草野耕一最高裁判事就任記者会見の概要

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平成31年2月13日

【記者】

 最高裁判事としての感想と抱負についてお聞かせ下さい。

【判事】

 大任を拝受いたしまして身が引き締まる思いであります。このうえは,豊かで公正で寛容な社会を形成するために,微力ながらも全力を尽くしたいと考えております。

【記者】

 法曹・弁護士を志した経緯と,特に思い出に残っている仕事をお聞かせ下さい。

【判事】

 最初の御質問ですが,高校時代,大学時代にいろいろ悩み考えましたが,私の長所があるとすれば,論理的に思考して論理的に表現する能力に比較的長けていることと,人のために役立ちたいという思いが強いことであると考えまして,法律家という職業を選んだ次第です。
私がこれまで弁護士として携わってきた案件で思い出に残っているものはたくさんありますが,2件に絞って御紹介します。1件は,1989年にアメリカの投資家であるブーン・ピケンズ氏が日本の上場企業である小糸製作所の株式の20パーセント超を買い集めて,経営への参画を求めたという案件です。
 私はその案件で小糸製作所の法律顧問を務めました。ピケンズ氏の主張は,株主利益を最大化することが経営者の至高の目的であるという伝統的な米国の企業観に合致するものでした。しかしながら,私は,日本の経営者に求められているものは株主利益の最大化だけではないのではないかという思いをその案件を通じて強くした次第です。
 もう1件は,2002年にロシュというスイスの製薬会社が,日本の大手製薬会社である中外製薬という会社の過半数の株式を取得するという案件で,私はロシュの法律顧問を務めました。この案件が特に私にとって印象深いのは,この案件で御一緒した投資銀行家の方,いわゆるインベストメントバンカーと相手方の弁護士の方がいずれも非常に優秀かつ誠実な方であったことから,結果として非常にバランスのとれた公正な取引が実現できたと思っているからであります。

【記者】

 最近の司法の動向について,特に印象に残っているものや今後の司法の課題などについてのお考えをお聞かせ下さい。

【判事】

 少し古い案件で恐縮ですが,利息制限法と貸金業の規制等に関する法律についての最高裁判所の一連の判決がとても印象に残っています。これらの判決は,条文の文言を弾力的に解釈することによって,当時の我が国に根強く存在していたグレーゾーン金利での消費者金融という悪しき商慣行を無くすことに大きな役割を果たしたと考えるからであります。
 次に,我が国の司法の今後の課題につきましては,我が国を更に法の支配が行き届いた社会にするためには,あらゆる法律問題を国民の皆様が司法の場によって解決したいと願うインセンティブを抱いてもらえるような制度にしていくことが必要であり,そのような制度を構築することが我が国の司法に課せられた課題であると考えています。

【記者】

 草野判事はこれまで企業や経済に関わる仕事をされてきたと思いますけれども,そういった経験を最高裁判事の職務にどう生かしていきたいとお考えでしょうか。

【判事】

 おそらく2点申し上げることができるかと思います。1点目は,企業の世界というのは,いかにパイを大きくするかということが,いかにパイを公平に分配するかという問題と同等かそれ以上に重要な場面が多くございます。最高裁判事としても,そういう2つの面,すなわち,できるだけ分配するパイを大きなものとするということと,それを公平に分配することという2つのことを考えていくという点については,これまでの経験が役立つと思います。
 それから,もう1点,技術的な問題で恐縮ですけれども,経済の世界というのは,法律あるいは法解釈を変えることによって経済の仕組みが変わるという面がございます。それは程度の差はあれ,あらゆる法理論にいえることです。法解釈を変えるとどのようにそれが社会に影響を与えるのか,ということを帰納的に考えてあるべき法律論を考察するという思考方法,これをこれまでの経験をいかして今後とも使っていきたいと考えた次第であります。

【記者】

 冒頭におっしゃられたお話で大切にしたいこととして,「豊かで公正で寛容な」とおっしゃられたと思います。「寛容」というところで,寛容,非寛容みたいなものが世界的にも非常に問題になっているのですけれども,最高裁判事の立場で,「寛容」についてどのように貢献してお仕事をしていけるというふうにお考えでしょうか。

【判事】

 いろいろな分野がありますが,企業などの経済的分野との関係で言いますと,リスクをとって新しい会社を立ち上げようとしたけれども失敗したという人たちでも再びチャレンジができるようにすることで,若い起業意欲にあふれた人たちが安心してリスクに挑めるという意味での寛容な社会というものが考えられると思います。
 そういう意味での寛容な社会に,最高裁判事の職務を通じて多少なりともお役に立てたらよいなと思います。もう一点は,人権という問題に関して申し上げると,我が国が非常に人権に手厚い法制度であって,それは我が国の国柄の現れなのですというように,国民各位が世界に対して誇れるような法制度を構築することに微力ながら力を尽くしたいと思っています。それこそがまさに寛容な社会のひとつの現れであると考える次第であります。

【記者】

 国民が司法の場によって解決したいと願うインセンティブのある制度にしていきたいという点についてですけれども,もう少し具体的な分野や内容があればいくつか例示いただければと思います。

【判事】

 いろいろありますが,今後の案件を通じて私の考えを開陳していきたいと思っております。

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      2. 司法制度改革:21世紀の司法制度を考える
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