令和5年7月
東京地方裁判所知的財産権部
(民事第29部、第40部、第46部、第47部)
知的財産権に関する訴訟及び保全命令事件の管轄については、特別な規定が設けられています。ここでは、東京地方裁判所が管轄を有する場合及び東京地方裁判所が第一審の審理を行った知的財産権に関する訴訟の控訴審の管轄裁判所などについて説明します。
第1 知的財産権に関する訴訟の管轄について
1. 特許権等に関する訴えの専属管轄
(ア)特許権、(イ)実用新案権、(ウ)回路配置利用権、又は、(エ)プログラム著作権に関する訴えのうち、民事訴訟法の管轄の原則規定(民事訴訟法4条、5条)によれば東日本の地方裁判所(東京、名古屋、仙台又は札幌の各高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所)に管轄権がある場合については、東京地方裁判所が専属管轄を有するので(民事訴訟法6条1項)、東京地方裁判所に訴えを提起してください。
※「特許権等に関する訴え」の例
- 特許権者から権利侵害者に対する、侵害行為の差止め及び侵害を組成した物の廃棄を請求する訴訟
- 特許権者から権利侵害者に対する、侵害行為により受けた損害の賠償を請求する訴訟
- 権利侵害者であると主張された者から特許権者に対する、特許権の侵害による差止請求権や損害賠償請求権の不存在確認請求訴訟
- 職務発明者から使用者に対する、職務発明の相当の対価を請求する訴訟
2. 意匠権等に関する訴えの競合管轄
(ア)意匠権、(イ)商標権、(ウ)著作者の権利(プログラム著作権を除く。)、(エ)出版権、(オ)著作隣接権、若しくは、(カ)育成者権に関する訴え、(キ)不正競争防止法2条1項に規定する不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴え、又は、(ク)家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律2条3項に規定する不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴えのうち、東日本の地方裁判所が管轄権を有する場合については、当事者の選択により、その地方裁判所のほかに、東京地方裁判所にも訴えを提起することができます(民事訴訟法6条の2)。
3. 特許権等に関する訴訟の東京地方裁判所から他の地方裁判所への移送
- 審理すべき専門技術的事項を欠くことその他の事情により、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、管轄の原則規定などの規定により管轄権を有すべき他の地方裁判所に訴訟が移送されることがあります(民事訴訟法20条の2第1項)。
- 訴訟の著しい遅滞を避けるための必要がある場合若しくは当事者間の衡平を図るため必要がある場合(民事訴訟法17条)、又は、一方当事者からの申立てとこれに対する相手方の同意がある場合(民事訴訟法19条1項)には、大阪地方裁判所に訴訟が移送されることがあります(民事訴訟法20条2項)。
4. 控訴審の管轄
東京地方裁判所が第一審の審理を行った事件の控訴事件の管轄裁判所は、東京高等裁判所です(裁判所法16条、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律2条別表第5表)。そして、東京高等裁判所の管轄に属する特許権等に関する訴え及び意匠権等に関する訴えの控訴事件は、いずれも、知的財産高等裁判所が取り扱います(知的財産高等裁判所設置法2条1号)。
したがって、東京地方裁判所に提起された特許権等に関する訴え及び意匠権等に関する訴えの控訴事件の控訴審の管轄裁判所は、すべて知的財産高等裁判所になります。
第2 知的財産権に関する保全命令事件の管轄について
1. 特許権等に関する訴えを本案とする保全命令事件
- 特許権等に関する訴えを本案とする保全命令事件は、本案について専属管轄を有する東京地方裁判所又は大阪地方裁判所が管轄権を有するので(民事保全法12条2項本文)、本案について民事訴訟法の原則規定により東日本の地方裁判所に管轄権がある場合は、東京地方裁判所に保全命令事件を申し立ててください。
- 上記1によれば本案の管轄裁判所が大阪地方裁判所となる場合でも、仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所が東京地方裁判所であるときは、東京地方裁判所にも保全命令事件を申し立てることができます(民事保全法12条2項ただし書)。
2. 意匠権等に関する訴えを本案とする保全命令事件
- 意匠権等に関する訴えの本案の管轄裁判所が東日本の地方裁判所である場合には、東京地方裁判所も本案の管轄権を有していますから、東京地方裁判所にも、意匠権等に関する訴えを本案とする保全命令事件を申し立てることができます(民事保全法12条1項)。
- 上記1のほか、仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所が東京地方裁判所であるときも、東京地方裁判所に意匠権等に関する訴えを本案とする保全命令事件を申し立てることができます(民事保全法12条1項)。
以上