トップ > 各地の裁判所 > 最高裁判所 > 各種委員会 > 医事関係訴訟委員会について > 第23回医事関係訴訟委員会・第21回鑑定人等候補者選定分科会議事要旨
1. 日時
平成23年6月29日(水) 午後3時
2. 場所
最高裁判所中会議室(2階)
3. 出席者(敬称略)
委員
鴨下重彦,川名尚,木下勝之,杉本恒明,三羽正人,武藤徹一郎,山口武典
〔森亘(委員長),北山元章は欠席〕
特別委員
御手洗哲也[名川弘一,前川和彦は欠席]
オブザーバー
高橋譲(東京地裁判事),徳岡由美子(大阪地裁判事)
事務局
永野厚郎(民事局長),朝倉佳秀(民事局第一課長),岡崎克彦(民事局第二課長)
4. 議事
(1) 開会の宣言
(2) 委員の退任及び就任に関する報告
事務局から,菊池信男氏が平成23年6月24日の任期満了をもって委員を退任し,弁護士(元福岡高等裁判所長官)の北山元章氏が平成23年6月25日付けで委員に就任した旨が報告された。
(3) 鑑定人候補者推薦依頼をした事案の経過及び推薦依頼先学会選定結果報告
事務局から,本委員会から各学会に対して鑑定人の推薦依頼をした事案について,別添「医事関係訴訟委員会において推薦依頼をした事案の経過一覧表」(PDF:108KB)に基づき経過報告があり,また,平成23年3月までに推薦依頼のあった3件の事案,同年10月までに推薦依頼のあった4件の事案及び平成23年3月までに推薦依頼のあった2件の事案について,別添「推薦依頼のあった事案の概要等」(PDF:18KB)のとおり,推薦依頼先学会が選定された旨の報告があった。
(4) 事務局による主な医学会分科会への訪問結果の報告
本委員会からの推薦依頼実績が特に多い日本脳神経外科学会及び日本整形外科学会の2つの学会を事務局が訪問し,本委員会での鑑定人候補者推薦依頼事務,鑑定の流れ等について説明を行い,学会からの意見を聴取したことについて,事務局から報告があった。
(5) 医療訴訟連絡協議会・医事関係訴訟事件の状況等について
ア 医療訴訟連絡協議会等の開催結果の報告
事務局から,各地方裁判所において開催されている医療訴訟連絡協議会や医療訴訟ガイダンス等,医療の専門家と法曹関係者の意見交換の取組につき,平成22年1月から12月までの間の開催結果について報告があった。
イ 平成22年の医事関係訴訟統計について
事務局から,平成22年の医事関係訴訟事件の最新の動向について説明があった。
(主な意見)
- 専門委員の関与したケースとそうでないケースとで和解に至る割合などに違いはあるのか。
- 医事関係訴訟全体の和解率は近年5割前後で推移しているが,専門委員が争点整理に関わった場合は,和解率が6割くらいになる。また,専門委員が和解に関わった場合には,和解率は8割から9割くらいになる。専門委員が関与することによって,専門的知識を裁判手続に反映させ,当事者間で専門的知識を共有することが重要である。(事務局)
- 問題解決にあたり,専門委員制度はどのように活用されていて,どのように訴訟手続に影響しているのか。
- 争点整理の段階で見通しをつけるために,中立公正な立場の専門家に,単に一般的な説明だけではなく,ある程度類型化して,こういう条件の場合はこうであるという推論部分も含め,忌憚のないアドバイスを頂けると非常にありがたい。また,患者側が100パーセント病院の有責性を主張している場合であっても,医療水準論や専門的な意見を聞いたら納得してくれるということもある。その結果,円満解決ということで比較的低い金額で和解ができるということもある。(オブザーバー)
- 専門委員の事件関与率は10パーセントにも満たないが,もっと活用してよいのではないか。
- 専門委員制度を活用するのにふさわしい事案があるのに専門委員制度が利用されていないのでないかという観点から,より使いやすい制度にしていかなければならないと考えている。現時点では,あらゆる診療分野について,中立的な専門家を全国50か所すべての裁判所の名簿に掲載していくというのは困難であり,ある意味無駄にもなってしまうので,地域を越えて広域的に利用できる仕組みについて検討している。例えば,大都市であれば大学や病院が多いため,専門委員の数も多いのだが,その専門委員に地方においても専門委員として活躍していただく仕組みを検討しているところである。(事務局)
- 専門委員制度は,この委員会での議論も踏まえてできた制度でもあり,成果が上がっていることは大変良いことである。
(6) 医事関係訴訟委員会の10年間の活動実績と主な成果について
本委員会が設立されて本年で10年を迎えたことから,本委員会のこれまでの活動実績や成果等について,別添「医事関係訴訟委員会の10年間を振り返って」(PDF:13KB)に基づき,事務局から以下の報告があった。
