1. 日時
平成15年11月14日(金)午後3時
2. 場所
最高裁判所中会議室
3. 出席者(敬称略)
委員
秋山宏,上谷宏二,内田祥哉,岡田恒男,可部恒雄,鈴木誠,仙田満,
畑郁夫, 平山善吉,松本光平,安岡正人(尾崎行信,浜美枝は欠席)
特別委員
坂本功,関沢勝一,山口昭一,山本康弘(大森文彦は欠席)
オブザーバー
斎藤賢吉,工藤光悦,田中信義,齋藤隆,田中敦
事務局
園尾隆司,菅野雅之,花村良一
4. 議事
(1) 開会の宣言
(2) 委員等の任免について
村田麟太郎委員が辞任されたことに伴い,秋山宏氏が新たに建築関係訴訟委員会の委員に任命されたこと,また,和田章特別委員が辞任されたことに伴い,関沢勝一氏が新たに建築関係訴訟委員会の特別委員に任命されたことが報告された。
(3) 配付資料の説明
「建築関係訴訟委員会におけるこれまでの審議の経過」(資料1)について,本日審議する際の資料であり,委員会で審議すべきとされた事項について簡単にまとめると同時に,これまでの発言等を議事録から抜粋したものである旨の説明がされた。
「鑑定人候補者推薦依頼一覧」(資料2)について,前回の本委員会以降に新たにされた推薦依頼等を踏まえたものである旨の説明がされた。
「月刊『民事法情報』抜刷」は,本委員会で6月にまとめた中間取りまとめが,法律雑誌に掲載されたものであり,このほかに判例タイムズ誌にも掲載されている旨,またマスコミ関係者からの取材もあり,一般紙から建築専門紙まで幅広く取り上げられた旨の説明がされた。
パンフレット「専門委員の手引」,「専門委員の訴訟手続への関与のイメージ」(資料3)(PDF:1.9MB),「鑑定手続イメージ」(資料4)(PDF:259KB)及び「鑑定手続改善のポイント」(資料5)(PDF:377KB)は,新しく導入が予定されている専門委員制度と鑑定制度について分かりやすく説明するために最高裁民事局において作成したものである旨の説明がされた。
(4) 建築紛争ハンドブックの発刊状況について
平山分科会長から,11月末に発刊の予定であること,内容としては建築紛争における重要な技術上の問題のほとんどを網羅しており,それらの問題点につき専門家に解説を依頼して完成させたものであることが報告された。
(5) 日本建築学会第4回講演会等の報告
関沢特別委員から,本年9月26日に開催された第4回講演会+パネルディスカッション「都市居住を巡る建築紛争」についての概要が報告された。
(6) 専門委員制度及び鑑定制度について
事務局から,別紙資料3ないし5に基づき,説明がされた。
(主な発言)
- 裁判所から見れば,建築全体が一つの専門分野と見えるであろうが,我々からすれば,建築の中に更に細かい専門分野があり,各人が本当に専門としている分野でしか手伝えないことがある。専門委員の人選に当たっては,更に細分化された専門があることを理解してほしい。
- 専門委員制度は,委員の心構え的なものがかなり重要だと思う。裁判の仕組みや流れなど,基本を理解した人でないと,混乱を招く。専門知識は当然の前提だが,単なる倫理のみならず,訴訟の仕組みと流れについての知識は最低限必要だと思う。そのために派遣する側の研修が必要だと思う。
(7) 鑑定人候補者等の選任に関する留意事項について
(主な発言)
- 推薦に当たり,建築学会側(法支援建築会議側)として述べたいことは2点ある。1点目は,鑑定という行為は格段に専門能力を備えていることが求められ,更にはモラルの高いことが求められる。しかし,そういう人物になるほど,自分の専門分野外の問題について所見を述べることは倫理にもとる,と考えることが多い。一方,建築紛争は争点が多岐にわたるという性格を持っているという,裏腹の問題を抱えている。争点が多岐にわたると,1案件について複数の鑑定人が必要となる場合もある。1人の鑑定人候補者に,専門を超えた広い範囲の鑑定を打診すると辞退されてしまう。ただし,1案件ごとの争点の整理を厳密にやっていけば,そんなに鑑定人を増やすこともなくなると思う。2点目は,当事者が依頼した私的鑑定人がいる場合,学会で候補者を推薦したときに,私的鑑定人と推薦した鑑定人とが師弟関係とか先輩・後輩とか,ある種関係者であることが判明するケースである。そうなると果たして厳正中立な鑑定ができるだろうか,ということになり,再度推薦をやり直さなければならなくなる。そういう事態を避けるためにも,できるなら,事前にそういった情報の開示が要請される。
