1. 日時
平成14年11月21日(木)午後3時
2. 場所
最高裁判所公平審理室
3. 出席者(敬称略)
委員
平山善吉
特別委員
大森文彦,坂本 功,山口昭一,山本康弘(和田 章は欠席)
オブザーバー
工藤光悦,田中信義,齋藤 隆,田中 敦(斎藤賢吉は欠席)
事務局
菅野雅之,花村良一
4. 議事
(1) 開会あいさつ
(2) 配付資料の説明
「鑑定人候補者推薦一覧」(PDF:199KB)(資料1)について,前回の分科会以降に推薦を得た事例を追加したことに関する説明がされた。
(3) 答申について
「第1次答申の項目について(案)」(PDF:17KB)(資料2)に基づき,次のような説明がされ,了承された。
- これまでの委員会及び分科会での議論を踏まえ,委員の任期が終了する来年夏前には第1次答申案を作成すること。
- その内容は,各界へ向けたメッセージという観点に立ちつつ総論的なものから各論的なものまで含めること。
- 各論部分,特に契約書の在り方については一般の人にも分かりやすい内容とするとともに,司法の観点に立った裁判所としての分析も重要であると考えられる。
- 本委員会から付託された論点で未だ議論がなされていないものについては今後の検討項目としたいこと。
(4) 契約書の在り方について
これまでの議論を踏まえ,「建築契約における契約書の在り方について(中間報告)」(資料3)を作成したこと,またその内容を答申の一部として盛り込むことを考えている旨の説明がされた。
(主な発言)
- 答申には,より分かりやすくなるようなデータ等の資料を添付することが望ましい。
- 例えば設計報酬について特に書面による取決めをせず工事を先行させたことにより後で紛争になるというケースがこれまで多く見受けられるが,設計報酬に関する在り方を今回の答申に盛り込むことによって,やはり最初の段階での書面による報酬の取決めが重要であるといったような意識が,少しでも芽生えていけばよいと考える。
- 建築士法を遵守し,国土交通省告示第1206号のガイドラインに従えばよいが,このガイドラインが採用している積上げ方式のためのデータが揃っていないのが建築界の現状ではないか。約款の整備状況と相まって,2年ほど前から建築士の間では書面の必要性についての意識が高まりつつあるが,依然として問題は残っている。
- 実際に紛争となった事例の中にも,積上げ方式によって計算したものもあるが,きちんとしたデータに基づいていないため,仮に調停が成立しても,両者ともに満足していないのではないかと感じることもある。明解な説明を可能とするためにも,やはり書面が重要なのだということを,今回の答申で出せればと考えられる。
- 施工に関し,裁判実務の事実認定において大きな障害となっているものとして,住宅系の追加変更工事契約が口頭でされていること,また下請けと孫請けとの間で書面が作成されていないことが挙げられる。こういった問題点を答申に盛り込みながら,実務ではこうしたらいいのではないかとの提言をし,実務慣行の変更を求めるということは考えられないか。
- 設計というものを一つの業務として完了させておくことは必要である。ただし,パーフェクトなものはほとんどなく,変更はつきものである。だからこそ書面を作成しないといけないわけである。
(5) 説明義務・見積書について
「説明義務に関するこれまでの意見」(PDF:22KB)(資料4)に基づき,事務局からこれまでの議論の概要が説明された。また東京地方裁判所及び大阪地方裁判所から,説明義務及び見積書が問題となった事例がそれぞれ紹介された。
(主な発言)
- これまでの設計業界では,施主側と設計者側との情報量のギャップを埋めることを考えず,専ら「まかせなさい」というスタイルが多かったと思われる。
- 出来上がった図面が良くできていたとしても,それが建築基準法違反であることを施主が知れば,たいていの施主は中止を求めるものである。したがって,設計者側は,施主の要求に従えば建築基準法に違反するというのであれば,その旨を施主に説明すべきではないか。
