トップ > 各地の裁判所 > 最高裁判所 > 各種委員会 > 医事関係訴訟委員会について > 第2回医事関係訴訟委員会議事要旨
1. 日時
平成13年10月31日(金)午後3時
2. 場所
最高裁判所大会議室
3. 出席者
委員,敬称略
森 亘,大西勝也,鴨下重彦,川名尚,菊池信男,木下勝之,黒川高秀,永井多惠子,橋元四郎平,平山正剛,武藤徹一郎,山口武典(杉本恒明は欠席)
オブザーバー
前田順司,山名 学
事務局
千葉勝美,林 道晴
4. 議事
(1)開会の宣言
(2)武藤委員,オブザーバーの紹介及び自己紹介
(3)第1回医事関係訴訟委員会開催に関する新聞記事等について
「第1回医事関係訴訟委員会開催に関する新聞記事」医療事故調査会から本委員会にあてた「医学的鑑定に関する要望書」及び判例タイムズ1066号掲載の「医事・建築関係訴訟委員会の設置及び活動について」が,事務局からそれぞれ紹介がされた。
(4)学会に対して推薦を依頼する事例の検討について
ア 鑑定人候補者の推薦手続について
学会に対して推薦を依頼する事例に関し,どのような手順で鑑定人候補者の選定を行っていくかについて,1.裁判体からの選定依頼を受けて,本委員会で依頼する学会を選ぶ,2.学会へ推薦依頼をする,推薦依頼の際には,当面,日本医学会からも協力を求める旨の手紙を添える,3.学会からの推薦を受理し,裁判体へ回答する,4.裁判体から推薦を受けた個人に対して直接に鑑定人選任の依頼をする,という本委員会の前身の医事関係訴訟懇談会においてとられた手順を,基本的に踏襲していくことが確認された。
イ 推薦を依頼した学会から適当な候補者が見い出せないとの連絡を受けた場合の対応について
協議の参考のために,民事局から日本循環器学会に鑑定人候補者の推薦を依頼し,同学会から適当な候補者を見い出すことができないとの連絡を受けた事案について,事務局から紹介があった。この事案に先立ち,医事関係訴訟懇談会を通じて同学会に推薦依頼をしたときに,同学会から,今後も協力したいので,裁判所側の窓口を一本化してほしい旨の申出があり,当該事案は鑑定人選任を急ぐ案件であったからこのような手順が取られたとの説明があった。
協議の結果,学会に対する裁判所側の窓口を本委員会に一本化すること,鑑定人選任に急を要し,委員会の開催を待てない場合には,ファクシミリ等を用いて資料を送付し,委員の方々の御意見を伺うという持ち回りの方法をとることができることとされた。
(イに関する主な発言)
- 1.当面,各学会に鑑定人候補者の推薦を依頼する場合には,本委員会を通じて行い,その際には日本医学会の推薦状を添えるものとし,2.ファクシミリ等を用いて委員に意見を求めるといった取扱いをする場合の具体的な方法については,次回委員会までに,学会に対する推薦依頼について,これまでにどのくらいの件数がどのような形で処理されてきたのかを,事務局が分かる範囲で調査し本委員会に報告してもらった上で,更に検討すべきである。
- 推薦依頼を受けた学会が,責任を持って鑑定人候補者を推薦するのでなければ,今までと変わらず,意味がない。是非,学会内部で引き受ける人物を推薦してほしいし,候補者を1人に絞り切れなければ,事案を学問的な目から見て,誰が適当であるかを学会が判断して改めて推薦すべきである。
- 学会内に鑑定人推薦依頼についての受け皿を設ける必要がある。学会執行部があらかじめ鑑定人候補者に適当な複数の人物を選んでおき,事例に合わせて推薦していく必要がある。推薦に際しては,学会の方で,受けるか否かを確認し,確実に引き受ける者を推薦していくべきである。
- ある特定の個人に鑑定を依頼したいということであれば,必ずしも本委員会を通して推薦依頼をする必要はないと思うが,学会を通じた依頼をするのであれば,当面,本委員会を通すべきではないか。推薦された鑑定人が,裁判所でどういう経験をしたのか,本委員会としてフォローアップする必要もあるが,本委員会を通さずに推薦依頼をされると,その点もままならなくなる。
- 学会への推薦依頼のシステムを実現可能なものとするには,日本医学会が積極的に働きかける必要があろう。
- 鑑定人の選任を急ぐ必要がある事例については,必ずしも委員が一堂に会さなくても,ファクシミリやEメールを利用して,持ち回りのように了解を取る便法を講じることができるのではないか。個々に鑑定人の依頼をしたがうまくいかない案件ばかりが本委員会に持ち込まれるのは適当ではない。
