トップ > 各地の裁判所 > 最高裁判所 > 各種委員会 > 医事関係訴訟委員会について > 第28回医事関係訴訟委員会・第26回鑑定人等候補者選定分科会議題要旨
1. 日時
平成28年3月2日(水)午後1時
2. 場所
最高裁判所中会議室(2階)
3. 出席者(敬称略)
委員
永井良三(委員長),五十嵐隆(委員長代理),新井一,岡井崇,髙本眞一,寺本民生,中村耕三,西岡清一郎,吉岡桂輔,渡邉聡明[小川聡及び吉村泰典は欠席]
オブザーバー
本多知成(東京地裁判事),野田恵司(大阪地裁判事)
事務局
菅野雅之(民事局長),福田千恵子(民事局第一課長),餘多分宏聡(民事局第二課長)
4. 議事
(1) 開会の宣言
(2) 委員長互選
委員長の互選により,永井委員長代理が委員長に選任された。
(3) 委員長代理指名
委員長から五十嵐委員が委員長代理に指名された。
(4) 医事関係訴訟事件の状況・医療訴訟連絡協議会等について
ア 平成27年(1月~12月)の医事関係訴訟事件統計について事務局から,平成27年(1月~12月)の医事関係訴訟事件の動向について説明があった。
イ 医療訴訟連絡協議会等の開催結果の報告
事務局から,各地方裁判所において開催されている医療訴訟連絡協議会や医療訴訟ガイダンスなどの,医療の専門家と法曹関係者の意見交換の取組につき,平成27年度の開催結果について,報告があった。
(5) 鑑定人候補者推薦依頼事務の報告
事務局から,本委員会より各学会に対して鑑定人の推薦依頼をした事案について,別添「医事関係訴訟委員会において推薦依頼をした事案の経過一覧表(平成23年以降のもの)」(PDF:128KB)に基づき経過報告があり,また,前回の報告後,本委員会開催日までに推薦依頼をした事案について,別添「推薦依頼のあった事案の概要等」(PDF:181KB)のとおり,推薦依頼先学会が選定された旨の報告があった。
(主な発言)
- 学会から,依頼が重なったことにより推薦を断られたことがあったとのことだが,委員会が発足して15年経過したこともあるのか,学会に対する委員会の趣旨説明が行きわたっていない部分があるのではないか。
(6) 近時の鑑定人候補者推薦依頼事務における問題点について
ア【意見交換】複数鑑定について
まず,事務局から,鑑定の実情について説明があった。具体的には,鑑定の方法には単独鑑定と複数鑑定があり,単独鑑定については,文献や根拠等を踏まえた深い検討が期待でき,裁判所等も鑑定意見を十分に検討することが出来る一方,鑑定人の負担,責任が重すぎるなどのデメリットが指摘されているとの説明がされた。これに対し,複数鑑定には,鑑定人の負担を軽減し,鑑定結果に対する客観性や信頼性を高める点がメリットとしてある一方,複数の鑑定人を選任することが困難であること,鑑定費用が高額となりやすいことがデメリットとして一般的に指摘されているとの説明がされた。さらに,複数鑑定にはカンファレンス鑑定及び複数書面鑑定があるところ,カンファレンス鑑定については,鑑定人の負担がより軽減され,各鑑定人の意見が相違した場合にその場で意見の真意を確認できたりするというメリットがある一方で,カンファレンスの場で当事者・代理人が即座に十分な質問を行うことができないおそれがあるなどのデメリットがあること,これに対し,複数書面鑑定については,カンファレンス鑑定のデメリットを一定程度解消しつつ鑑定の客観性を確保することができるとのメリットがある一方で,鑑定人の負担がカンファレンス鑑定ほど軽減されないおそれがあるなどのデメリットがあると一般的に指摘されているとの説明がされた。その上で,このように鑑定方式にはそれぞれメリット・デメリットがあり,これに加え,鑑定方式については各裁判所とその地域の医療機関等との間の協議の内容等も考慮する必要があることから,各地の実情を踏まえつつ,鑑定方式を検討する必要があることなどについての説明があった。
事務局の説明に加え,東京地裁及び大阪地裁から鑑定方式についての両裁判所の実情等について説明があり,これらの説明を踏まえて複数鑑定について以下のとおり意見交換を行った。
(主な発言)
