1. 日時
平成13年7月19日(木)
2. 場所
最高裁判所大会議室
3. 出席者
委員,敬称略
猪口邦子,上谷宏二,内田祥哉,岡田恒男,尾崎行信,可部恒雄,鈴木誠,仙田満,畑郁夫,平山善吉,松本光平,村田麟太郎,安岡正人
事務局
千葉勝美,林道晴
4. 議事
(1) 最高裁判所長官あいさつ
(2) 委員紹介及び自己紹介
(3) 会長互選(内田委員を選出)
(4) 会長代理指名(可部委員を指名)
(5) これまでの経緯の説明(事務局,岡田委員,平山委員)
事務局から,建築関係訴訟において鑑定人の確保に困難を極めていること,鑑定人確保の問題も含む建築関係訴訟の審理の在り方について,建築界及び法曹界の有識者若干名で非公式の意見交換を行ってきたこと,その意見交換において建築関係訴訟委員会の構想が固まり,今回の発足に至ったことなどが説明された。続いて,岡田委員から日本建築学会が司法支援建築会議を立ち上げるに至る経緯が,また,平山委員からは司法支援建築会議の具体的な目的,事業等が説明された。
(6) 委員会運営について
1)建築関係訴訟委員会規則の概要について,事務局から説明
2)議事の公開の取扱い
別添「議事の公開の取扱いについて」(PDF:8KB)のとおりの取扱いとすることとされた。
3)委員会の事務手続
審議の結果,具体的な事務手続については,今回の審議内容も踏まえて次回決定することとされた。
4)今後のスケジュール(次回の予定)
第2回委員会は本年10月16日に開催し,委員会の具体的な事務手続を決定することとされた。
(7) 主な発言
- 建築の専門家といっても専門分野が非常に分化して多岐にわたるため,鑑定の依頼があっても,自分の専門分野の範囲で適正な判断が可能かという危惧を覚える。その点で,日本建築学会が公平中立な立場から,組織として対応するのは有意義であると考える。
また,鑑定人を引き受けた人に多大の労力を強いることに対するケアや,中立公正な立場を保証する仕組みの構築が問題となってくるのではないかと思われる。 - 最近建築関係の紛争が増えてきたが,価値観の相違に起因する問題が多くなったのが近時の傾向であると思われる。建築基準法の改正や住宅の品質確保の促進等に関する法律の施行により,今後は急激に紛争が増加する可能性が高いと考えている。
- 建築関係の紛争では,感情的・感覚的な部分で当事者が納得しないということもある。専門家の関与により客観性が増せば,当事者も受け入れてくれるようになるのではないかと期待される。
- 建築関係訴訟は,非常に高度な専門的知識を有しないとうまく解決できないことが多いように思われる。当事者も様々な主張をするが,ともすると紛争のポイントが分かりにくい。医事紛争と比べて専門的知識の必要性に対する認識が低いのではないかとかねがね感じていたところである。
- 注文者側は,契約書,見積書等の書面の記載よりも,担当者から口頭で受けた説明を頭に置いていることが多い。これに対し,請負業者側は契約書等の書面の記載を重視している。この点から,両者の認識の不一致が生じているようである。両者の認識を一致させるために,契約書の重要性を十分理解するとともに,素人にも分かりやすい内容にする必要があるのではないかと感じている。
- 日本建築学会としては,建築紛争を学術的に調査分析して現場にフィードバックし,より良い日本の建築都市文化形成に役立てたいと考えている。
- 法曹と建築専門家の役割分担の在り方が今後の建築関係訴訟における重要な課題と考えている。それぞれの特徴をうまく調和させる必要があろう。また,国民の立場からは,医事紛争やバブル崩壊後の金融機関と消費者の間の紛争の場合と同様に,今後は説明義務が非常にクローズアップされてくるだろう。
- 建築界と裁判所はもっと協力関係を深める必要があるとともに,その成果を建築界にフィードバックしなければならないと考えている。日本建築学会の司法支援会議は,このような見地から,裁判所と連携しつつ鑑定人候補者等を推薦するが,当方としても,どのような先生がどこにいるのかということを把握することは難しい面はある。
- 建築の専門家は法制度や消費者保護の重要性について十分に理解していないことが多いのに対し,法曹や一般国民は建築技術の特徴をあまり知らず,また,建築の品質や性能を理解することは相当難しい。このため相互理解が十分でないところに紛争が生じているものと思われる。この委員会の活動を通じて,専門分野間あるいは専門家と一般国民との間の「通訳」を務めることができればと考えている。
- 建築の世界では伝統的に施主との信頼関係に依拠する傾向が強く,これが崩れるとトラブルになりやすい素地があったのではないか。この点の業者と施主との意識のズレが紛争を増加させているようにも思う。具体的で漏れのない契約書を交わして,クライアントとの間で共通の理解を明確にすることが紛争の予防のためには重要である。建築界全体としてはその方向に動いていると感じている。
また,建築のソフト化,グローバル化,情報化といった現象から,多様なニーズに合わせて業務の拡散化や他分野からの参入等が進んでおり,紛争も種類や内容が多様化してくるのではないか。これに対応するためには専門知識だけでは不十分で,より広い知見を取り入れる必要があると思われる。 - 法曹界との意見交換を通じて印象深かったのは,建築生産の過程において日本的な曖昧さがあり,契約書,図面等の不備,口約束での設計変更や追加工事等が紛争の原因の多くを占めているのではないかとの指摘をされたことである。日本建築学会としては,裁判所の支援を受けつつ,建築紛争をより学術的に調査研究し,できるだけ分かりやすい形で消費者も含めて情報提供し,建築紛争を未然に防ごうと考えている。