- 本委員会を中核として,医学界と法曹界の相互理解が促進され,協力態勢は年を追うごとに強固なものとなってきており,各地方においても,医療機関,弁護士会及び裁判所の三者による協議会等による意見交換会の場が頻繁に設けられている。
- 本委員会による鑑定人候補者の学会への依頼については,これまでに216件の依頼が各裁判所から本委員会に寄せられ,依頼先学会は45にのぼり,制度として十分に軌道に乗ってきている。
- 医事関係訴訟事件の平均審理期間は,この10年の間に11か月以上短縮した(約3分の2になった)。
- 本委員会が発足した平成13年以降,各地の裁判所において独自の鑑定人選任のためのシステムが構築され,医事関係訴訟に専門的に対応するための医療集中部が10地裁に設置された。
- 平成15年の民事訴訟法の改正では本委員会の議論も一つのきっかけとなり,鑑定人に配慮した鑑定手続の整備や各手続において専門的知見に基づく説明を聴くことができる専門委員制度の創設が盛り込まれた。
(主な意見)
- 委員会発足当時は,学会に対して推薦依頼をした場合に協力を得られるのかどうか不安な面もあった。しかし,現状を見ると,学会には協力していただいていると思う。
- 本委員会の一番大きな役割は鑑定人候補者の選任であるが,それに加えて,鑑定の在り方などについて本委員会で議論したものが,そのまま制度化されたものもあれば,ここでは結論を出すには至らなかったものの,複数の鑑定人によるカンファレンス方式鑑定のように地裁等が実際に試みて,それなりに成果を上げてきたものもある。最高裁の委員会で議論されたということで,各地でそれをテーマに取り組み始めたということを聞くと,この委員会の意義は大きかったと思う。
- 東京地裁で実施されている3名の鑑定人によるカンファレンス方式の鑑定は,大変よいと思う。一人で鑑定書を書いて責任をもって文書を作成することは鑑定人の負担が大きい。様々な意見を聞きながら落ち着きどころを見出すことができるというのは重要である。
(7) 医事関係訴訟委員会の今後の在り方について
医療及び医事関係訴訟を取り巻く環境の変化に的確に対応し,適切に紛争解決を図っていくため,医事関係訴訟委員会の今後の主な課題として,本委員会の調査審議機能の活用と鑑定人推薦依頼事務の更なる改善が掲げられ,今後の委員会の活動方針として別添「医事関係訴訟委員会の今後の在り方について」(PDF:11KB)のとおり提案がなされ,出席の委員及び特別委員の全員の一致により了解された。
ア 調査審議機能の活用
医事関係訴訟の審理の充実を図り,より適正な判断を実現していくために,本委員会の調査審議機能を活用し,日本の医療の実情や医事関係訴訟の抱える様々な課題についての意見を交換することのできる「意見交換会」を設置する。
イ 鑑定人推薦依頼事務の機動性の確保
鑑定人候補者の推薦に係る事務的手続について,これまで以上に機動性を確保し迅速化を図るため,現行3か月に1回の推薦依頼締切日を廃止して,随時受け付けることとする。
ウ 委員構成の見直し
i 新任委員
委員会の将来への継続性を確保していくため,年齢構成にも配慮しつつ,委員の補充,任命を行う。
ii 委員長代理
現在は空席となっている委員長代理については,委員長の指名により鴨下委員が選任された。
iii 特別委員
鑑定人候補者推薦依頼事務が軌道に乗ったことから,その役割を十分に果たしたものとし,今後は置かないものとする。
(主な意見)
- 医療及び医事関係訴訟を取り巻く環境の変化に対応するためには,委員の交替を図る必要があるのではないだろうか。
- 医療紛争について,何もかも訴訟で解決するのではなく,他に何らかの解決手段がないかを考えていく必要がある。
- 鑑定人推薦依頼手続を通じ,200件以上の事件を見てきたが,事件にはいくつかの傾向があることが見えてきた。それを時代の流れという形でとらえて,次の課題として取り組んでいくことになれば,本委員会は今後もまた発展していくのではないかと期待している。
(オブザーバーからの主な発言)
- 今後,本委員会において,「意見交換会」を行うとのことであり,医療現場の実情,専門的知見の導入方策というテーマが案として掲げられているが,医療訴訟を担当する現場の裁判官としても大変興味深い話題であり,課題について掘り下げた検討をしていただけるとありがたい。
- 「意見交換会」のテーマとして取り上げていただきたいものとして,例えば,インフォームド・コンセント,先端医療,救急医療が挙げられる。医療現場の実情などについて,いろいろな角度から教えていただければありがたい。
(8) 次回の予定等について
次回の委員会の開催日時は改めて決定することとなった。