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1 査証制度の概要
2 査証の申立て
3 査証命令
4 査証人の選任
5 査証の実施
6 査証報告書
7 その他
以下,令和元年改正による特許法を「法」と,特許法による査証の手続等に関する規則(令和2年最高裁判所規則第7号)を「規則」という。
1 査証制度の概要
- 査証制度とはどのような制度ですか。
- 査証制度は,新たな証拠収集手続であり,当事者の申立てを受けて,裁判所が中立的な専門家に対して証拠の収集を命じ,中立的な専門家はこれを受けて,被疑侵害者が侵害物品を製造している工場等に立ち入り,証拠となるべき書類等に関する質問や提示要求をするほか,製造機械の作動,計測,実験等を行い,その結果を報告書としてまとめて裁判所に提出し,後に申立人(以下「査証申立人」ということがある。)が書証としてこれを利用する制度です。この制度は,令和元年特許法改正(令和元年5月17日法律第3号)によって設けられました。
2 査証の申立て
- 査証の申立ては,訴え提起前でもすることができますか。
- 査証の申立ては,訴えを提起した後に行うことができるものであり,訴え提起前に申し立てることはできません。
- 査証手続は,特許権以外の権利侵害についても利用することができますか。
- 査証手続に関する特許法の規定は,商標法,著作権法等においては準用されていませんので,商標権や著作権の侵害に係る訴訟等において利用することはできません。
- 査証の申立書にはどのような事項を記載することが必要ですか。
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(1) 必要的記載事項
査証の申立書には,申立ての趣旨のほか,(a)特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められるべき事由(蓋然性の要件。法105条の2第2項1号),(b)査証の対象とすべき書類等を特定するに足りる事項及び書類等の所在地(同項2号),(c)立証されるべき事実及びこれと査証により得られる証拠との関係(同項3号),(d)査証人が行うべき措置の内容(規則1条1項参照),(e)申立人が自ら又は他の手段によっては,上記(c)に規定する証拠の収集を行うことができない理由(補充性の要件。法105条の2第2項4号),(f)その他査証のために必要な措置について裁判所の許可を受けようとする場合にあっては,当該許可に係る措置及びその必要性(同項5号),(g)執行官の援助命令を求める場合(法105条の2の2第3項)は,援助を求める事務の内容,及び,援助を必要とする理由(規則2条2項)を記載することが必要です。
なお,査証命令の発令要件のうち必要性の要件については,上記(c)の立証されるべき事実及びこれと査証により得られる証拠との関係において,自ずと示されるものと考えられます。また,上記(d)の査証人が行うべき措置の内容の記載に当たっては,査証を求める事項(査証人が相手方の書類等について調査して明らかにすべき事項)を明らかにして記載する必要があります(規則1条2項)。
上記(g)の執行官の援助命令の申立て(法105条の2の2第3項)は,期日においてする場合を除き,書面でしなければならず(規則2条1項),査証命令の申立て後にすることも可能です。
(2) 任意的記載事項
上記(1)の必要的記載事項のほか,査証の申立書には,(h)相当性の要件に関する事情,(i)査証を実施する専門家に関する要望事項(専門分野,職種等),(j)査証の具体的な実施方法の提案,特に,装置の実験等の措置を求める場合にはその手順,方法等に関する事項などを記載することが考えられます。
- 「相手方が所持し,又は管理する書類又は装置その他の物(書類等)」(法105条の2第1項)はどのように記載すべきですか。
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(1) 書類等
査証の対象となる書類等については,例えば,「相手方工場(○○県○○市○○番地)所在の相手方製品Aの製造工程に係るマニュアル,作業工程表及びこれに関連する書類等(電磁的記録を含む。)」,「相手方工場(○○県○○市○○番地)所在の相手方製品の製造工程における溶液の種類・組成,噴霧乾燥の温度の制御,管理,記載等に係る書類等(電磁的記録を含む。)」などと記載することが考えられます。