- 東京地裁でカンファレンス鑑定を経験した代理人弁護士に聞くと,カンファレンス鑑定は,その場の議論を踏まえて鑑定人の意見が変わったり,複数の意見による鑑定結果であることから和解がしやすいということが良い点であるという。もっとも,それを全国の裁判所で実施できるかどうかというと,医療機関側が複数の鑑定人候補者の推薦が可能なのかというインフラの問題等があり,困難であると思う。
- 全ての事案でカンファレンス鑑定をしなければならないものではなく,ケースバイケースで本当に必要と判断された事案のみ実施した方がいいのではないか。例えば,誰かに事案を見てもらった上で,こればカンファレンス鑑定を実施した方がいいということであればそうすべきだと思うが,単独鑑定でよい事案もあると思う。
- 現在の実情として,全国的にカンファレンス鑑定を行うことが難しいという状況は確かに存在する。全国的にカンファレンス鑑定を行っていくために通信インフラをどのように整備するかとなどといった点は,これから先の問題として議論していくべきであると思う。
- 複数鑑定については,地域の状況によってできるところとできないところがあるのは明らかであるから,できるところはやればいいし,できないところは単独鑑定にならざるを得ないだろう。
- 医療の現場においては,白黒の判断がつけられないこともあるし,どのプロセスに問題があったかといった判断は人によっても異なることがあり,激論となることもある。このような問題を取り扱うにもかかわらず,1人の鑑定人による判断とするのは相当ではなく,複数の鑑定人の意見を踏まえるべきである。
- 当事者からしても,複数の鑑定人の意見を踏まえた鑑定結果の方がより信頼できると考え,一人の鑑定人のみだと考え方が偏っている可能性があるとして,単独鑑定では困ると考える場合があるのではないか。
- 本委員会の推薦依頼書を見ていても,一人の鑑定人によって判断されては困るという意識があるのではないかと思うことがある。
- これまで医事関係訴訟を経験する中で,素晴らしい鑑定書が出ると当事者が納得して和解ができた例も随分あった。単独鑑定であるから当事者が納得しないというとこではないと思う。
- 経験を積んだ方が精査されてしっかり書けば,それは素晴らしい鑑定書であって,単独鑑定であっても問題がないと思う。ただ,単独鑑定においていつもそのような鑑定がされるのかという点は問題であり,恒常的に良い水準の鑑定結果が得られるよう,複数鑑定を行うことを考えていくべきであると思う。
- 単独鑑定と複数鑑定のどちらが良いかといえば,複数鑑定の方がよいのではないか。そして,複数鑑定を行う方が良いが,複数の鑑定人候補者を確保することや鑑定費用が高額となることから難しいというのであれば,これらの問題を解決することができる方策を検討するべきである。鑑定料を安くしてもらうようお願いするなど,これらの問題を克服して複数鑑定を可能にする方策はあると思う。
- 複数鑑定を必要としない案件は別として,複数鑑定をするのがベターな案件については,複数鑑定を実現できる方法を探すべきである。
イ【意見交換】医事関係訴訟委員会に鑑定人推薦の依頼があった事案における複数鑑定人の可否について
事務局から,既に鑑定人候補者が1名確保できているにもかかわらず,更に同一分野の鑑定人の推薦依頼がされた事案について説明があり,これを踏まえ,同一の分野について,複数の鑑定人の推薦依頼を頼めることの可否について意見交換を行った。意見交換の結果,本委員会の鑑定人候補者推薦依頼において,分野を同じくする複数の鑑定人の推薦依頼が認められる場合もあり得ることが確認され,その判断については,委員長が学会選定依頼に先立ち複数鑑定人の推薦の可否について判断し,その後の推薦学会選定依頼の際にその判断結果を付記した上で,医師委員からふさわしいと考える推薦依頼先学会の回答をしていただく方法を採ることが確認された。
(主な発言)
- 一つの学会から鑑定人候補者を複数名出すこと自体はそんなに難しいことではないと思う。
- 所属学会では,訴訟については協力しようという態勢になっている。学会の評議員の領域に関する問題は,一人の問題ではなくて,学会に属する全員の問題であるとして,学会としては,必ずやらなければならない問題と受け止めている。
(7) 次回の予定等について
来年度については,原則として本委員会1回のみの開催とすることが確認された。