トップ > 各地の裁判所 > 最高裁判所 > 各種委員会 > 医事関係訴訟委員会について > 第5回医事関係訴訟委員会・第3回鑑定人等候補者選定分科会議事要旨
1. 日時
平成14年5月16日(木)午後3時
2. 場所
最高裁判所中会議室
3. 出席者(敬称略)
委員
森 亘,大西勝也,鴨下重彦,川名尚,木下勝之,杉本恒明,橋元四郎平,平山正剛,武藤徹一郎,山口武典(菊池信男,黒川高秀,永井多惠子は欠席)
特別委員
名川弘一,御手洗哲也(前川和彦は欠席)
オブザーバー
前田順司,山名 学,一宮なほみ,中本敏嗣
事務局
千葉勝美,林 道晴
4. 議事
(1)開会の宣言
(2)オブザーバー一宮なほみ千葉地方裁判所判事の紹介及び自己紹介
(3)医療訴訟ガイダンス及び地域の医療機関等とのネットワーク等の取組について
ア 事務局から,「各地方裁判所における平成13年度医療訴訟ガイダンスの開催結果概要」(PDF:199KB)に基づいて,医療訴訟ガイダンスの開催結果についての説明がなされた。
イ 次に千葉,東京,大阪の各地方裁判所医療集中部の裁判官から,医療訴訟ガイダンス開催結果と地域のネットワークの状況等について,次のとおり説明された。
(千葉地方裁判所)
- 千葉地方裁判所では,平成12年から医事関係訴訟において専門家調停委員の活用に取り組み,当事者の主張のポイントを絞るのに大きな成果を上げている。
- 千葉地方裁判所では,地方でも医療関係者と法曹関係者が率直に意見交換して信頼関係を構築できるようにするとの考えに基づき,千葉県内の6つの大学附属病院の協力を得て,これら医療機関の院長,副院長といった十数名の医療関係者と,裁判官,弁護士からなる医療裁判運営改善委員会を設置している。
- 千葉地方裁判所では複数鑑定を行っているが,そのポイントは,同一鑑定事項につき同一専門分野の複数の医師に鑑定を依頼するところである。医師側からは,鑑定人の精神的負担軽減の観点から賛同する意見が寄せられている。具体的には,3人の鑑定人がそれぞれ鑑定書を提出する方法で1件,3人の鑑定人が一堂に会してディスカッションする方法で1件,複数鑑定を行ったが,いずれも鑑定人間の意見に違いがほとんどなかった。複数鑑定の事例は,依頼から2か月,3か月という早期に鑑定書が提出されており,鑑定人にとってやりやすい方法であると思う。
(東京地方裁判所)
- 東京地方裁判所も昨年12月から東京大,東京医科歯科大,慶応大,順天堂大の協力を得て,東京の三弁護士会も加わった協議会を始めている。当初は総勢40名で会合を行ったが,現在は,メンバーの一部で構成する幹事会で医事関係訴訟における鑑定の問題等を扱っている。
- 協議会開催を契機に,東京医科歯科大から,安全対策委員会の主催で裁判官の講演を持ちたいとの依頼があり,大学を訪問して医事関係訴訟について講演した。また,東京医科歯科大の医師20名程が裁判所で法廷を傍聴した。傍聴した医師からは,医療裁判の現場を見ることができて有意義であった,これからも実施してもらいたいなどの好意的な意見が出され,心強く思った。このような講演や法廷傍聴は,その後,他の大学との間でも行われている。さらに,協議会の医師の方から,是非手術の現場を見に来るように誘いがあり,実際に見学を実施し,非常に参考になった。
(大阪地方裁判所)
- 大阪地方裁判所でも,平成12年から大学病院との間でシンポジウムを開いてきたが,昨年4月の医療集中部設置を契機に,大学病院に説明に伺ったところ,ネットワーク作りに積極的に協力したいとの返答を得られた。
- 現在,京都大,大阪大,神戸大,大阪市立大の4大学との間でネットワークを結んで鑑定人を選任するシステムが確立している。また,退官した名誉教授を医事調停委員に推薦してもらっており,今までに7名が任命されている。
- 大阪地方裁判所が主催した医療訴訟ガイダンスでは,パワーポイントを用いて画面で説明する方法を行い,参加者に大変に好評であった。参加者の中には,「以前の鑑定人経験で2度とやりたくないと考えていたが,裁判所の努力を知り,もう一度やってもよいかと思うようになった。」という声もあった。また,求めに応じて京都大の医学部の教授会を訪問して鑑定について説明したり,若い判事補を連れて病院の手術室を見学したこともあった。