(2) 装置
査証の対象となる装置については,例えば,「相手方工場(○○県○○市○○番地)所在の相手方製品Aを製造する装置及び付属設備一式」,「相手方工場(○○県○○市○○番地)所在の相手方製品Aの製造工程においてガラス容器の洗浄を行う装置及びこれに付属する設備一式」などと記載することが考えられます。
- 査証申立書において,査証の申立てに係る措置の内容(規則1条1項)はどのように記載すべきですか。
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(1) 査証人の権限
法105条の2の4第2項は,査証人は,査証をするに際し,査証を受ける当事者の工場等に立ち入り,又は査証を受ける当事者に対して質問をし,若しくは書類等の提示を求めることができるほか,装置の作動,計測,実験その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置をとることができると規定しています。また,法105条の2第1項は,「相手方が所持し,又は管理する書類又は装置その他の物(以下「書類等」という。)について,確認,作動,計測,実験その他の措置をとることによる証拠の収集が必要であると認められる場合において,…査証人に対し,査証を命ずることができる。」と規定し,「確認」をすることもできることが前提とされています。
上記各規定によれば,査証人は,(a)査証の対象とすべき書類等が所在する査証を受ける当事者の工場,事務所その他の場所に立ち入り,査証を受ける当事者に対する質問をし,書類等の提示を求めること,(b)書類の確認並びに装置の確認,作動,計測及び実験を行うこと,(c)その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置をとることができることとなります。
こうした査証人の権限のうち,上記(a)は,立証事項のいかんにかかわらず,査証人が行うこととなる措置であるのに対し,上記(b)及び(c)は事案に応じて査証人が採り得る措置です。
(2) 査証の申立てに係る措置の特定
査証人は,査証命令に基づいて査証を実施し,査証人が,査証の対象とすべき書類等について,確認,作動,計測,実験,その他の措置のうちいかなる措置をとることができるかは査証命令で定められておく必要があるところ,裁判所がこれを定めるためには,査証の対象とすべき書類等について,申立人が査証人に求める措置の内容が申立書において明らかにされていることが必要となります。そのため,査証人が行うべき措置(上記(1)(b))に関し,規則1条1項は,査証の申立書には「申立てに係る措置」の内容を記載しなければならないものとしています(なお,上記(1)(a)の措置は,事案を問わず査証人が行うことのできる措置であることから,査証の申立書の「申立てに係る措置」として記載をする必要はなく,上記(1)(c)の措置は,法105条の2第2項5号により記載をすることが必要になります。)。
また,査証人が相手方の書類等について調査して明らかにすべき事項が特定されていなければ,査証人が行うべき措置の内容も明らかにならないことから,規則1条2項は,同条1項の査証の申立てに係る措置の内容の記載は,「査証を求める事項」を明らかにしてしなければならない旨規定しています。
例えば,製品の製造工程に設置された装置Aの洗浄液に含まれる化学物質の種類が争点となっている事案において,「立証されるべき事実」が「装置Aの洗浄工程において使用される洗浄液に化学物質Bが含まれていること」であれば,「査証を求める事項」は「装置Aの洗浄工程において使用される洗浄液に含まれる化学物質の種類を確認すること」となります。そうすると,査証の申立てに係る措置としては,単に「確認」,「計測」などと記載するのではなく,「装置Aの洗浄工程で使用される洗浄液に含まれる化学物質の確認及びその確認に必要な実験」などと記載することとなると考えられます。
なお,裁判所の許可を要する措置については,当該許可に係る措置に加え,その必要性も記載する必要があります(法105条の2第2項5号)。
- 査証申立書の記載例はありますか。
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査証申立書の記載例については,下記【事例1】に関する別紙1-1(PDF:189KB),下記【事例2】に関する別紙1-2(PDF:189KB)をご参照ください。