- 世界的なグローバライゼーションの勢いは,日本も含めて人々の期待形成に微妙な影響を及ぼしていると思われる。一般的に,市民が不満のあるときに取る行動には「退出する(exit)」と「訴える(voice)」があるが,消費者行動としては前者が非常に多く,後者は退出できない場合に取られる行動である。建築や医療は退出できない分野であるため,利用者は非常に大きな声で「訴える」ことになる。グローバライゼーションが進んだ中では,日本の人々も海外の水準を意識しつつ不満を持つことが多い。したがって,訴訟をどう解決するかということと同時に,建築の実務が国際水準になっているか否か,日本建築学会としてもよく考えて実務を指導して欲しい。これがまず最初のステップにあって訴訟が減り,また,利用者も専門的知識を持つようになっていくのではないか。
また,例えば,注文者が女性である場合に,無意識にであれ,知らされる情報等の点で女性であるために不利な取扱いを受けていないか。説明を受ける権利の点でジェンダーギャップがないように,問題意識を高める必要がある。日本建築学会としてこの問題に取り組んで欲しい。
グローバライゼーションが進む中では,基本的に相手方は信用できないという前提に立って,文書が尊重される。海外で建築や土木の支援をするときに,文書主義が徹底していないために行き違いがあったりして,いざというときに顧客を守りきれないということもあろう。仕事のやり方について社会や業界を教育していくという姿勢を日本建築学会が持ち,学術との連携により裁判所が建築紛争に対しフェアな判断をすることと合わせて,文書あるいは契約の重要性の普及活動をすれば,国内の問題の緩和が即対外関係の問題の緩和につながるという広がりを持つのではないかと思われる。 - 昨年から,日本建築学会でも発注書の整備について国際的標準にまで高める研究を始め,様々な分野の研究者のほか,行政や民間も含めて構成される委員会で検討しているところである。
- 長期的には,工学系の教育に法務関係の教育を合わせることも非常に重要であろう。文系と理系が完全に分離している教育が競争力を弱くしているように思われるので,今後,人材養成のなかで法務系あるいは社会科学系の教育をうまく組み入れるとともに,協力関係のネットワークを作るシステムがあれば,裁判所に来る前段階でもう少し適切な対応ができるのではないか。この委員会が,教育,人材養成を含めたメッセージ性のある活動をできれば意義深いのではないかと思う。
- 注文者にも様々な人がいるが,個人の住宅の場合には,契約書等の文書をろくに読まないという人も少なくないのではないか。このような実情を考えると,文書を更に整備して,紛争が起こったときにこれを盾にするというわけにもいかないだろう。国際的なコンペであればともかく,建築にそれほど関心のない一般の人との関係でも内容はズレのないようにする実効性のある仕組みを実現することがむしろ重要ではないか。ユーザーに対し分かる言葉で語りかけることができて初めて,未然に紛争の種を減らすことができると思う。
国際化については,建築の場合は気候風土などの違いに応じて国によって様々であり,世界と接するインターフェースを整備する必要はあろうが,あまり国際性を強調せず,国内は別のシステムを作る必要があるのではないか。 - オフィスビルなどと異なり,博物館や住宅では,建築家と注文者との間で設計条件が必ずしも明確に出てこず,話合いの中で徐々に形が決まってくるということも多い。この話合いの過程で決まった部分を確認しながら進めれば問題は少ないが,不確かなまま進めるために思い違いなどが生じ,紛争につながることにもなる。タイプに合わせた文書の整備を考えていかなければならないと考えている。
- 文書化を進めても,特に居住性能などは数値化することによって尺度としては分かっていても,居住実感としてどのような満足感が得られるかということはほとんど理解できない。文書がいくら整ったとしても,このような実感の裏付けがない現状では問題は解決しない。疑似体験のようなものが一つの解決策になるかもしれないが,文書以上の情報提供が必要ではないかと考えている。
- 文書は完璧であるが,現場の者がどのような話をしたか,それが契約上どのような効果を持つかが,法律家としては悩ましい部分である。国際的な要請も分かるが,だからといってこの現状を否定しても適正な解決ができないと思われる。ある種日本固有の文化の反映であるという理解をしないと公正な判断といえないのではないか。
- 建築紛争が発生して裁判になるプロセスや原因を委員会なり分科会なりで検討し,これに対する対処の仕方を体系的に整備して解決を図ることを議論し,こうした枠組みを作った上で,建築家や法曹がどのように対応するか,この委員会はどのような働きかけをしていけばよいかを議論すればよいのではないか。
- 日本建築学会としては,鑑定人候補者の推薦に当たり,依頼の際には事案について仮名処理をするとともに,鑑定人候補者はできれば複数選定し,裁判所が,様々な背景等を考慮して最も適当な候補者を鑑定人として定めるという形にしてもらいたい。
- 裁判所が従来の在り方を超えて,問題エリアの専門家の意見を広く聴き,より広い範囲から時代の変化,社会の要請を捉え,正義の判断を行うという精神で,この委員会を運営してもらいたい。この委員会が,技術的な候補者の選定だけでなく,正義がどのような社会背景の中で決定されなければならないか,関係者全員が認識を深める触媒になればと思う。
- 契約書等の書面をきちんと作るだけでなく,建築の素人である発注者に分かるような言葉で書面を作成し,そのような言葉で説明をするということが,紛争の予防という点では重要ではないか。