- 本日の委員会では第1回委員会以降の鑑定人候補者選定依頼が6件持ち込まれているが,これは選定の希望をかなり絞り込んだ結果であり,総数はこの程度の件数では済まない。件数を絞っているのは,本委員会を頻繁に開くことが困難であることも考慮した上ではあるが,選定依頼の全件を本委員会のみで処理することは絶対にできないだろう。ファクシミリ等を利用する方法も,委員の方々全員に御連絡を取るのは,とても困難である。学会にとってのインセンティブという観点からも,基本的には本委員会を通じた推薦依頼が良いと思うが,簡易な方法でできるものはどんどん処理し,審議しなければいけないものは,本委員会又は後に設けられる分科会に振り分けていくというのが一つの方法である。
- 本委員会を通しての選定であれば,候補者の見識度,中立性について委員会が責任を感じるが,そうでないものについては感じない。
- 現在のところ,鑑定人に選任されても迷惑という感じが強いのではないか。医師の方々の中で,医事関係訴訟について,同じ職にあるものとして,鑑定人として協力していくべきであるという倫理的なものを持っていただく必要がある。
- 医師が鑑定を進んで引き受けていた時期があったが,実際に鑑定人として協力した医師達から,現在,鑑定制度の問題点として指摘されているような経験をした結果,協力できないような雰囲気になってしまったのである。専門家に鑑定を依頼する側も,対応を改善していく必要があるのではないか。
- たしかに,鑑定人を経験した方から,鑑定の依頼の仕方が問題である,尋問の際に人格攻撃を受ける,鑑定がどのように利用されたかの結果通知もないなどの多数の問題点の指摘を頂いており,そうしたことが積み重なった結果,鑑定を引き受ける気持ちにならなくなってしまったことには,無理からぬ面がる。この問題に対処するため,裁判所では,鑑定を経験した医師から意見を聞く協議会を開いたり,東京及び大阪の地方裁判所では,現場の裁判官が医事関係訴訟についての研究会を作って,様々な提言を行うなど鑑定の運営の改善を進めているところである。
- 地域の中の医師の責任というような形で,協議会のようなものが地裁レベルで作られていく,ということもあり得るのではないか。
- 鑑定制度の運用改善のために裁判所がどのような努力をしているのかについて,もっと各学会に対しアピールすべきである。
- 鑑定人候補者推薦について,各学会へのアプローチが,本委員会を通じてのもののほか,各裁判体から直接にアクセスするケースもあるとなると,依頼を受ける学会としては,依頼の位置づけについて混乱が生じるおそれがある。
※ これに対して,事務局から,特定の学会について,既に推薦依頼のルートができている場合には,各裁判体から,本委員会以外に,直接に当該学会へ推薦依頼することもあり得るところではあるが,裁判所側の窓口を一本化すべきであるということであれば,各学会から遠慮なく事務局へ申し出てもらいたいという説明がされた。 - 各裁判体から本委員会を通さずに各学会に直接推薦依頼をした場合には,何らかの形で本委員会に報告をしてもらう必要がないか。
ウ 具体的事例に対する推薦
推薦の依頼があった具体的事例6件について,適切な医療分野を検討の上,別紙「推薦依頼のあった事案等について」(PDF:13KB)のとおり,依頼する学会を選定した。
エ 医事関係訴訟懇談会で推薦依頼した事例の経過について
参考として,別添資料「医事関係訴訟懇談会において推薦依頼したサンプル事例の鑑定人選任手続の進捗状況一覧表」に基づき,事務局から,同懇談会で扱った事例の経過が報告された。
(5) 分科会の運営について
ア 分科会の運営の概要について
分科会の概要について,事務局から,1.医事関係訴訟委員会規則7条1項により本委員会には鑑定人等候補者の選定を行うことを目的とした分科会を必要的に設置するものとされており,2.現実的にも,今後,下級裁判所から鑑定人選定依頼が多数寄せられると考えられるが,これに対応して円滑に推薦を行うためには本委員会のみでは対応が困難であり,分科会を設置して機動的に対応していく必要があると説明がされた。
イ 今後の分科会の開催予定等について
1.本委員会の次回及び次々回の会合は,本委員会と分科会を合同開催すること,2.将来的には,分科会は本委員会とは別個に開催され,分科会が鑑定人候補者の推薦を依頼する学会を選定する作業を行い,本委員会は,分科会から報告を受けるとともに,鑑定の在り方等の根本的問題を協議するといった役割分担になることが決められた。
(6) 分科会の構成員の人選について
ア 分科会の構成の概要について
分科会の構成員について,事務局から,1.分科会は,本委員会から参加する委員と,議決権のない特別委員から構成される,2.分科会設置を定めた医事関係訴訟委員会規則7条1項が11月1日から施行されるので,11月以降のできるだけ早い時期に分科会が設置に向けた手続がとられる必要があるとの説明がされた。
