秘密保持命令の申立てについて

令和5年7月

東京地方裁判所知的財産権部

(民事第29部,第40部,第46部,第47部)

1. 秘密保持命令について

 秘密保持命令は,一方当事者から訴訟で提出される準備書面又は取り調べられる証拠等に営業秘密が含まれる場合に,相手方の当事者本人若しくは代表者,相手方の代理人,使用人その他の従業者又は訴訟代理人若しくは補佐人に対して,当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用し,又は当該営業秘密を秘密保持命令を受けた者以外の者に開示することを禁止するものです。すなわち,営業秘密の保有者が相手方の一定範囲の者に自己の営業秘密を開示する代わりに,営業秘密を開示された者ができる営業秘密の使用,開示範囲を一定範囲に限定させる制度です。この命令は,特許権侵害訴訟等のほか(特許法105条の4),実用新案権侵害訴訟等(実用新案法30条),意匠権侵害訴訟等(意匠法41条),商標権侵害訴訟等(商標法39条),不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟(不正競争防止法10条),家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律所定の不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟(同法11条)及び著作権侵害訴訟等(著作権法114条の6)において,所定の要件の下に発令されます。

 秘密保持命令の違反に対しては,両罰規定を伴う刑事罰の規定が置かれています(特許法200条の2,201条,実用新案法60条の2,61条,意匠法73条の2,74条,商標法81条の2,82条,不正競争防止法21条2項5号,22条,著作権法122条の2,124条)。

 以下,秘密保有者が提出予定である準備書面又は証拠に営業秘密が記載等されている場合を中心に説明します。

2. 申立てについて

(1) 事前協議

ア 必要性

 秘密保持命令の名あて人の中には,開示を受ける営業秘密の内容を理解できる能力のある者が含まれていなければなりません。また,秘密保持命令は,刑事罰の威かくの下に名あて人の将来の行動を強く制約することから,名あて人の選定は慎重に行うのが相当です。そこで,申立ての前に,秘密保持命令の対象となる営業秘密を特定しておくとともに,その命令を受けるべき名あて人として誰が適当なのかなどについて,裁判所と双方当事者との間で十分な事前協議をしておく必要があります。

 事前協議は,命令の名あて人予定者など出席者を絞り込んだ上で,進行協議期日(民事訴訟規則95条)等で行われます。

イ 協議事項

 事前協議における協議事項は,開示すべき主張及び証拠の範囲,相手方の訴訟代理人の中で命令の名あて人となる候補者,相手方の当事者本人又は代表者,使用人その他の従業者等の中で命令の名あて人となる候補者,発令後に名あて人となった相手方従業者等が退職,人事異動した場合の処置等の事後処理などです。

(2) 申立て

ア 申立書の記載事項

(ア) 名あて人

 秘密保持命令申立事件の相手方は,訴訟の相手方である当事者本人又はその代表者,使用人その他の従業者,訴訟代理人等の特定の個人ですから,住民票などに基づき,住所,氏名等を正確に特定してください。

(イ) 営業秘密の特定

 申立書自体に営業秘密を記載してしまうと,秘密保持命令の申立てが却下された場合,相手方が秘密保持義務を負うことなく営業秘密の内容を知り得る状態になってしまいます。したがって,申立書には営業秘密の内容は記載せず,提出予定の準備書面又は証拠の営業秘密の記載箇所等を特定して引用してください。

(ウ) 1号及び2号の事由

 準備書面又は証拠の内容に申立人の保有する営業秘密が含まれること(1号),及びこの営業秘密を訴訟の追行の目的以外の目的で使用され,又は開示されることにより,申立人の事業活動に支障を生ずるおそれがあり,これを防止するためにその使用又は開示を制限する必要があること(2号)を記載してください。

イ 手数料

 申立書1通につき,500円となります(民事訴訟費用等に関する法律3条1項別表第1の17項ホ)。

ウ 申立書提出先

 ビジネス・コート(中目黒庁舎)2階の民事訟廷事務室に提出してください。

エ 添付書類等

(ア) 住民票等の資格証明書類

 上記ア(ア)を参照してください。

(イ)手控え

 迅速な審理のために,申立書の写し4部(裁判官3名及び調査官1名分)と提出予定である準備書面又は証拠(営業秘密記載文書等)の写し3部(裁判官2名及び調査官1名分)の提出をお願いしています。

