1. 日時
平成16年2月13日(金)午後3時
2. 場所
最高裁判所公平審理室
3. 出席者(敬称略)
委員
平山善吉
特別委員
大森文彦,坂本 功,関沢勝一,山口昭一,山本康弘
オブザーバー
工藤光悦,齋藤 隆,田中 敦(斎藤賢吉,田中信義は欠席)
事務局
菅野雅之,花村良一
4. 議事
(1) 開会あいさつ
(2) 配付資料の説明
「建築における専門分野の分類」(資料1)(PDF:27KB)について,日本建築学会からの資料提供に基づいて整理したものである旨の説明がされた。
「鑑定人候補者推薦依頼一覧」(資料2)(PDF:186KB)について,前回の委員会以降に推薦を得た事例を追加したことの説明がされた。
「社団法人日本建築学会への鑑定人候補者推薦依頼」(資料3)(PDF:2.8MB)について,最高裁判所から下級裁判所に発出した書簡に添付されている鑑定人候補者推薦依頼のためのひな型である旨の説明がされた。
(3) 「建築紛争ハンドブック」について
昨年11月下旬に発刊された「建築紛争ハンドブック」は,全国の高等裁判所及び地方裁判所の各本庁,地方裁判所の各支部及び建築集中部等に参考図書として備え置くことになった旨の説明がされた。
(4) 鑑定人候補者推薦依頼を円滑に行うための方策について
ア 専門分野を意識した推薦依頼について
(主な発言)
- 資料1の「建築における専門分野の分類」中,1の学術分野における分類に掲げられているのは細分類であるが,この他に細々分類もある。これらは日本建築学会独自の考えで分類されたものである。同資料中2の建築業務における分類例(1)については,日本建築士会連合会が検討を進めている専攻建築士制度の中の表示例であり,さらに細分化されている。建築士が行う業務をまちづくりや環境設備など大きく7つに分類し,何が得意であるのかを自ら社会に向けて宣言すると同時に,それについて責任を持とうというものである。同(2)については,日本建築学会入会時に記入してもらう職種別分類で,このほかにも業種別分類というものがある。分類方法はいくつかあり,資料1はその一例である。
- 専門分野をどのように表示するかということについては,従前鑑定を依頼する際に重要な問題であったが,各専門家の間で共通の認識がないと,何がどの分野を指すのかが分からないと思う。したがって,少し詳しい分類が必要だと思うが,可能であれば専門家の間で統一してもらうのが望ましい。
- これだけ様々な分類があることから,鑑定を依頼するとき,専門的分類の他に,更に実務家としてどの程度専門が分かれているかという情報を把握した上で,可能な限り依頼事項において専門分野をきちんと特定して書くことが大事だと思う。
- 日本建築学会の学術分野における分類について,業務分野が分かれているが,少し整理して司法の立場から見て最適な分類を別途組み立ててはどうか。
- 建築学会における分類方法がある一方で,裁判という観点からは,瑕疵の現象という点で分類されると思う。例えば雨漏りイコール漏水の専門家かというと,更にコンクリート系と木造系で専門が異なっている。建築学会側からみた専門分野と裁判で争点となる瑕疵の現象との間には重なり合う部分があると思うので,その相関関係を明らかにする図があると良いだろう。典型的な現象について,そのような関係図があると良い。それが果たして作成可能かは分からないが,裁判所がどの専門分野かの当たりを付けられる程度に分かれていると便利かなと思う。
- 日本建築学会は学術分野における分類をしているが,これが裁判における分類整理に直接結びつくかというのが問題である。司法から見た分野に応じた分類が必要なのではないかと思う。今回提出されている資料1を参考にしながら作業すれば,そんなに難しくなく結論がでると思うがどうか。
- 細分類がある中でも,この分野とこの分野は意味合いが違う,といった,多少の色分けをしてもらえれば,裁判所が鑑定を依頼するときに参考になる。
- 現状においても資料3の争点欄や鑑定事項欄が整理されてさえいれば,学会側においてどのような専門家を鑑定人候補者として推薦すればよいかはある程度判断できる。
- 実際には,裁判所である程度幅のある分野の特定で推薦依頼をしてきたときに,推薦する側としてもあまり絞られていない幅広い分野ができる何人かの名前を挙げて検討している。裁判所が争点を整理するときに役立つような分類方法が予め存在すれば,裁判所でも「この分野」というふうに絞った上で依頼をしてくることができると思う。