イ 分科会の構成員の選任について
1.分科会の構成員は,特別委員4,5人と本委員会から参加する1,2人とすること,2.特別委員は,比較的若手の教授,病院の部長クラスの人物とすること,3.特別委員について,日本外科学会,日本内科学会,日本救急医学会から1人ずつ参加することを念頭に置きつつ,適当な人物に心当たりがあれば,各委員から推薦する人物の名前を,11月前半までを目処に,事務局に連絡し,事務局がそれを整理すること,4.本委員会から分科会に参加する委員については,特別委員が決まった後,特別委員の専門分野等を考慮して決めることが決められた。
((6)に関する主な発言)
- 特別委員という名称は良くない。
- 日本外科学会は,外科系統の学会の中でも一番大きなところで,日本胸部外科学会や日本消化器外科学会の会員で日本外科学会に所属していない者はいない。臓器別の各学会は,専門的な研究に興味が行くことが多く,社会的問題や倫理問題については,日本外科学会も取り組んでいこうという雰囲気が強いことも考えあわせると,日本外科学会から分科会の特別委員を出すのが適当ではないか。
- 日本内科学会についても,多くの内科関係の学会の会員が所属しており,日本内科学会からも特別委員を出すのが適当である。
- 救急医療の過誤がいろいろと問題になり得ること,外科とかなり違うことを考えると,日本救急医学会から1人は特別委員を出すべきである。
- 将来,分科会が本委員会と独立して鑑定人候補者の推薦依頼の各学会への振り分けを行うことになることを考えると,多くの学会をカバーできる人選が必要である。一方で,分科会の構成員が余りに多数になってしまうと,頻繁に会合を持つことが困難となる。当面は分科会を一つ設けることになろうが,将来的には,複数の分科会を置くことも一つの考えである。
- 大量の事例を各学会に振り分ける作業を医学的な観点から行うに際して,特別委員の所属学会がどこであるかは,必ずしも重要ではないのではないか。ある事案が,例えば,日本耳鼻咽喉科学会か日本精神神経学会かは,小児科,内科,外科といった分野の医師でも,通常は容易に判断できる。むしろ,広い分野をカバーできる人選が必要であろう。
(7) 事務局からのお知らせ等
ア 議事要旨の最高裁ホームページ掲載について
本委員会の議事要旨を最高裁ホームページに掲載する予定であることが事務局から説明され,本委員会としても了解された。
イ 医療訴訟ガイダンスについて
医療訴訟ガイダンスについて,鑑定制度についての理解を得るために医師の参加を得て行うものであること,医事関係訴訟を巡る動きや近時の鑑定制度改善に向けた裁判所の努力を情報提供するものであること,裁判所のみならず大学や病院に裁判所の人間が出かけていって形もあり得ることなどが,事務局から説明された。
ウ 鑑定人CD-ROMについて
鑑定人CD-ROMについて,鑑定を引き受けてもらった場合に,鑑定制度や手続について鑑定人に分かりやすく情報提供するものであることが,事務局から説明された。
(8) 次回以降の委員会の日程確認等
次回委員会は平成14年1月16日(水)午後1時から午後3時まで,次々回委員会は平成14年3月上旬ごろに,それぞれ開催すること,次回委員会は,本委員会と分科会を合同開催とすること,次回以降は鑑定人候補者選定を行う対象庁を広げること,が決定された。
(その他の主な発言)
- 本委員会は,短期的に鑑定人候補者の選定をしていくことはもちろんであるが,長期的な戦略も考えなければならない。学会に推薦を依頼するのであれば,学会の責任においてきちんと選任してもらうことが大切であり,候補者を指導医,専門医の中から選ぶことで公平を期すことができるし,広い範囲から人材を選ぶことが可能となる。
- 鑑定人の依頼を断った人から話を聞くと,断った理由は二つに集約される。一つは,裁判所からの出頭命令を含めて万事が非常に命令口調であり,ボランティアのつもりで協力しようと思っているのに,「何だ。」ということになる。もう一つは,尋問を受ける際に医師としてのプライドを傷つけるような尋問を受けることに対する反発である。
- 鑑定人選任が行われた際に,その鑑定人が属する大学や病院等の施設の長等に対して何らかの連絡はしていただけないか。
※ これに対して,事務局から,鑑定人から申出があれば,鑑定人が所属する施設の長等に対して連絡することは可能であるという説明された。 - 鑑定人選任について,鑑定人が所属する施設に一律に連絡が行くこととなると,組織としての責任が問題とされかねず,推薦する学会としても,鑑定人候補者の組織内の地位を考慮する必要が生じて,純粋に学問的観点から候補者を選定するのが難しくならないか。