- 1点目について,一口に建築といっても様々な細分化された専門分野があると思うので,鑑定を依頼する前提として,鑑定の対象となる事項がある程度整理されていることが必要になると思う。例えば,調停事件の場合には,専門家である調停委員が,建築に関する一般的知見に基づいて争点を整理し,極めて高度な専門分野に関する部分について,特別の専門的知見が必要となる部分があれば,問題点を特定した上で,当該問題点に限って,その専門分野を得意とする方に鑑定人として意見を出してもらうというような形で争点の絞込みをしている例は,現にあるのではないかと思う。2点目については,予め当事者が依頼した私的鑑定人がいるような場合に,当該情報を鑑定人推薦の枠組みの中に事前に取り込んでいくことが可能かを考える必要がある。具体的にどういった事例があったかを含めて,分科会で議論していただく必要があると思う。
- 東京地裁では,調停がなかなかできずに判決することになり,鑑定しなければならない事例が増えている。この点,専門性の高い鑑定人を短期間に推薦してもらえることに感謝している。専門外のことを引き受けてもらうのは,もともと無理があるので,そういうことを避ける意味で,絞り込んだ争点に最も合致している方にお願いするという形をとりたい。例えば,地盤に問題があるかどうかという原因と,修復に必要な費用の額が争いとなる場合に,専門分野が違うということで一人では判断が難しいという場合には,中心的な部分である地盤の点につき鑑定してもらった後,修復費用の額については調停手続を使う等,使い分けをしながら,無理なく専門分野で動いてもらえるようにしたいと思う。また,鑑定を正式に引き受けてもらう前に,中立性を確保する観点から私的鑑定があるということを伝えたり,鑑定人候補者を当事者に開示して,疑念を抱くことがないように配慮して進めるようにしている。
- 大阪地裁でも,東京と同様,鑑定は円滑に進んでいる。実施に当たっては特に中立公平性に気を使っている。
- 公平性は重要であるが,何らかの歯止めが欲しい。あまり厳しい基準で公平性を求めすぎると,鑑定人を引き受けてもらえる人がいなくなってしまうおそれがある。
- 司法支援建築会議がサポートする際,鑑定人候補者の推薦依頼においては,当事者名等について仮名処理をしてもらっており,私的鑑定人が誰であるか等の事件の具体的内容についての情報は,ない状態で推薦させてもらっている。これは,司法支援建築会議が,個別の紛争に巻き込まれることにならないようにするためであり,司法支援建築会議としては,あくまでも抽象的な事案を前提として,当該事案の争点に相応しい専門家を推薦するに止まるという立場を維持したい。その意味では,私的鑑定人などとの関係での公平中立性の確保に関しては,できるだけ裁判所等の第三者側で対応していただきたい。また,建築学会としては,できれば複数推薦の方が継続的に円滑な推薦をすることができると思う。
- 鑑定人と専門委員との制度的相違点が明確になるような取扱いをしていくことが大事だと思う。両方の違いを明確にして,それぞれに的確な人選をしていく必要があると思う。
- 両者の制度的相違点を前提として運用されていくことになろうが,共に専門知見を活用するという機能面での類似性もあるので,両者の制度の境界線が画一的にきちんと引けるということにもならないと思われる。専門知識が全般的に必要な事案では専門委員が活用され,高い専門性を有する知識が必要な事案では鑑定が活用されることが多いであろうことが一般的には言えると思われるが,個々の事案ごとに見れば,それぞれ個別事情があることから,必ずしも画一的な線引きがされることにはならないであろう。
- 鑑定事項や争点が明確になっても,建築学会側で推薦するのに苦労する場合があると聞いている。本当に的確な鑑定人が見つかるかは,難しい面もあろう。
- 現状は,まず,建築学会としてどの程度人材を確保できているかという問題がある。建築の専門分野は非常に広いし,推薦を求める裁判所も非常にたくさんあるということで,満足するような状態にあるとは言い難い。今のところ,概ねスムーズに推薦できているが,地方在住者は少なく,大変である。
(8) 広報・PR,アドバイザー制度について
(主な発言)
- 過去に司法支援建築会議が主催した講演会やシンポジウム等では,延べ1200名の参加があった。参加者の内訳は,専門家が8割,一般市民が2割である。まだまだ一般市民向けの普及活動は不足しているという感じはする。
また,建築の専門家に求められる職業的倫理に関しては,高等教育プログラムに,倫理教育を組み入れる必要性についての認識が非常に高まっている。学会としても,全国の大学・短大・高等専門学校等に対して,倫理教育を教育プログラムに組み入れる必要性が高いことを呼びかけている。
アドバイザー制度については,既に資格者団体が,一定の相談業務を行っている。個別具体的な紛争事案の相談業務を建築学会が行うことについては負担が重いし,そういう問題は,直接業務を扱っている職能・資格者団体にお願いするのが相当であると考えられることから,建築学会としては,対応しないということで,棲み分けを行うことになろう。
