トップ > 各地の裁判所 > 最高裁判所 > 各種委員会 > 裁判官の人事評価の在り方に関する研究会 > 第1 研究会の設置の経緯及び協議の経過等
1. 設置の経緯
昨今の我が国の社会経済の多様化,高度化に伴い裁判所に持ち込まれる紛争は複雑,困難性を増し,また,解決のために専門 的知識を要するものも増加している。このような状況の下において,裁判官がその職責を適切に果たしていくためには,これまで以上に高い資質の確保に努めるとともに,裁判官に対する国民の信頼を一層確かなものにすることが求められている。
内閣の下に設置された司法制度改革審議会は,平成13年6月12日,約2年間にわたる調査審議の結果に基づき,司法制度 の改革について意見をとりまとめて内閣に提出した。それを受けて,司法制度改革推進法が制定され,内閣においては,司法制度改革推進本部を設置し,平成 14年3月19日には,司法制度改革推進計画を閣議決定した。また,最高裁判所も,同月20日には,司法制度改革推進計画要綱を策定した。
ところで,今回の審議会意見では,裁判官の人事評価について,裁判官の独立性に対する国民の信頼感を高める観点から,裁判官の独立の保持にも十分配慮しつつ,評価権者及び評価基準を明確化・透明化し,評価のための判断資料を充実・明確化し,評価内容の本人開示と本人に不服 がある場合の適切な手続を設けるなど,可能な限り透明性・客観性を確保するための仕組みを整備すべきであるとされている。この点について,最高裁判所は,司法制度改革審議会の審議の中で,人事の透明性の要請が社会一般における最近の流れであるとの認識の上に立って,諸外国の制度等も参考にしながら,裁判官の人事評価制度について検討を進めたいとの考え方を明らかにした。従来,裁判官の人事評価は,内部の運用として行われてきたため,裁判官や国民の目から見て分かりにくいものとなっていたことは否めないところであり,今後裁判官が国民の負託に応えていくためには,人事評価についても透明性・客観性を確保することが肝要である。以上の経緯を踏まえて,最高裁判所は,人事評価制度の整備に取り組むこととした。
もとより,裁判官の人事評価制度は,裁判官の人事制度の根幹に関わり,裁判所及び司法制度全般にも大きな影響を及ぼす問題である。したがって,その整備に当たっては,裁判官の職務の特性や裁判実務の実情を十分踏まえつつ,裁判官の資質を高め,国民の裁判官に対する信頼を高 めるためには,どのような観点から裁判官の仕事振りを評価し,どのような手順や方法で評価を実施することが適切かといった点について,大所高所から,しかも裁判所内部の視点にとどまらない形で,多角的,総合的に議論,検討を進めることが望ましいと考えられる。
当研究会は,このような問題意識の下に,裁判官の人事評価の在り方全般について調査,検討することを目的として,裁判所外部の委員5名と高等裁判所,地方裁判所の裁判官各1名の委員の参加を得て,最高裁判所事務総局に設置されたものである(資料1「裁判官の人事評価の在り方に関する研究会委員名簿」(PDF:321KB)参照)。
2. 協議の経過
当研究会は,平成13年9月7日に第1回を開催し,調査・研究の期間を1年間程度と予定して,概ね月2回の頻度で検討を進め,平成14年夏を目途に協議の結果を書面に取りまとめて公表するとの方針を決定した。
平成13年12月4日に開催された第6回までの研究会において,裁判官の人事評価制度の現状と課題,諸外国の裁判官の人事制度及びその下における評価制度について幹事等から説明や報告を受け,公務部門・民間部門における人事評価制度の実情について有識者からヒアリングをす るとともに,第一線の裁判官から意見聴取を行うほか,全国の高等裁判所で実施された意見交換会における意見や最高裁判所事務総局に直接送付された裁判官の意見を参考にしながら(以下において,「裁判官の意見」として引用する意見は,これらの意見を指す。),協議を進めた。そして,同月17日に開催された第7回研究会において,それまでの協議に基づき,協議,研究の対象とすべき論点を整理した(資料3「裁判官の人事評価の在り方に関する論点の整理」(PDF:107KB)参照)。
平成14年1月16日の第8回研究会以降,論点整理に掲げられた個別的な論点項目について,順次協議を進めた。評価項目・評価書面の在り方,評価者,本人の意向を汲み取る方法,裁判所外部の見方に配慮する方法,本人開示・不服がある場合の手続といった論点項目については,制度の具体的な姿を想定しながら議論することが適当と考えられたため,一部の委員からなる作業部会において検討用のたたき台を作成した上で,それをも とに研究会で協議を行うなどした。
本報告書は,以上のような協議の経過を経て,同年7月16日に開催された第20回研究会において,これまでの研究会での協議の結果を,当研究会報告として取りまとめたものである。
なお,今般の司法制度改革の諸課題に取り組むに当たっては,裁判所に対する国民の信頼感を高めるという改革の趣旨から,検討過程を国民に分かりやすいものとすることが求められている。このような状況にかんがみ,当研究会においては,委員の協議により,各回の協議内容を記載した書面を公開するとともに,配付資料についても,プライバシー保護等の観点から問題があるものを除いて基本的に公開し,さらに研究会の最終的な検討結果 を取りまとめた書面も公開するとの方針を採用した。また,こうした協議内容を記載した書面及び配付資料を,最高裁判所のインターネット・ホームページ (ホームページ・アドレスhttps://www.courts.go.jp/)に掲載することとし,その司法制度改革コーナーに掲載して,適宜参照の用に供した。
3. 司法制度改革審議会意見の指摘事項
当研究会においては,審議会意見の指摘事項を踏まえながら検討を進めたところである。そこで,以下,審議会意見中の裁判官の人事評価に関する部分を引用しておくこととする。
裁判所の人事評価について、評価権者及び評価基準を明確化・透明化し、評価のための判断資料を充実・明確化し、評価内容の本人開示と本人に不服がある場合の適切な手続を設けるなど、可能な限り透明性・客観性を確保するための仕組みを整備すべきである。
現行制度においては,下級裁判所の裁判官の人事は,最高裁判所の行う司法行政事務の一環として,同裁判所の裁判官会議に より決することとされているが,その前提となる人事評価については透明性・客観性において必ずしも十分ではないとの指摘もある。こうした現状を見直し,裁 判官の独立性に対する国民の信頼感を高める観点から,裁判官の独立(外部的独立及び内部的独立の双方を含む。)の保持にも十分配慮しつつ,裁判官の人事評 価について,評価権者及び評価基準を明確化・透明化し,評価のための判断資料を充実・明確化し,評価内容の本人開示と本人に不服がある場合の適切な手続を 設けるなど,可能な限り透明性・客観性を確保するための仕組みを整備すべきである。仕組みの整備に当たっては,次の諸点に留意すべきである。
- 最終的な評価は,最高裁判所の裁判官会議によりなされることを前提として,第一次的な評価権者を明確化すべきである。
- 評価基準については,例えば,事件処理能力,法律知識,指導能力,倫理性,柔軟性など,具体的かつ客観的な評価項目を明確に定めるとともに,これを公表すべきである。
- 評価に当たっては,例えば自己評価書を作成させるなど,本人の意向を汲み取る適切な方法,更に,裁判所内部のみではなく裁判所外部の見方に配慮しうるような適切な方法を検討すべきである。
- 評価の内容及び理由等については,評価対象者本人の請求に応じ,評価対象者本人に対して開示すべきである。
- 評価内容等に関して評価対象者本人に不服がある場合について,適切な手続を設けるべきである。