ウ 杉本委員から,4月に日本循環器学会が開催した「医療裁判の鑑定人推薦制度に関する講演会」に関する説明がされ,本委員会の設置経緯の中で出された議論を説明したこと,東京地方裁判所判事が講演したこと,本委員会の推薦依頼に対する同学会医療倫理委員会の対応システムについて報告がされたこと,鑑定書の公開を強く主張する意見が患者側弁護士のみでなく医師からも出たこと,講演会終了後も患者側弁護士と医療関係者との間で話が弾むなど非常に有意義であったことなどが紹介された。
講演した東京地方裁判所判事からは,裁判の現状と現在の裁判所の考え方を伝えるように努力したこと,講演の機会を持てたことは大変画期的であるとの感想を持ったことなどが報告された。
エ 事務局より,4月13日に日本外科学会で大阪地方裁判所判事が講演し,同月18日には日本整形外科学会で東京地方裁判所判事の講演が予定されていることが紹介された。 日本外科学会で講演した大阪地方裁判所判事からは,地域の医療機関とのネットワークと本委員会の関係に関して質問が出たこと,司会の大学教授から「医療裁判の現状に関して裁判所が苦労しており,鑑定人推薦依頼の制度を作って積極的に取り組んでいることがよく分かった。日本外科学会では既に鑑定人推薦のための委員会を設置して作業を進めつつあるので,安心してもらいたい。」という発言があり,心強く思ったことなどが報告された。
((3)に関する主な発言)
- 日本循環器学会での講演会で鑑定書の公開を主張する意見が出たようであるが,医学関係の雑誌や各学会の機関誌等で鑑定書を一般の論文と同様に掲載する場合,プライバシー等の問題はあるか。
※ この意見に対し,事務局から,鑑定書は訴訟記録の一部として誰でも閲覧可能であること,当事者のプライバシーの問題はあるが,判決書等が法律雑誌に掲載されるときには出版社で当事者の氏名等を仮名処理しているとの説明がされた。 - 鑑定書集のような冊子を見ると,鑑定人の名前がイニシャルになっているものがある。当事者のプライバシーを守る必要はあるが,鑑定人の名前は出してもよいのではないか。少なくとも鑑定人本人の承諾があれば,鑑定人名の掲載は全く問題ない。
- 複数鑑定の場合,鑑定人が1人の場合と比較して,鑑定料の総額はかさむのか,それとも総額は固定で鑑定人1人当たりの金額が減るのか。
- 複数鑑定では,例えば,3人の鑑定人に依頼する場合でも,3倍の費用がかからないようにお願いしている。当事者の費用負担の問題もあり,鑑定を双方申請してもらい,費用負担を半分ずつにするなどしている。
- 日本では概して専門知識に対する対価が低い。複数鑑定といえども,鑑定を行う以上は相応の負担を負っているのであるから,相応の鑑定料を支払うべきであり,例えば,鑑定人が3人であるのであれば,3倍の費用となるべきではないか。
- 複数鑑定は試行段階であり,費用の点も含めて,今後検討が必要である。ドイツでは,裁判外の機関による鑑定所の鑑定がボランティア的に行われることもあるようである。適正な鑑定の実施により早期解決を目指すことについては,患者側だけでなく医師側にとってもメリットがあることであるので,バランスが難しいが,日本でも,専門家の協力を得ながら,複数鑑定の事例を重ねてよい方法を見つけていければと思う。
- 鑑定人が公務員である場合,勤務時間中に鑑定作業を行うのは,国家公務員法上の兼業禁止との関係で問題を生じる。兼業禁止の問題をクリアするために,鑑定作業を公務の一部とする方法が考えられるが,そうすると今度は鑑定報酬を受け取れなくなってしまう。この問題に関して何らかの方策を検討する必要があろう。
※ この意見に対して,事務局から,この問題は将来の課題としてなお検討していきたいとの説明がされた。 - 地域のネットワークは良い試みであるが,地域レベルでの鑑定人選任の仕組みが広がると,本委員会の推薦作業は役割が減っていくことになるのだろうか。
- 学会に対し推薦依頼をせざるを得ない困難な事案は必ず出てくるので,地域のネットワークが広まった後にも,本委員会の推薦作業はなお重要性が高いと思われる。
