1. 契約書等の現状
建築関係紛争事件において,契約書が存在しない割合が,別紙1「建築関係訴訟における契約書の有無について」(PDF:65KB)記載のとおり東京地裁では54パーセント, 大阪地裁では40パーセントである。また,建築契約における約款に関する客観的状況は,別紙2「約款の現状に関する一覧表」(PDF:112KB)記載のとおりである。
(1) 設計
設計契約においては,契約書を取り交わすことなく設計図書を作成している場合がかなりの事案で見受けられる。その場合,契約内容の認定を設計図書の有無や当事者間の主張のみに基づいて行うことになるが,それには多大な困難を伴っているのが現状である。
また,契約の成立が認定された場合でも,設計にかかる報酬額について,具体的な金額を算定する明示的な報酬基準が存在していないと考えられる。
さらに,設計契約が途中で解約された場合,設計契約の履行の割合に応じた相当な報酬を定めることが困難である。
なお,住宅系建物の設計に関する約款については,別紙2「約款の現状に関する一覧表」(PDF:112KB)記載のとおり,注文者のニーズが多様であることから,フォローされていない状況である。
(2) 施工
施工契約においては,融資を受けるに際して金融機関から契約書の提出を求められることが一般的であることから,契約書が全く存在しないという事例はそれほど多くは見受けられない。しかし契約書が存在しても,その記載が簡略過ぎたり,別紙1「建築関係訴訟における契約書の有無について」(PDF:65KB)記載のとおり設計図書等が添付されていないことが紛争の原因となっている場合がある。
また,約款に関しては,民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会作成の約款があり,その内容を住宅金融公庫監修の約款が参考とするなど,強い影響力を有しているものの,比較的規模が大きい建物を想定し,常駐監理者の存在を前提としており,住宅系建物にそのまま適用できないとの指摘がある。
(3) 監理
通常,監理については設計契約と同時に契約内容が定められるが,設計契約において契約書が作成されていないことが多い現状では,監理契約についても,契約書が全く存在しない場合がかなり存在する。また,契約書が存在しても,すべての施工工程に対応する監理項目を網羅することは難しく,具体的にどの範囲の監理業務を負うのかが争いとなる場合も多い。
2. 契約書の在り方
(1) 契約書の存在について
建築関係に関する紛争の防止及び紛争の早期解決のためには,建築契約における契約書の作成の重要性を訴えていく必要性がある。
この点,契約書がより容易に作成されるためには,約款が普及することが有益であると解されるが,約款については,別紙2(PDF:112KB)のように様々な分野について作成されているものの,特に住宅系の約款については整備されていない状況であることから,注文者のニーズに対応できるような約款の定型化を早急に検討すべきである。委員会としては,裁判における現状を基に,約款の整備に向けた情報提供を行っていく必要がある。
(2) 契約書の内容について
施工契約については,その記載内容の充実や,設計図書の添付等資料の充実が求められる。
契約時に報酬額を定め,契約書に明記することは,その後の紛争防止に役立つものと思われるし,契約の中途解約に伴う報酬額について,出来高に応じた割合の基準額も併せて明確化することが要求される。
そのための参考資料として,設計,施工等の各分野ごとに報酬(出来高の定め方も含む。)を定める際に考慮すべき項目などを定めたメニューのようなものが存在し,当事者がそのメニューを踏まえて報酬を選択することが望ましいと考えられ,このようなメニューは紛争が生じた場合の解決の指針ともなり得ると思われる。
(3) 以上に照らせば,当委員会や日本建築学会から業界等に対し,建築紛争の原因分析結果の情報を積極的に提供することが有益である。また,注文主となり得る一般国民に対する建築関係の基礎知識の習得のための広報活動としては,国土交通省作成のパンフレット(現在照会中)があるが,裁判の現状の視点からも,当委員会や建築学会の活動を通じて,紛争の実態等の情報提供,あるいは広報活動を行い,広く社会一般にも契約書等の書面の重要性が認識されるようにすることが必要である。
平成14年11月21日
建築関係訴訟委員会事務局