(ウ) 申立書副本

相手方数に応じた分を提出してください。

3. 審理及び決定について

(1) 審理

 原則として,申立書副本を秘密保持命令申立事件の相手方に送付するとともに,基本事件の当事者への求意見を行い,必要があれば,相手方及び当事者の審尋を行った上で可否の決定をします

(2) 決定

 認容決定は,名あて人に秘密保持命令の正本を交付して送達します。決定書自体には営業秘密記載文書等は添付されていませんので,秘密保持命令の対象となっている営業秘密記載文書等の内容は,決定書送達の際に確認していただくことになります。したがって,名あて人本人が裁判所に出頭することが必要です。

(3) 決定に対する不服申立て

 認容決定に対しては,不服申立てはできません。認容決定の取消しを求める場合には,秘密保持命令の取消申立てをすることになります。

 却下決定については,申立人から即時抗告をすることができるようになっています。

4. 留意事項

(1) 営業秘密記載文書等である準備書面又は証拠の提出

 営業秘密記載文書等である準備書面又は証拠を基本事件の訴訟記録として提出していただくのは,秘密保持命令発令と同時となりますので,その提出時期については,裁判所の指示に従ってください。

 これら営業秘密記載文書等は,原則として,秘密保持命令の名あて人となっている訴訟代理人に交付します。

(2) 閲覧等制限の申立て

 秘密保持命令の効力は,名あて人に対して秘密保持義務を課すことに限られ,準備書面又は証拠が営業秘密記載文書等であるからといって,当然に第三者の閲覧等が制限されるものではありません。

 基本事件に営業秘密記載文書等を準備書面又は証拠として提出等する際には,その提出等と同時に閲覧等制限の申立てをする必要があります。

(3) 営業秘密記載文書等の明示

 秘密保持命令の発令は,営業秘密記載文書等を準備書面又は証拠として提出等しようとする際にされるものですが,その対象は当該営業秘密という情報そのものですから,事後に同一事項が記載等されている準備書面又は証拠が提出等された場合にでも,その営業秘密部分に命令の効力が及ぶことになります。

 したがって,過誤による営業秘密の漏洩の防止のため,事後に訴訟記録として提出等する準備書面又は証拠には,秘密保持命令の対象となっている営業秘密と同一の事項の記載等をすることは避けるように努めてください。そして,どうしてもその記載等が避けられない場合には,それら準備書面又は証拠に秘密保持命令の対象となっている営業秘密と同一の事項が記載等されていることを明示するとともに,当該営業秘密が記載等されている部分とそうでない部分とを混在させないように書面等を作成するなどの工夫をしてください。

 なお,これら準備書面又は証拠についても,改めて閲覧等制限の申立てをする必要があります。

5. 秘密保持命令取消申立て

(1) 申立て

ア 申立ての種類

 [1]発令時に発令の要件を欠いていたことを理由とする,発令に対する不服申立てとしての取消申立てと,[2]発令後に発生した事後的な事情により要件を欠くに至ったことを理由とする,事情変更による取消申立てがあります。

イ 申立書の記載事項

 [1]発令に対する不服申立てとしての取消申立てについては,発令時に発令要件を欠くことを,[2]事情変更による取消申立てについては,発令後に発令要件が消滅したことを記載してください。

ウ 手数料

 申立書1通につき500円となります(民事訴訟費用等に関する法律3条1項別表第1の17項ホ)。

(2) 添付書類等

ア 申立書副本
イ 申立書の写し4部(裁判官3名及び調査官1名分)

(3) 審理及び決定

ア 審尋

 秘密保持命令の名あて人から取消申立てがあった場合には,原則として,審尋がされます。

イ 決定に対する不服申立て

 秘密保持命令取消決定については,秘密保持命令申立人が,秘密保持命令取消申立却下決定については,秘密保持命令取消申立人が,それぞれ即時抗告をすることができます。

6. 申立ての趣旨記載例

以上

 「相手方らは,別紙営業秘密目録記載の営業秘密を,当庁平成○○年(ワ)第○○○○号事件の追行の目的以外の目的で使用し,又は本申立てに基づく命令と同内容の命令を受けた者以外の者に開示してはならない。」