【事例1】
原告は,構成要件A~Dとして規定された各工程を順に経ることにより製品を製造する方法に関する特許に基づき,特許権侵害訴訟を提起した。被告は,自らの工場で当該製品を製造していること,構成要件A及びDの各工程を経ていることは認めるものの,順に,工程A,工程C,工程E,工程Dとの工程で製造しているので,当該特許を侵害していないと主張している。
【事例2】
原告は,構成要件として,ガラス容器の製造工程で得たガラス容器の内表面を化学物質Pを含む水溶液から成る洗浄液で洗浄する洗浄工程を含み,洗浄工程における洗浄液の噴霧圧が0.08MPa以上に制御されることを特徴とするガラス容器の製造方法に関する特許に基づき,特許権侵害訴訟を提起した。被告は,被告の所有・管理する工場においてガラス容器が製造されていることは認めるものの,その製造主体は被告ではなく,かつ,洗浄液には化学物質Pは含まれず,洗浄液の噴霧圧は0.05MPa以下であると主張している。なお,原告は,訴えの提起前及び提起後において,任意に被告製品の製造方法を確認することを提案したが,被告はこれを拒絶した。
- 査証の申立てがされた後,発令前に,任意の証拠開示のため,あるいは査証を効率的かつ円滑に行うための協議が行われることはありますか。
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査証の申立てがされると,裁判所としては,申立要件の充足性について検討することになりますが,実務的には,いきなり査証命令を発するのではなく,まずは,任意の証拠開示が可能かどうかについて,裁判所と両当事者間で協議をすることが考えられます。
例えば,申立人が,侵害装置を市場から購入することが困難であるとして,相手方の工場に設置された当該装置の作動状況や製造方法の確認等を求める場合,裁判所と両当事者間で協議を行い,そこで装置の作動状況や製造方法の確認等について相手方の受ける不利益を最小限とする方法について話し合い,具体的な方法について両当事者の同意を得るとともに,申立代理人の立会いについて相手方代理人の同意を得た上で,査証の実施に当たっては,当該方法により上記の確認等を行うという進め方も考えられます。
また,裁判所が査証命令の要件を満たすと考える場合に,当該命令を発出する前に,両当事者から査証を実施する専門家についての要望を聴取し,あるいは査証の実施方法について協議を行うことも考えられます。
3 査証命令
- 訴訟の当事者以外の第三者に対する査証は認められますか。
- 査証は,「相手方が所持し,又は管理する書類又は装置その他の物」を対象とするものですので(法105条の2第1項),相手方当事者以外の第三者が「所持し,又は管理する書類又は装置その他の物」に対して査証命令を発することはできません。
- 査証命令に対して不服申立てをすることができますか。
- 査証の申立てについての決定に対しては,即時抗告をすることができます(法105条の2第4項)。査証の申立てについては,全部又は一部が認容され,又は却下されることが考えられますので,その判断内容に応じ,相手方のみならず申立人も即時抗告の申立てをすることができます。
- 査証命令が発令された後に取り消すことはできますか。
- 裁判所は,査証命令の発令をした後において,査証を受けるべき当事者の負担が不相当なものになることその他の事情により査証をすることが相当でないと認められるに至ったときは,その命令を取り消すことができます(法105条の2第3項)。
4 査証人の選任
- 査証を実施する査証人としては,どのような専門家が想定されていますか。
- 査証手続を実施する主体となる専門家は,相手方の工場等に立ち入り,対象となる装置や書類の確認等をすることになりますが,相手方の幅広い営業秘密等に接する可能性があることや,調査の結果が訴訟の帰趨に影響を与える可能性があることから,中立公正な第三者を裁判所が指定することとしています。専門家の属性については特に制限はありませんが,査証手続に係る専門分野,要証事実,査証手続の内容等を考慮しつつ,事案ごとに,弁護士,弁理士,学識経験者等から指定することが想定されています。
- 査証人は,どのようにして選任されますか。
- 査証人は裁判所が指定します(法105条の2の2第2項)。裁判所は,事案の内容や性質に応じ,弁護士,弁理士,学識経験者等から適任と考えられる候補者を選び,両当事者にその氏名,属性等を示し,利害関係の有無について照会し,利害関係のない方から選任することとなります。