- 裁判となる事例に見受けられるものの中で,例えば建築業者の側が「実験によれば,この建物は関東大震災の5倍の強度を持つ」といったように,実験結果に基づいたものであることを表示していることがある。紛争になった場合には,このような情報を所持している側(多くは建築業者)がデータ等の提供や説明を当然すべきである。
- 業者側の誤解や知識不足により,間違った情報が表示されている場合があるが,これは説明義務以前の問題である。
- 基本設計が終了した段階で施主側の了承をとり,その後は実施設計の段階になるという線引きが必要である。最近の約款にはそのことを前提とする記載があることからしても,今後はこのように変わっていくと思われる。
- 理想をいえば,見積書は契約締結前の見積りにすぎず,今後は工事代金内訳明細書を重要視していくべきである。ただ,見積書が紛争の中で重要なものとなっているのは事実であり,項目としてどういう部分を見積もったのかについては,やはり専門業者ならば明確にさせておくべきである。
- 工事代金内訳明細書について,官庁発注ならば専門の読み手がいるが,それ以外の民間事業主全てにこの明細書を読めというのは無理ではないか。
- 契約書に設計図を添付した場合は,その図面どおり工事をするのは当たり前のことで,仮に別途工事として除くものがあればはっきり「除く」と契約書に明記すべきである。
- 建築界と法曹界双方にいえることと思うが,専門的な用語が多く一般の人達にわかりづらいといえる。例えば仕様書等の書類はプロでなくても分かりやすくなるような工夫が必要なのではないか。
- 説明義務を答申の内容に含めるとするならば,個別事例を挙げて分析を行うのではなく,ある程度の分類分けをした上で抽象的な内容にした方がよいのではないか。技術に関するもの,法令に関するもの,その他のものといったような分類分けをし,それぞれについて,どの事項について説明すべきか,説明すべき場合その内容はどのようなものが適当か等の検討を加えていくことが考えられる。
- 説明義務の問題は2つの場面に分けることができる。一つは,契約の前提としての説明,つまり契約前の段階で専門家が素人である施主に対してきっちり説明をすべきということである。例えば,施主からの要望どおりでは建築基準法違反となるような場合,施主に対しその事実を十分説明すべきである。もう一つは,契約後の設計施工段階や追加変更工事段階においても契約の内容としての説明を十分行うべきということである。
(6) 広報・PR(教育を含む。),アドバイザー制度について
「広報・PR(教育を含む。)とアドバイザー制度に関するこれまでの意見」(PDF:17KB)(資料5)に基づき,事務局からこれまでの議論の概要が説明された。
(主な発言)
- アドバイザー制度については2つのものが考えられる。一つはアドバイザー契約を締結して行うような仕組みの構築,もう一つは困ったときの駆込み寺のような単発的なものである。今のところ現実的に考えられるのは後者と思われる。
- 当面は,相談室のようなものを設けることが考えられる。
- 相談の内容としては2つの局面があり,契約を締結する前にちょっとしたことを聞きたいというような場合のアドバイスと,契約後の段階でのアドバイスが考えられる。
- 相談業務をするとなれば,今の現状では建築士が担うこととなる。そうすると,今の建築士の業務をアドバイスなりコンサルタントにまで拡大せよということになるが,果たしてそこまで提言することが適当なのか。
- 例えば調停委員や鑑定人の経験者の中には,70歳を超えても十分相談業務をこなせると思われる経験豊かな人材がいるが,そういった人たちを活用できないか。
- 裁判事例の中には,当初発生したトラブルが軽傷段階のものであっても,その後の経過によって紛争が一層深刻化してしまったケースも見受けられることから,そのようにならない軽傷の段階で解決が図れるような機関ができれば理想である。
(7) 今後のスケジュール
第8回分科会は平成15年2月24日(月)午後3時(本委員会と合同開催)であることが確認され,第9回分科会は平成15年4月17日(木)午後3時に行うこととなった。