- 先程の漏水のケースで言えば,裁判所からすると「漏水」という現象面が争点になって,その原因は何であるか,という鑑定をお願いしていると思う。そのときに,コンクリート系であるか,木造系であるかという程度の話であれば裁判所にとっても自明だと思うが,もう少し複雑な分野が問題となるときに,どういうポイントで専門家が分かれているのかにつき,十分な情報を得られないままで鑑定事項を詰めている点が問題なのではないかと思う。網羅的にすべての瑕疵についてどのような点で専門が分かれているのかを整理した分類を作りこむのは,かなり細かい作業になり,なかなか難しいと思うが,専門を分けるときのキーワードとなる点について,ある程度典型的な事案につき,試行錯誤的に議論して,まとめていくということはあり得ると思う。
- 簡単なところから,よくある典型的事案について詰めていけば良いと思う。
- 裁判で主張されている瑕疵について,事件ごとに「瑕疵一覧表」というものを作成しているが,それについて専門家に分類してもらい,瑕疵ごとに線引きしていくと司法の分類ができていくと思う。
- もともと裁判所と建築学会のスタンスは違うので,それを上手くかみ合わせることが必要である。裁判所ではどういう瑕疵があるかという事実・現象を前提として,防音の問題なのか,傾きの問題なのかといった分類をするが,建築学会の方は,理論的に,専門家のカテゴリーという意味合いでどうかというふうに見ており,もともと基準が違うことから,それらをどうかみ合わせるかということがポイントとなると思う。すべての分野について分類するのは難しいから,少しメリハリをつけて,ある程度多いものを中心に分類すれば全体の相当部分をカバーできると思う。
- 司法から見た分類については,裁判所の協力を得るなどして,学会の方で原案を作ることを検討してみる。
イ 複数の専門事項が問題となる事件における鑑定人の選任の在り方について
(主な発言)
- 複数の専門事項が問題となる事件については,1)はじめから複数の鑑定人を選任する場合,2)途中から鑑定人が複数になる場合,3)鑑定人は1人であるがそれに補助者が加わる場合の3パターンがあると思う。過去に鑑定人候補者の推薦を検討した事例の中で,社会的に有名なものであるため,1人では責任が重すぎるという理由で辞退されてしまったが,分野別に責任の範囲を限定したところ,推薦を受けてもらえたというものがあった。
- 鑑定に複数の専門家が関与する場合に,鑑定人を複数選任する共同鑑定の場合と,鑑定人としては1人を選任してそれぞれ個別の専門ごとに補助者がつく場合が考えられるが,両者の一番大きな違いは,異なる分野であっても鑑定する上ではいろいろと関連してくる部分があるために,前者の方法のように全く別の鑑定人に依頼すると,ある1つのことについて違った角度から違った結果が出される可能性があることである。そういう場合に,1人の鑑定人が責任を持って他の専門家がそれぞれの分野から出した意見をまとめた鑑定結果の方が,判断の資料として使いやすいと思う。
- 専門分野を分け合って,その中で,例えば,一番広い範囲を鑑定する人がまとめ役になってもらえば良いと思う。
- 建築学会としても,裁判所に対して,鑑定事項にいくつかの類型があるときは,複数の鑑定人によることをお願いしているところである。
- 例えば見積と性能,というように,鑑定事項が全く別の類型に属するようなものについては,1人の鑑定人では無理だということは裁判所も認識している。鑑定事項をどの程度細分化して並べるかにもよるが,おそらく実務的に悩みが出てくるのは,大項目でいうと同じ分類のようであるが,もう少し細分化すると鑑定事項がいろいろ挙がってくる場合である。本来はその分野ごとの専門家が必要になるのだろうが,ある程度のところで,守備範囲の広い専門家にまとめて鑑定してもらう方が,全体を見回してバランスの良い鑑定をしてもらえるのではないかと思う。責任の所在も1人の鑑定人にやってもらった方が明確になると考えられる。また,鑑定人の報酬は当事者負担なので,特に戸建住宅の類だと事件解決のために当事者が負担できる財源は限られていることが多いので,鑑定人は1人が良いのか複数が良いのか,そういう面でも悩むと思う。
- 鑑定事項はどのように定められていくのか。
- 当事者から出された鑑定事項をすり合わせて,最終的には裁判所が定めるが,最近では鑑定人候補者の意見を聞いた上で確定させている。
- 木造平屋建のような簡単な事案でも,例えば本訴で出来高の請負代金,反訴で設計瑕疵が問題となっており,複数の鑑定人を選任した場合,それぞれの分野で独自の鑑定を出されると裁判所として判断が難しいことになるのではないか。鑑定人間のすり合わせが必要である。