- 査証人を忌避することはできますか。
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専門家の中立公正性を確保する観点から,当事者は,裁判所が指定した査証人について忌避の申立てをすることができます。すなわち,法105条の2の3第1項は,査証人について誠実に査証をすることを妨げるべき事情があるときは,当事者は,その査証人を忌避することができると規定しており,忌避の申立てを却下する決定に対しては即時抗告をすることができます(同条第2項,民訴法214条4項)。
忌避の申立ての時期について,鑑定人が鑑定事項について陳述する前であることが原則ですが,例外的に陳述後の忌避の申立てが認められています(民訴法214条1項後段)。査証人についても,同様の規定(法105条の2の3第1項後段)が設けられています。
忌避の申立ての方式に関し,規則3条1項は,期日においてする場合を除いて,書面で行わなければならないと定め,また,同条2項は,忌避の原因を疎明しなければならないと規定しています。
5 査証の実施
- 査証命令の発令後,査証人が,査証の実施方法等について,裁判所や当事者と打合せをすることはありますか。
- 規則4条は,裁判所は,口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日,書面による準備手続又は進行協議期日において,査証の実施に必要な事項につき,当事者,査証人及び執行官(援助命令が発出された場合)と協議をすることができると規定しています。実際上,査証は,相手方の工場等において申立人側の立会いなく実施されることから,査証人が査証を円滑に実施し,適切な査証報告書を作成するためには,裁判所,当事者,査証人及び援助命令を受けた執行官が,事前に査証の具体的な実施方法,順序などについて協議するなどの事前準備をすることが重要となりますので,査証を受ける当事者の営業秘密への配慮が特に必要な場合などを除いては,裁判官,当事者,査証人及び執行官による打合せの機会が設けられることもあり得ると思われます。計算鑑定手続においては,計算鑑定人も参加する協議において,申立人側が,計算鑑定人に対して留意点や要望を伝えることがありますが,査証手続においても,査証申立人に同様の機会が設けられることも考えられます。
- 査証人は,どのようにして査証を実施しますか。
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査証人は,査証命令に基づいて査証を実施することになりますが,査証人の権限に関し,法105条の2の4第2項は,査証人は,査証をするに際し,査証の対象とすべき書類等が所在する査証を受ける当事者の工場,事務所その他の場所に立ち入り,又は査証を受ける当事者に対し,質問をし,若しくは書類等の提示を求めることができるほか,装置の作動,計測,実験その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置をとることができると規定しています。上記のうち,「装置の作動」としては,被疑侵害物品を製造する機械を実際に作動させることなどが,「計測」としては,被疑侵害工程における中間生成物の形状,硬度,濃度,光度,臭気を測定することなどが,「実験」としては,被疑侵害工程における中間生成物の成分分析,安全性試験などが考えられます。
実務上は,裁判所,両当事者の訴訟代理人,査証人等の間で,査証を行う日時,方法等について打合せを行った上で,査証の際は,査証を受ける当事者の代理人や担当者等が査証人に対して適宜説明を行い,これに対して,査証人が,必要に応じ,質問をしたり,関係する書類等の提示を求めたりすることになると考えられます。その際,査証を受ける当事者は査証人に必要な協力をしなければなりません(法105条の2の4第4項)。
- 申立人及び申立代理人は査証人による査証に立ち会うことができますか。
- 改正法には申立人や申立代理人が査証に立ち会うことを認める規定はありません。
- 相手方及び相手方代理人は査証人による査証に立ち会うことができますか。
- 相手方及び相手方代理人は,査証人による査証に立ち会うことができます。また,相手方が証拠収集に関して利害関係を有する第三者を立ち会わせることを希望する場合には,裁判所がその立会いの可否を判断することになります。