- 例えば,東京では医学部がある13大学のうち4大学がネットワークに参加しているが,これはその4大学が以前に司法研修所の実施した病院見学で協力してくれたなどの事情があり,東京地方裁判所がその際の大学側の窓口を頼ってネットワーク立ち上げ時に協力を依頼したところ,この4大学が快諾したという経緯がある。将来的には他の大学や大学以外の医療機関の参加も検討していくことになろう。
(4)推薦依頼をした事案の経過報告等
事務局から医事関係訴訟懇談会及び本委員会で推薦依頼をした事案の経過が報告された。また,今後は,この事案の経過について,別添「医事関係訴訟委員会への鑑定人候補者推薦依頼一覧」(PDF:138KB)の形式で定型化した上で最高裁判所ホームページに掲載することが提案され,了承された。
(5)本委員会で推薦依頼を行う事案等について
ア 今回,推薦依頼のあった事例8件について,適切な医療分野の検討をした上で,別添「推薦依頼のあった事案等について」(PDF:12KB)のとおり,依頼する学会を選定した。
イ 推薦依頼時及び鑑定終了時の留意事項について
事務局から,1.学会に対する窓口を本委員会に一本化すること,2.本委員会への推薦依頼中に,依頼元の裁判所が,別途,鑑定人を選任するのは適当でないこと,3.鑑定人や学会に対する事件終了後の結果通知をすべきことの3点について,各裁判所に周知徹底を図ったことが報告された。
(イに関する主な発言)
- 鑑定人候補者推薦について,地域のネットワークと本委員会との役割分担や格付の違いはどのように整理して考えればよいか。
※ この意見に対して,事務局から,鑑定人選任依頼のニーズは非常に多いので,本委員会での推薦作業が円滑に行われるためにも,適切な鑑定人を得られる可能性があれば,まずは地元医療機関に依頼できるようにすることが望ましいと考えていることが説明された。 - 千葉のような地域のネットワークは,全国の裁判所に広がっているのか。
※ 事務局から,現在,東京,千葉,大阪,山口,福岡,徳島の5つの地方裁判所で地元の医療機関との連携の動きがあること,他の裁判所でも同様の動きがあるが,地元に大きな医療機関がない場合は難しい面があることが説明された。 - 以前に各裁判所で鑑定人探しが行き詰まった結果,各学会に鑑定人候補者推薦への協力依頼がされるようになったと理解しているが,現在,全体的な雰囲気が良くなってきたため,地元での鑑定人探しが再び行われるようになってきた印象を受ける。この動きが広まったとき,本委員会の役目はどうなるのかは,よく検討する必要がある。
- 各地方裁判所での地元での鑑定人探しは決して円滑に進んでいるわけではないので,地域のネットワークが広まったとしても,本委員会の役割は依然として非常に大きい。他方で,鑑定人選任のニーズも極めて高いので,そのニーズのすべてが本委員会に寄せられたら,推薦作業がパンクしてしまうだろう。地域での鑑定人探しは,本委員会の負担を軽減する意味合いもある。
ウ 鑑定人へのアンケート,鑑定人及び学会への礼状について
本委員会で推薦依頼した鑑定人候補者が選任された事件について,1.推薦回答をした学会に対し別添の様式1(PDF:9KB)を例とする礼状を発出すること,2.事件終了後に鑑定人及び推薦学会に対して別添の様式2(PDF:9KB)及び様式3(PDF:9KB)を例とする礼状を発出すること,3.事件終了後の礼状と共に鑑定人に別添の様式4(PDF:12KB)のアンケートを送付して回答を求めた上で推薦学会には鑑定人へのアンケート実施を別添の書簡で伝えることの3点が,協議の上,了承され,2.の礼状の作成名義は,委員長が事務局と協議して決めるものとされた。
(6)諮問について
事務局から,諮問の内容が幅広いことから,ある程度,具体的なテーマに絞って検討を進めることが適当と考えられるとして,具体的なテーマについての検討の土台として,「論点一覧(案)」(PDF:7KB)が提示された。そこで,この「論点一覧(案)」(PDF:7KB)について,次回の委員会までに検討し,意見を出してもらうこととされた。また,専門委員,調停委員について,次回の委員会で事務局から説明するものとされた。
(7)次回以降の委員会の日程確認等
次回の委員会及び鑑定人等候補者選定分科会は平成14年7月8日(月)午後3時から午後5時までであることが確認され,次々回は同年9月又は10月頃に開催することが決定された。