(5) 建築基準法令の実体規定と契約上の瑕疵との関係及び建築物の瑕疵による損害額の算定方法について
ア 裁判実務上生じている諸問題の紹介
東京地裁から,訴訟において数値基準に関連した瑕疵の主張がされた例として,1)耐火被覆の厚さ,2)コンクリートの鉄筋のかぶり厚さ,3)鉄筋不足等がある旨の報告がされた。
大阪地裁から,かぶり厚さの問題や基礎の瑕疵が問題となった事例があることが紹介され,東京と同様にかぶり厚さの問題と鉄筋不足の問題が多いこと,事件は和解で終了するケースが多いことが報告された。
(主な発言)
- 訴訟の中で数値が問題になるときに,数値の正確性や施工上の正確性といった面で,誤差の問題として捉えることが可能な事案については余り問題ないが,法令の基準を満たしていないときにどうするか,建て替えまで認めるのはかなり結果が大きくなるので,専門家の意見がどうなるかが重要である。
- 耐火被覆の問題とかぶり厚さの問題は,「何センチ」という寸法の話という意味では似ているが,異なる問題だと思う。かぶり厚さの基準については,一種の約束事だと思う。かぶり厚さが何故必要かというのは,鉄筋とコンクリートを一体化するため,耐久性を増すためなどであって,鉄筋コンクリートが,いわば仕様的なかぶりを持っているものだという前提で後の体系ができていると考えている。これに対して,耐火被覆の方はおそらく個々に試験をして,こういう構成であれば30分耐火,こういう構成であれば1時間耐火というふうに性能が決まることになる。なぜ1時間でなければいけないのか,30分でなければいけないのかというのは約束事だと思うが,一応そういう30分なり1時間なりということを前提にしたら,耐火被覆が当該性能を持つかどうかということ自体が問題となるのだと思う。
- 例えば強度の場合は,コアの平均強度の数値を満たしているとしても,それは平均値であって,平均値ということは,それより低いものがあっても構わない,極端に言えば半分の数値もある,ということになる。かぶり厚さも同様の考えで良いと思う。ただし,建築学会では平均値ではまずいから,標準値を設定している。
- 約束事を破ったらペナルティがあるか,という問題がある。他方で,約束事は破ったけれど性能には関係ないという場合もある。だから3センチが2.9センチになっても関係ないと思うが,3センチと書いてあるのに2.9センチになっている点にペナルティが存在しうるかも知れない。もっとも,性能的には問題ないとしても,約束事を破ったことに対するペナルティが存在する気がする。決めごとを守らせるか,守らせないかという社会のものの考え方は大事なことだと思うが,性能からいうとまた別の論点が出てくる。建築基準法は,ある想定した性能を暗黙のうちに決めているのだが,詰めて考えていくと,大体この程度は要求すべきという「決め事」以上のものではないのかもしれない。
- 基準はともかくとして,契約等で合意したのに性能上は大丈夫だからといって勝手に数値を破った場合にどうか,という場合には,やはり契約違反のペナルティが出てくる余地はあると思う。
- 今のお話は,契約上の約束において「そういう性能」を要求しているのだから,建築基準法の構造規定に合っているから良い,ということではない。建築基準法は最低ラインを定めているものだから。最低ラインを定めているというのが問題なのであるが。建築学会ではもう少し余裕をみている。
- ケースバイケースで違ってくるから,ここで議論することは非常に難しい。少なくとも売買と請負では瑕疵の基準が違うから,そこをどう捉えるかが問題である。請負はお互いにこういうものを作る,と約束したのだから,その性質・形状を満たしていなければ瑕疵といえるだろうし,売買は一般的にこの種のものに要求される水準を満たすものであればいいとなる。
- 契約するときに,設計段階できちんと条件を詰める必要があると思う。
イ 今後の議論の方向性等
(主な発言)
- 建築の専門分野については,司法の観点から見た分類について少し積極的に作業していくこととしたい。
- 実体法規については,個別的な問題でもあり,分科会,委員会で議論することが難しい側面がある。今後,この委員会として,何らか議論をまとめることが可能かどうか,議論できる限界も含めて議論していただきたい。
(6) 今後のスケジュール
次回は,第13回分科会を平成16年5月下旬から6月上旬頃に開催予定であることが確認された。
※ その後の期日調整の結果,第13回分科会は,平成16年6月10日(木)午前10時から開催することとなった。