- 査証に当たり,執行官の援助を求めることができるのはどのような場合ですか。
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(1) 執行官による援助
裁判所は,査証を受ける者の反対が強く,査証人のみでは円滑に査証をすることが困難な場合など,円滑に査証をするために必要と認められるときは,当事者の申立てにより,執行官に対し,査証人が査証をするに際して必要な援助をすることを命ずることができます(法105条の2の2第3項)。そして,執行官は,必要な援助をするに際し,査証を受ける当事者の工場等に立ち入り,又は査証を受ける当事者に対し,査証人を補助するため,質問をし,若しくは書類等の提示を求めることができます(法105条の2の4第3項)。この場合,査証を受ける当事者は,執行官に対し,査証に必要な協力をしなければなりません(同条第4項)。
(2) 執行官援助の申立て等
規則2条1項は,執行官援助の申立ては,期日においてする場合を除き,書面によらなければならないことと規定しています。また,同条2項は,裁判所が執行官援助の申立ての当否を適切に判断できるように,当事者は,執行官援助の申立てをするときは,援助を求める事務の内容及び援助を必要とする理由を明らかにしなければならないと定めています。
(3) 執行官の権限
執行官は,上記のとおり,査証を受ける当事者の工場等に立ち入り,又は査証人を補助するために質問や書類の提示等を求めることができるものの,査証人が行う装置の作動,計測,実験等の措置についての補助は執行官の権限に含まれていません(法105条の2の4第3項)。また,査証の手続については,民事執行法6条や同法57条3項に類する規定,すなわち,査証を受ける当事者が工場等への立入りを拒絶した場合に,執行官が抵抗を排除するために威力を用い,又は警察上の援助を求めたり,閉鎖した戸を開くための必要な処分をすることを認める規定はありません。
- 査証を受ける当事者が査証に応じない場合の効果について説明して下さい。
- 査証を受ける当事者が,正当な理由なく査証に応じないときは,裁判所は,立証されるべき事実に関する申立人の主張を真実と認めることができます(法105条の2の5)。
6 査証報告書
- 査証人が査証報告書を裁判所に提出した後の手続はどのようなものですか。
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裁判所は,査証報告書が提出されると,査証を受けた当事者に当該報告書の写しを送達しなければなりません(法105条の2の6第1項)。
そして,査証報告書の写しの送達後2週間以内に不開示申立てがない場合には,査証の申立人は査証報告書の閲覧等をすることができます(法105条の2の7第1項,105条の2の6第2項)。
- 査証報告書の全部又は一部を不開示にするためには,どのような手続をとることができますか。
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(1) 査証報告書の不開示申立て
査証を受けた当事者が,査証報告書の全部又は一部について,営業秘密が記載されているなどの理由から,その不開示を求める場合には,査証報告書の写しの送達を受けた日から2週間以内に,査証報告書の全部又は一部を査証申立人に開示しない旨の申立て(以下「不開示申立て」という。)をすることができます(法105条の2の6第2項)。
(2) 不開示部分の特定
査証報告書の記載内容又はその添付資料は様々であり,そこに含まれる営業秘密の保護の必要性の程度も様々ですので,査証を受けた当事者が不開示申立てをする場合には,不開示とする対象を単に「査証報告書の全部」などとすることなく,同報告書のうち不開示とすることを求める部分を精査した上で,その範囲を特定することが必要となります(規則7条1項)。
(3) 開示しないことについての正当な理由の記載
不開示申立書には,開示しないことについての正当な理由(例えば,営業秘密に該当すると主張する場合にはその理由等)を記載することが必要です(規則7条3項)。ただし,後記(4)のとおり,不開示申立書等が査証申立人に直送されることから,同申立書における「正当な理由」の記載は,査証報告書の内容の詳細や営業秘密を開示しない限度での抽象的な記載にとどめるよう留意してください(別紙2(PDF:117KB)の記載例参照)。
