることに気がつくということも多くございました。そうしますと,御質問の後段にお答えすることになりますが,大変な大任ではございますが,最高裁での職務にあたりましても,これまでの経験の全てを生かして取り組み,さらに,研さんを積んでまいりたいと思っております。少し具体的に申し上げますと,私はグローバルビジネスでの職務経験がございましたので,当時,国際関連業務が増えつつあった法務省・検察庁での仕事を与えられたと思っています。実際,法務省で当時,国際社会の課題でありました外国公務員贈賄,また,マネーローンダリング対策に関しての国際的な協調の仕組みを構築する仕事を担当したときは,企業法務でグローバリゼーションの現実を知っていたことが大変役に立ちました。また,法務省では,刑事局だけでなく,民事系といわれております人権擁護局の仕事をしたことで,全国の法務局・地方法務局に所属する人権擁護委員の方々と一緒に,その地域の社会的な課題に取り組むという仕事をさせていただきました。こういった経験は消費者庁の長官になってから,霞が関の役所だけでなく,都道府県,市町村,そして地域で人々の暮らしを守る活動をしている人たちと協力しながら使命を果たしていくという仕事に大変役立ちました。こうして考えてまいりますと,仕事を続けてきて過去の経験が役立つということは,単なる知識ではなくて,目立たないことであっても,それを積み重ねて身に着けてきた理解であったり,複数の視点を持つことで深く考えるときに全体像の把握がしやすくなるといった問題解決のためのアプローチの仕方のように思います。そうであるならば,現在の,価値観が多様化した社会では,最高裁の判断が求められる社会的課題が複雑困難化していると思いますので,広い視野で全体像を把握し,また,複数の視点で検証することにより,より深く検討することができれば,より適正妥当な紛争解決に役立つのではないかと思っているところでございます。
【記者】
15人の最高裁判事のうちの女性は2人となります。女性が2人に増えますが,この点についてお考えをお聞かせください。
【判事】
最高裁における女性判事の数は,最高裁の多様性を表す一つの指標でございますので,大変有意義な御質問と思います。私は,最高裁の女性判事の数は,短期的には数の上下があったとしても,長い目で見れば増え続けていくと思っておりますので,2名という数字については,本日現在の事実と受け止めております。1981年,私が司法修習生になりましたとき,初めて女性の修習生の割合が1割を超えたという報道がありました。当時の女性修習生の,今でいう女子会の名前は,「10(テン)パーセント」という名前であったこと,そして,お互いに「もう女性法曹が珍しい時代ではない」と確認し合ったことを懐かしく思い出します。その後も,年により若干の増減はあるものの,毎年毎年,女性の,新たに法曹界を目指して司法試験に合格する方たちは増え続けておりまして,ここ数年は男女比「約3対1」と伺っております。そうであるならば,自然な流れとして,最高裁での女性判事の数も増えていくと考えているところでございます。
【記者】
最高裁判事への就任を打診されたときのお気持ちを教えていただけますか。
【判事】
私の場合は,この夏まで公務員でしたので,新たな公務をいただけるということでした。大変な大任ではありますが,自分なりの努力をすることで,この国の現在の社会に少しでも貢献できるのであれば大変光栄なことですので,一層の研さんを積んで,より公正な裁判のために力を尽くしたいと思います。
【記者】
今,日本の法曹界でもIT化が進もうとしていますけれども,岡村判事は海外での弁護士等々の経験もあって,海外での司法というものに携わることもあったかと思いますけれども,そのようなIT化が進むということについて現在どのようなことをお考えでしょうか。
【判事】
国民生活に関わる様々な分野でのインフォメーションテクノロジーの進展は御指摘のとおりでございますから,裁判手続のIT化につきましても,自然な流れとして,ITを導入し,これを活用することが,民事訴訟を国民に利用しやすいものとし,さらには適正・迅速な裁判を実現するうえで大変望ましいことと考えております。このような観点から,最高裁では法務省など関係機関と連携し,制度設計の在り方などについて検討しているところと聞いております。これからも適正かつ迅速な裁判の実現を図るうえで,真に望ましいIT化の実現に向けて,着実に検討を進め,準備を進めていくことで,確実な実施を目指していくことが望ましいと考えております。
【記者】
先ほど女性の最高裁判事が2人になるという話がありましたが,もう一人の宮崎裁判官は就任会見のときに旧姓の使用ということについての御発言がありました。立ち入った質問になるかもしれませんが,岡村裁判官はどのようになさるつもりなのか,お考えや理由などがあれば併せてお聞かせください。
【判事】
これまでも公務で旧姓を使用しておりましたので,今般,最高裁の事務総局に申し出まして,旧姓使用を続けることとなりました。私の中では自然なこととして旧姓を使わせていただくつもりでおります。
【記者】
先ほど様々な仕事にこれまで就かれて,過去の経験にそれぞれ助けられたということを聞きましたけれども,直近の消費者庁長官時代に,そうした経験を踏まえて,これは役立ったなとか,印象深いなという事案がありましたら,一つ教えていただきたいのですが。
【判事】
消費者庁の仕事は,大変幅広く,人々の暮らしの安心安全を守るという機能でございます。先ほど,地域での活動と国の政策との連携について少し御報告いたしましたが,私が法務省で「行政庁の法務省と個別の事件を担当する検察庁との関係」を理解しておりましたことが,消費者庁で,一つの庁で政策立案と行政処分などの個別事案への対処を担当する役所で,双方のバランスをとりながら執務していくときに大変有益でありました。すなわち,政策をハイライトする形で個別の事件について取り締まる法執行を行っていくという新しい役所である消費者庁に特有の行政でございますが,代表的な例といたしましては,いわゆる悪質業者が行っている詐欺的商法につきましては,行政処分のための調査をして,それを公表していくことで,人々に注意喚起をすると同時に,被害が現実化すれば刑事事件にも発展するという案件を何件もやってまいりました。そういった,行政処分だけでは手法を変えてまた類似の詐欺的商法を繰り返している業者に対しても,できるだけの手段を使って実は何回か続けて行政処分をしたこともあるのですが,消費者庁だけでは足りない部分につきましては,刑事事件として捜査機関が行動を開始した場合には協力をすることで,より確実な捜査の進展を促すことができたと思いますし,一方,被害者の救済につきましては,その悪質事業者が破産という事態になりましたら,可能な限り破産管財人に御協力するといったこともやってまいりました。人々の暮らしは大変多面的でございます。行政庁もあらゆる工夫をして,悪質事案の再発を抑止するため努力しなければいけない時代だと思っています。そのために,複数の組織で経験したことでございますが,関係者が連携することで,次の時点からは事案の処理が促進されるという経験もしてまいりました。個別の論点につきましては各機関が専門的な知識を有しておりますが,行政組織がばらばらで行動しておりますと,なかなか機能するまでに時間がかかるということもございます。このようなことから,積極的に連携を図る行政機関でありたいと思って消費庁で執務してまいりましたので,これからもこういった手法は複数の行政機関の分野に関係する案件については有効であると思っております。