「(別紙)営業秘密目録

1 平成○年○月○日付け被告準備書面(○)
(1) ○頁○行目から○頁○行目まで
(2) 別紙1

2 乙○号証(平成○年○月○日付け○○○○作成の○○○○に関する資料)
(1) ○頁○行目から○頁○行目まで
(2) ○頁の図1及び図2
(3) ○頁の表3(ただし,○○○○に関する部分を除く。)

3 乙○号証(平成○年○月○日付け○○○○作成の○○○○に関する資料)
別添4(表紙を含まない。)

4 ・・・ 」

 「相手方らは,別紙営業秘密目録記載の営業秘密を,当庁平成○○年(ワ)第○○○○号事件の追行の目的以外の目的で使用し,又は本申立てに基づく命令と同内容の命令を受けた者以外の者に開示してはならない。」

「(別紙)営業秘密目録

 次の文書の表紙(1枚)から数えて○枚目○行目から○枚目○行目に記載された○○○○に関する試験結果報告部分

 標  題 ○○○○に関する検査結果
 作成日付 平成○年○月○日付け
 作 成 者 ○○○○及び○○○○
 体  裁 A4版○○枚上質紙(図○枚,表○枚を含む。)

・・・ 」

  1. 裁判手続きを利用する方へ
    1. 窓口案内
    2. 民事訟廷事務室事件係からのお知らせ
      1. 1(1)東京地方裁判所への民事訴訟事件又は行政訴訟事件の訴え提起における郵便切手の予納額について
      2. 1(2)東京高等裁判所(知的財産高等裁判所を含む。)への控訴提起における郵便切手の予納額について
      3. 2(1)郵便料の現金予納等のお願い
      4. 2(3)控訴事件等について保管金による郵便料の納付を希望される方へ
    3. 民事事件記録の閲覧・謄写の御案内
    4. 民事第9部(保全部)紹介
      1. 民事第9部の概要
      2. 保全事件の申立て
      3. 仮差押債権目録等の記載例について(郵政民営化に伴うもの)
      4. JA貯金について
      5. 保全事件の発令まで
      6. 執行取消し(取下げ等)
      7. 担保取消しの手続
      8. 担保の簡易の取戻しの手続
      9. 解放金の取戻し
      10. 不服の申立て等(保全異議,保全取消し,保全抗告)
      11. その他の手続
      12. 旧ドメスティックバイオレンス(DV)(配偶者暴力等に関する保護命令申立て)
      13. ドメスティックバイオレンス(DV)(配偶者暴力等に関する保護命令申立て)
      14. 発信者情報開示命令申立て
      15. 閲覧・謄写
      16. 強制執行停止事件の流れ(申立てから発令まで)
    5. 労働審判手続の迅速・適正な進行へのご協力のお願い
      1. 注意書
    6. 民事第21部(民事執行センター・インフォメーション21)
      1. 書式一覧マップ
      2. 民事執行センター案内
      3. 執行事件記録の閲覧謄写申請に際してのご注意
      4. 執行官室(執行部)からのお知らせ
      5. 最寄りの郵便局
      6. 執行手続・書式等のご案内【不動産執行手続】
      7. 申立債権者の方へ
      8. 不動産競売事件(担保不動産競売,強制競売)の申立てについて
      9. 当事者目録(不動産競売事件)の書き方
      10. 担保権,被担保債権・請求債権目録(担保不動産競売)の書き方
      11. 請求債権目録(強制競売用)の書き方
      12. 物件目録の書き方
      13. 強制競売等における続行決定申請について
      14. 競売申立時の代位登記について
      15. 一部代位弁済により移転した(根)抵当権に基づく競売申し立てについて
      16. 照会書の提出について
      17. 自動車強制競売の申立てについて
      18. 当事者目録(自動車強制競売)の書き方
      19. 請求債権目録(自動車強制競売)の書き方
      20. 代理人許可申立について
      21. 物件明細係の扱う事務について
      22. 売却係の扱う事務について
      23. 無剰余取消しを回避する方法について
      24. 地代代払許可の申立方法について
      25. 担保不動産競売(強制競売)事件の取下げについて
      26. 配当金等の支払・予納金の還付手続について
      27. 配当見込額FAX照会,配当金等支払請求書の郵便提出及び配当表等写しの請求について
      28. 配当金等支払請求書記載上の注意事項等
      29. 保全処分,執行異議の申立てについて
      30. 申立債権者以外の債権者の方へ
      31. 債権届出について
      32. 債務者(所有者)の方へ
      33. 執行抗告,執行異議の申立てについて
      34. 買受人(買受希望者)の方へ