(4) 不開示申立書の送付等
査証を受けた当事者が,査証報告書の不開示申立てをするときは,査証報告書の写しから開示しないこととすべき部分を除いた文書等を作成し,不開示申立書に添付した上で(規則7条2項),同申立書及び上記文書等を査証申立人に直送することが必要となります(同条4項)。
不開示申立書等の送付を受けた査証申立人が,同申立てについて意見があるときは,同申立書に対する意見を記載した書面を裁判所に提出しなければなりません(規則7条5項)。また,査証申立人が提出した意見書についても,不開示申立てをした相手方に直送することが必要となります。
- 不開示申立ての一部が認容された場合の手続はどのようになりますか。
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不開示申立てに対する裁判所の判断としては,(a)不開示申立てを全部認容する場合,(b)全部却下する場合,(c)不開示が申し立てられた部分の一部について不開示を認める場合があり得ます(法105条の2の6第5項参照)。
査証報告書の一部を開示しないこととする決定が確定したときは,不開示申立てをした当事者は,遅滞なく,査証報告書の写しから当該決定に係る不開示部分を除いた文書等を作成し,裁判所に提出する必要があります(規則7条6項本文。破産規則11条5項等と同旨の規定)。ただし,不開示決定に係る不開示部分と不開示申立ての際に提出した査証報告書の不開示部分が同一である場合は,改めて提出することは不要であるとされています(規則7条6項ただし書)。
- 査証報告書の開示・不開示の判断に当たり,申立代理人又は申立人等に対して同報告書を開示し,意見を聴取することはありますか。
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裁判所は,「正当な理由」があるかどうかの判断に当たり,査証報告書の全部又は一部を開示して意見を聴くことが必要である場合には,当事者,使用人その他の従業者等(法105条3項の「当事者等」をいう。),訴訟代理人,補佐人又は専門委員に対して,その報告書の全部又は一部を開示することができます(法105条の2の6第4項本文)。ただし,訴訟代理人を除く,当事者等,補佐人又は専門委員に対して開示する場合には,あらかじめ査証を受けた当事者の同意を得ることが必要となります(同項ただし書)。査証申立人の訴訟代理人に対する査証報告書の全部又は一部の開示については,査証を受けた当事者の同意は不要です。
査証報告書の全部又は一部が開示された査証申立人の訴訟代理人が「正当な理由」の存否についての意見を記載した書面を裁判所に提出する場合には,査証報告書の内容を具体的に記載することがないように注意することが必要です。
- 査証報告書の不開示申立てに対する裁判所の判断に対し,不服申立てをすることができますか。
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法105条の2の6第5項は,(a)不開示申立てを却下する決定,(b)査証報告書の全部を開示しないこととする決定,(c)同報告書の一部を開示しないこととする決定に対して即時抗告をすることができると規定しています。
同項により即時抗告をできるのは,上記(a)の場合は不開示申立ての申立人(被告),上記(b)の場合は,不開示申立ての相手方(原告),上記(c)の場合は,両当事者となります。
- 申立人が開示を受けた査証報告書を証拠として提出するにはどのようにしたらよいのですか。
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法105条の2の7第1項は,不開示申立てがされなかった場合及び同申立てについての裁判が確定したときは,申立人及び査証を受けた当事者は,査証報告書(ただし,開示が認められた部分)の閲覧,謄写等を請求することができると規定しています。
鑑定の場合には,鑑定人によって作成された鑑定書は,口頭弁論期日において顕出されることにより,裁判所がこれを証拠資料として判決の基礎に用いることができますが,査証報告書については,これを法105条の2の7第1項に従って閲覧・謄写等した上で,改めて書証として提出することを要することになります。