さらに,その他の制度として,契約段階における発注者のためのアドバイザー制度の必要性という議論に関しては,契約の最初の段階で発注者がどういう建築を作ろうとしているかを業務文書に示すことの必要性が,建築学会内部でも指摘されてきた。この点につき,2年前から建築設計ブリーフ特別研究委員会としての活動が行われてきた。ブリーフというのは,発注者・使用者の要求する建築物の性能や機能などの必要項目や,プロジェクトの背景,財務的な制約などの条件・情報を設計者に正確に伝えるいわゆる業務文書であるが,建築学会としては,ブリーフ作成コンサルタントの育成を目的にブリーフ作成業務の手引を作成して建築界に提供していく方針である。さらに,これを活用して,建築教育プログラムにブリーフを取り入れて,高等教育卒業後の継続教育の一環として,ブリーフ作成コンサルタントの育成プログラムを作りたい。このコンサルタント育成自体が新しい職能開発につながっていくと思うし,将来的にはブリーフ作成コンサルタントが発注者・使用者サイドのための専門家として紛争を防ぐ職能としての可能性に期待している。 - 相談窓口については,契約等の相談は問題ないが,訴訟の提起を念頭に置いた相談を扱うのは困難である。
- ブリーフ作成コンサルタントについては,職業とするからには,資格を与えるのか。そのような資格付与に際しては,本当に能力があるかのチェックが大事だと思う。
- 現在,建築界では,建築の資格制度について,全面的な検討をしている。特に一級建築士などの資格者団体である建築士連合会では,建築士を基礎的資格とし,その上に,様々な経験や研修を積んだ人が,建築設計,構造設計,設備設計,施工等すでに確立している自己の専門分野を表示する制度を作ろうとしている。各人の専門の表示が,十分な実績を踏まえたものになっているかどうかについては,建築学会が認定する性質の問題ではなく,専門的な資格者団体において対応していくことになると思う。先ほどの設計ブリーフ作成コンサルタントは新しい職能分野であり,これから育成していくものと考えている。
- 設計の発注段階での専門家は,日本では少ないのが実情である。したがって,設計の契約的な側面については,それ自体を一つの専門分野として,専門家が養成されていく必要があると思う。
(9) 建築基準法令の実体規定と契約上の瑕疵との関係及び建築物の瑕疵による損害額の算定方法について
(主な発言)
- 建築基準法が改正になり,基本的には,実体規定ではなく,性能規定を中心とした,基本的枠組みができたと思う。そうすると,性能的な部分を充足していれば,実体として,例えば,かぶり厚さの問題があっても,責任を問われることにはならないと考えるのであろうか。できれば整理していただきたいが,法律論的な問題にかかわることであるし,本委員会で取り扱うのは,難しいのであろう。
- 実際の鑑定では,性能規定の方が判断をしやすいと思う。現状では,仕様規定を実質的に性能規定のように読み替えて,判断をしていることが多いのではないかと思う。特に,かぶり厚さについては,仕様的なものを性能に読み替えている。将来的には,性能規定に統一されれば判断がしやすくなると思うが,瑕疵の問題については,しばらくは,性能の観点からの判断と仕様の観点からの判断とが併存する状態が続くのではないかと思う。
- 個人的には,性能規定のほうが判断しやすいと思う。しかしながら,騒音が問題となる場合や,地震による損壊などのように,性能を検証する方法がない分野もある。そういうものは,材料・構法規定のほうが分かりやすい。
- 性能規定と言っているが,性能を客観的に測ることは,案外難しいと思う。全般的方向としては,性能規定でいくのが良いと思うが,具体的な性能の内容をどのように把握するかが重要となると考える。
- 本当に重要なことは,実質的な安全性であると思うが,その点が十分に問題とされていない気がする。形式的に法律違反だから,建替えの必要があると短絡的に考えるのではなく,損害賠償で処理できるものについては,損害額を算定してそれを賠償するという方向性の方が良いと思う。もっとも,かぶり厚さを財産価値の減少で処理しようとすると,もちろん財産価値の減少分を計算することは不可能ではないが,現実の見積りの段階で修補の方法等により極端に金額が違ってくるために,どの方法等を採るのかという問題が別途生ずることになってしまう。
(10) 今後のスケジュール
第12回分科会を,平成16年1月下旬から2月頃に開催する予定である。
※ その後の期日調整の結果,第12回分科会は,平成16年2月13日(金)午後3時から開催することとなった。