      35. 入札保証金の還付手続について
      36. 特別売却による買受けの申出手続について
      37. 売却代金の口座振込みの利用について
      38. 民事執行法82条2項による登記嘱託書交付手続の申出をされる方へ
      39. 不動産引渡命令の申立てについて
      40. 物件明細書に記載されていない者を相手方とする引渡命令の申立てについて
      41. 引渡命令の申立てから強制執行の申立てまでの手続の流れ
      42. 引渡命令に対する執行文付与,送達証明申請について
      43. 開始手続(担当:不動産開始係)
      44. 物件明細手続(担当:物件明細係)
      45. 不動産売却手続,不動産競売事件取下手続(担当:売却・取下係)
      46. 売却手続(担当:売却係)
      47. 不動産配当手続(担当:不動産配当係)
      48. 引渡命令,保全処分,執行異議の申立て
      49. 担保不動産収益執行手続
      50. 執行手続・書式等のご案内【債権執行手続】
      51. 債権受付係
      52. 申立債権者の方へ
      53. 申立債権者以外の債権者の方へ
      54. 債務者(所有者)の方へ
      55. 第三債務者の方へ
      56. 債権差押命令の申立てをされる方へ
      57. 債務名義に基づく差押え
      58. 債務名義に基づく差押え(扶養義務に基づく定期金債権関係)
      59. 抵当権に基づく賃料差押え
      60. 債権換価係
      61. 当事者目録について
      62. 債権配当係
      63. 配当異議の申出をする方法
      64. 配当異議訴訟終了後の手続
      65. 仮差押債権者の配当金受領方法
      66. 事情届の不受理申請の方法
      67. 債務者の供託金の支払委託
      68. 財産開示手続
      69. 雇用関係先取特権証明文書
      70. インターネットによる3点セット提供(BITシステム)について
      71. よくある質問(FAQ)
      72. 競売不動産の買受手続
      73. 債権執行に関する申立ての書式一覧表
      74. 第三者からの情報取得手続
      75. 民事執行センターからのお知らせ
      76. 取立てをした方・取下げをする方へ
      77. 執行手続・書式等のご案内【代替執行係の手続】
    7. 民事第22部(調停・借地非訟・建築部)
    8. 借地非訟事件について
      1. 第1 借地非訟とは
      2. 第2 借地非訟事件手続の流れ
      3. 第3 費用
    9. 借地非訟事件(書式例)
    10. 民事第22部建築訴訟事件について
    11. 共有に関する事件(非訟事件手続法第三編第一章)、土地等の管理に関する事件(非訟事件手続法第三編第二章)
    12. 民事第27部(交通部)
    13. 東京地方裁判所(民事部)
    14. 担当裁判官一覧
      1. 東京地方裁判所(刑事部)担当裁判官一覧
      2. 東京地方裁判所(民事部)担当裁判官一覧
      3. 東京地方裁判所立川支部 担当裁判官一覧
      4. 管内の簡易裁判所(東京簡易裁判所を除く)担当裁判官一覧
    15. 庁舎案内図
    16. 保管金の電子納付について
    17. 東京家庭・簡易裁判所合同庁舎改修工事に伴う駐車場の利用について
    18. 民事第29部、第40部、第46部、第47部(知的財産権部)
      1. 取扱事件
      2. 管轄
      3. 訴額の算定基準
      4. 書類及び電子データの提出について
      5. 保全命令の申立て
      6. 知財調停手続の運用について
      7. 特許権侵害訴訟の審理要領
      8. 損害賠償等に関する審理について
      9. 閲覧制限等の申立てについて
      10. 秘密保持命令の申立てについて
      11. 営業秘密に関する当事者尋問等の公開停止について
      12. 査証手続の運用に関するQ&A
      13. 書式例
      14. 和解条項例
      15. 窓口・担当部
    19. 民事第20部(倒産部)
      1. 証明申請等の書式例
      2. よくある質問
    20. 民事第8部(商事部)
      1. 会社訴訟チェックリスト
      2. 商事保全事件チェックリスト
      3. 非訟・過料係からのお知らせ
      4. 商事保全命令申立事件における処理手続概要図
      5. よくある質問(Q&A)
      6. 商事保全事件申立書類一覧
      7. 担保取消申立てに必要な書類一覧