通常は,申立人は,査証報告書(一部不開示の場合にあっては査証報告書の写しから不開示部分を除いたもの)を謄写し,謄写した写しを原本に代えて提出する方法により書証の申出をすることになると考えられます。この方法による場合,全部開示のときは,証拠説明書の文書の標目欄には「査証報告書(写し)」と,文書の作成者欄には査証報告書の作成者である「査証人○○」と記載し,一部不開示のときは,文書の標目欄には「不開示部分をマスキングした査証報告書(写し)」などと記載し,文書の作成者欄には,査証報告書の写しから不開示部分を除いたものの作成者である不開示申立てをした当事者又はその代理人の氏名を記載することになると考えられます。
- 査証報告書の閲覧・謄写の請求はどのようにして行えばよいですか。
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(1) 請求の主体
法105条の2の7第1項において,申立人及び査証を受けた当事者のみが,裁判所書記官に対し,査証報告書の閲覧等を請求することができる旨が規定されています。具体的には,(a)査証報告書の写しの送達を受けた日から2週間以内に,査証を受けた当事者から報告書の不開示申立てがなかったとき,又は,(b)査証報告書の不開示申立てについての裁判が確定したときには,査証の申立人又は査証を受けた当事者は,裁判所書記官に対し,全部不開示の場合を除いて,査証報告書(一部不開示とされた場合は,不開示部分を除くもの)の閲覧等を請求することができます。
(2) 民訴法91条4項及び5項の準用
民訴法91条4項は,訴訟記録中の録音テープ又はビデオテープ等に関する閲覧等の特則であり,当事者又は利害関係を疎明した第三者の請求があるときは,裁判所書記官はその複製を許さなければならないと定めています。また,同条5項は,「訴訟記録の閲覧,謄写及び複製の請求は,訴訟記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは,することができない」と規定しています。
査証報告書についても,その一部に録音テープやビデオテープ等が含まれる可能性があり,また,濫用的な閲覧,謄写及び複製請求の弊害を防止することが必要であることから,法105条の2の7第3項は,必要な読替えをした上で,民訴法91条4項及び5項の規定を準用しています。
(3) 閲覧等の方式
法105条の2の7第3項は,査証報告書の閲覧等について,民訴法91条4項及び5項(訴訟記録の閲覧等に関する規定)を準用しているところ,規則8条1項は,査証報告書の閲覧等の請求は書面でしなければならないと規定しています。
また,規則8条2項は,同7条2項又は6項本文により作成された文書等が提出された場合には,査証報告書についての閲覧,謄写又は複製は,その提出された文書等によってさせることができる旨規定しています。これは,不開示部分を除いた文書等は,元の査証報告書とは別のものであるので,その取扱いを明確にするため,確認的にこれによって閲覧等をさせることができる旨を規定したものです。
7 その他
- 査証手続に関する費用の負担について説明して下さい。
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法105条の2の9は,査証人に関する旅費,日当及び宿泊料並びに査証料及び査証に必要な費用については,その性質に反しない限り,民事訴訟費用等に関する法律の規定によるとしています。したがって,査証手続に係る費用のうち,同条に列挙された費用(査証人の旅費,日当,宿泊料,査証料,査証に必要な費用)については,訴訟費用の一部となります。
他方で,査証に伴い査証を受けた当事者に発生する費用(サンプルの提供に係る費用等)については,鑑定や検証の場合と同様,査証を受けた当事者の負担となり,査証を受けることにより相手方に不相当な負担が見込まれるときには相当性の要件を充足するかどうかという観点から,発令の要件として考慮されることとなります。
また,執行官の援助を受けた場合の執行官の手数料や費用についても当事者が負担すべき訴訟費用になります(民訴費用法2条2号)。
- 新法はいつから施行になりますか。また,新法施行時点に係属中の事件については適用されますか。
- 新法自体は,令和2年4月1日に施行されましたが,査証手続については,同年10月1日に施行されます。査証手続について他に経過措置は設けられていませんので,係属中の事件であっても,施行日以降であれば新法に基づいて査証の申立てができることとなります。